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新自由主義から降りるユースワークとは?|福祉研究118にて公開

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この度、特別投稿論文「新自由主義から降りるユースワークへ」が日本福祉大学の学内紀要「福祉研究」にて公開されましたので、お知らせいたします。この論文は、現代社会に広く浸透している新自由主義が、ユースワークや若者政策にどのような影響を与えているのかを分析し、そこから脱却するための新たな視点を提示する試論です。
本稿の着想は、筆者自身がスウェーデンでの若者政策やヨーロッパにおけるユースワーク研究をしていた時の経験に遡ります。論文では、新自由主義という思想・政策がどのように社会に実装され、特に教育やユースワークといった若者に関わる領域に影響を及ぼしているのかを、理論的背景、海外の事例、そして日本の現状を通して考察しています。

論文の主な内容について

新自由主義とは何か?

まず、新自由主義とは、市場メカニズムを社会のあらゆる側面に適用することを重視する思想・政策です。市場原理主義に基づき、政府の介入は最小限に抑えるべきだと主張します。1970年代以降、世界各国で社会福祉からの国家撤退、規制緩和、民営化を引き起こしました新自由主義は、市場のシステム優位性、政府の限定的な役割に加え、「個人主義」と「合理主義」を構成要素とします。これは、個人は自己利益を追求し、その際には合理的に行動するという考えに基づいています。
しかし、新自由主義は民主主義の原則(自由、平等、人民支配)に攻撃を仕掛け、「ホモ・エコノミクス(経済人)」を生み出すともされています。その帰結として、経済成長の鈍化、生活水準の低下、格差拡大、環境悪化などが挙げられ、新保守主義の台頭とも相互に強化し合う関係にあるとされています。また、過剰な消費主義も強化され、成功や消費への欲望が社会に浸透する一方で、それが実現する可能性が著しく制限されるという矛盾も生じています

教育施策とユースワークへの影響

論文では、この新自由主義が若者に関わる領域、特に教育施策とユースワークにどのように社会実装されているのかを具体的に見ていきます。

教育施策への影響

アメリカでは1980年代以降、公教育が新自由主義化され、学校選択制やバウチャー制が導入されました。これにより学校間の競争が促進されましたが、結果として教育格差の拡大や公教育の財政難を招き、「詰め込み学校」化や質の低下につながったと論じられています。スウェーデンでも1990年代に市場原理が導入され、教育の多様化・分権化が進んだ一方、同様に教育格差が拡大しました。ただし、スウェーデンでは子どもの権利保障や脱商品化社会の側面から、子どもへの直接広告禁止などの規制も存在しており、社会民主主義レジームに基づく抵抗も見られることが指摘されています 結論として、教育施策の新自由主義化は、効率性や質向上の名の下に市場原理を導入しましたが、実際には競争の激化や不平等をもたらし、人間の教育を数値化・商品化し巨大ビジネスに変えてしまう側面があると整理しました

ユースワーク現場への影響

欧州のユースワークも新自由主義の影響を受けており、特に緊縮財政施策による財政的圧力に直面しています。現場レベルでは、主に以下の3つの影響が挙げられています。

1.効率性・成果主義の重視

資金調達体制の中で、収支や財源の効率性が重視され、質やプロセスよりも成果の数値化・評価が求められるようになりました。これにより、ユースワーカーは短期的な成果を追求せざるを得ず、ユースワークの柔軟性や創造性が損なわれています。若者中心のノンフォーマルなアプローチと成果主義が矛盾する問題も指摘されています

2.リスク管理への移行

ユースワーカーの役割が、若者のエンパワメントや参画促進から、問題のある若者を「リスク」として評価し、管理する役割へとシフトしつつあることが示されています。オーストラリアの事例では、「リスクある」若者への関わりが中心となり、社会への適応促進に重点が置かれ、若者自身のエンパワメントや社会変革といった視点が後退する傾向が見られます。また、若者の課題が個人的な責任とされ、構造的な問題が軽視される「課題の個人化」も指摘されています

3.専門性の空洞化

新自由主義的な政策は、ユースワーカーの専門的な知識やスキルを軽視する傾向にあり、政府による統制強化や懲罰的な対応が求められることもあります。オーストラリアの事例では、資金提供の形式が助成金から契約・入札へと変化し、政府がワーカーの職務内容への影響力を強めた結果、ワーカーに懲罰的行動が要求されるようになったプロセスが紹介されています。ユースワークが非制度的な実践であることや、専門性・社会的認知の低さが、こうした影響を受けやすくしている背景にあると考えられます。同時に、ユースワーカー自身が専門職化に対して慎重な姿勢を示してきたことも、専門性の空洞化の一因となっているというジレンマも抱えています

日本の若者政策の現状

日本でも新自由主義の台頭は若者政策に大きな影響を与え、「自己責任」論が基調となりました。経済構造改革は長期不況や格差拡大を招き、若年雇用問題が深刻化する中で、「若者自立・挑戦プラン」のような若者支援策が開始されましたが、これは若者に既存の労働市場への「適応」を求める側面が強く、ミカリスが指摘する新自由主義化された教育と一致すると論じられています。社会福祉分野への支出削減も進み、若者支援政策は必要な支援と資源不足の構造的ジレンマを抱えています

新自由主義から降りるための手がかり

論文では、こうした新自由主義の影響から脱却するためのユースワークの視座として、「民主主義」と「余暇」の概念を再評価することの重要性を提示しています新自由主義が民主主義の根幹を侵食するのに対し、民主主義は新自由主義の対抗軸となり、市民が主体となって社会の方向性を決定することが鍵となります
また、スウェーデンの若者政策を例に、「余暇」の重要性がを再評価しています。スウェーデンのユースワーカーは「余暇リーダー」と呼ばれ、その目的は成績向上や就職支援ではなく、「若者が良い余暇を過ごせるように支援すること」にあります。余暇は自己充足的であり、特定の目的を持つ必要がありません。この「余暇観」は新自由主義的な功利主義とは異なり、若者が内発的な動機に基づき、創造性や社会性を育むための不可欠な時間と捉えられています。スウェーデンでは、教育費の無償化や若者団体への助成など、経済的障壁なく若者の社会参加を支える仕組みがあり、これは若者を「社会の問題」ではなく「社会のリソース」として認識する視点に基づいています
これらの議論から、新自由主義を乗り越えるユースワークの重要な手がかりとして、ユースワークの本質的価値(若者中心、ノンフォーマルな学び、自己決定尊重、社会的影響力発揮)の再確認、プロセスや質の重視、構造的視点の強化、社会変革の推進、独自の価値観を維持しつつ専門性を確立すること、若者の生活の自由の拡大、そして連携と協働の強化を挙げました

今後の展望

論文は、これらの手がかりを示しつつも、ユースワークが他領域に「道具化」される脆弱性や、社会適応の側面が強まる可能性といった課題も指摘しています。そのため、今後は社会福祉やソーシャルワーク分野の議論も参照しつつ、国内外の実践事例を収集し、新自由主義を乗り越えるユースワークの可能性を具体化し、現場で活かせる指針を提供することを目指します。

論文へのアクセス

本論文は、以下のリサーチマップにて公開されています。

https://researchmap.jp/tatsuhei-morozumi/published_papers/50180909

ぜひご一読いただけますと幸いです。
最後に本論文は、2年前から細々とやっている「新自由主義から降りるユースワーク研究会」(通称:新ユ研)での議論に多くを負っています。研究会は、日本学術振興会から科学研究費助成事業基盤研究(C)を獲得できたので、今後はこの論文を足がかりにしながら、研究をしていく予定です。
また、この論文では扱えなかったフェミニズムやケアの視点についても今後は含めて検討していければと考えています。

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