このブログ・筆者のプロフィールはこちらから

スウェーデンとフィンランドに学ぶ、「若者の居場所と参画」のつくりかた|北欧ユースセンター訪問を振り返って

この記事は約14分で読めます。

はじめに:ユースセンタープロジェクトとは?

2023年7月23日から7月30日にかけて、スウェーデンとフィンランドを訪問し、ユースセンターのスタディーツアーを実施しました。このツアーは、公益財団法人ベネッセこども基金のユースセンタープロジェクトの一環として行われました。

このプロジェクトは、ユースセンターの社会的認知度を高め、国内外のロールモデルとなるユースセンターを視察することが目的です。近年、日本でもユースセンターへの注目が高まっていますが、自治体職員やユースワーカーから「どのようなセンターを作ればよいのかわからない」という声が多く聞かれます。そこで、ロールモデルとなる事例を現地で視察し、その知見を記事としてまとめて共有することを目指しています。

今回私は、スウェーデンの訪問先のディレクションを担当したのですが、特に夏休み期間中ということもありアポ取りに苦労しました。北欧では6月下旬から8月中旬まで夏休みがあり、多くの施設が閉鎖されています。そのため、訪問できる施設は限られていましたが、現地でお世話になっている佐藤リンデル良子さんにアポ取りをお願いし、スウェーデンでは4施設、2人からのインタビューを実現することができました。フィンランドではNPO法人カタリバの山本晃史さんがコーディネートを担当し、4施設を訪問しました。

参加メンバー

参加メンバーも多様で、ユースセンターの元センター長、政策官、Chance for All 、Leaning for All などのNPOの職員、フリーライター、そして公益財団法人ベネッセ子ども基金の方々など、様々な立場の人が集まりました。

スウェーデンのユースセンター訪問

フリースヒューセット:北欧最大のユースセンター

初日に訪れたのは、北欧最大のユースセンターとして知られるフリースヒューセットFryshuset)です。学校併設型の巨大ユースセンターであり、「フリース(冷凍)+ヒューセット(家)」という名の通り、もともとは冷凍倉庫から始まった施設です。

特に印象的だったのは「Lovely Days」という夏休みプログラムで、家族と過ごせない子どもたちに向けて、余暇と安心を提供しています。加えて、4部門の一つである社会プログラム部門が「Model for the Future(未来へのモデル)」と改称されていたのも注目点でした。「問題を解決する」ではなく、「未来を信じる」という信念のもと、若者にポジティブなラベルを与える姿勢が強調されていました。

案内を受けながら感じたのは、彼らが言葉の選択を非常に大切にしているということでした。例えば、フリースヒューセットには4つの事業部門があります:学校部門、ユースカルチャー部門、起業支援部門、そして社会プロジェクト部門です。このうち社会プロジェクト部門の名称が「Model for the Future(未来へのモデル)」に変更されていました。これは、社会的課題を「解決する」という表現だと、対象者にレッテルを貼ることになりかねないため、未来のモデルになる人を育てる、未来を信じるという信念に基づいた事業であることを強調するためだそうです。

また、フリースヒューセットでは価値原理(バリュー)を非常に大切にしており、創設者の言葉が壁に貼られ、職員全員がそれを言えるようになっています。多様性の強調も印象的で、社会の分断が進む中で、宗教や政治に関係なく、様々な人が出会える場を作ることの重要性が何度も語られていました。

Carola氏(社会プログラム統括)は、創設者の言葉「私の仕事は不信ではなく人への信頼に基づいている」を引用し、どのような背景を持った若者でも、適切な刺激・環境・仲間と出会えば再出発できるという信念を表明していました。

若者の社会参画のモデルの話も聞けました。フリースヒューセットでは以下の3段階を考えています。

  • 信頼と関係性の構築
  • 若者同士の出会いとツールの提供
  • 影響力の獲得と自立の促進

このモデルは「段階」とは限らず、巡回する「サイクル」であり、個々の若者の状態に応じて柔軟に対応しています。参画に関するモデルは色々とありますが、このように自分たちの現場で考える参画のモデルが体系化されていることは職員の活動のガイドラインにもなっていると考えられます。

さらに、「ストリートペップ」や「モバイルユースリーダー」など、現場に出向いて若者にアクセスするアプローチも紹介され、ほとんどの活動が無料で行われている点も強調されていました。

ハウス・オブ・テンスタ:地域に開かれた安全な場

次に訪問したのは「House of Tensta」です。これは私が以前インターンをしていた「ブルーハウス」という施設で、現在は名称が変更され、運営主体もセーブ・ザ・チルドレンに変わっていました。テンスタ地域は犯罪率が高いエリアで、運営主体が頻繁に変わってきた経緯があります。

案内してくれたユースワーカーは、ソーシャルワークの経験が豊富で、コミカルでファンキーな印象の人物でした。施設内部はかつてのカラフルな雰囲気から、より洗練された落ち着いた色調に変わっていました。朝早い時間に訪問したところ、高齢者がフィーカ(お茶の時間)を楽しんでいる様子が見られ、地域に開かれた場になっていることが印象的でした。

ソーシャルワーカーのYahir氏(センター責任者)

Yahir氏によると、子どもたちは単に活動に参加するのではなく、意思決定やリノベーションなどにも関わっており、「Delaktighet(参加)とInflytande(影響)」というキーワードで語られていました。IKEAとの協働プロジェクトでは、子どもが家具の選定やレイアウト設計にまで参加したといいます。

音楽スタジオは、Tim Bergling Foundation(ティム・バーグリング財団)の支援を受けており、最新の設備が導入されていました。この財団は、28歳で自殺したEDMのDJ「Avicii(アヴィーチー)」の名前で知られるティム・バーグリングのために設立されたものです。

また、地下のミーティングルームでは、テレビの脇に「MVP fritid」というポスターが貼られていました。これはユースセンター内における差別や暴力を防止するためのキャンペーンで、社会規範や暴力の定義、対処法などが記載されていました。このポスターを見て、日本でも児童虐待などの問題が増加している中、暴力や差別が家庭内など見えない形で起きていることに対して、ユースセンターができることがあるのではないかと考えさせられました。

さらに、週3回学校を訪問して教師やソーシャルワーカーと連携するなど、包括的な支援体制が整っていました。それを「タスクシェアリング」と呼び、ユースセンター、学校、ソーシャルワーカーなどがそれぞれの役割を明確にし、それ以上のことはしないというのです。各機関がそれぞれの専門性を活かし、連携することで課題に取り組むという考え方が印象的でした。

「ここに来ること自体が旅行のようだ」と語る子どももいるほど、特別な居場所として機能しています。

ストックホルム氏ハールホルメン地区:行政の視点から

3つ目の訪問先は、ストックホルム南部のファールスタ区にある余暇文化局でした。ここでは、ストックホルム市におけるユースワークの取り組みについて話を聞くことができました。

ハールホルメン区

特に貴重だったのは、ストックホルム市内のユースセンターに関する具体的な数字を得られたことです。例えば、ストックホルム市(人口約100万人)には51のユースセンターがあり、13〜19歳の年間訪問回数は17万6280回、女性の利用割合は34%、訓練されたユースワーカーの割合は50%、障害にフォーカスを当てたユースセンターは7つ、LGBTQ支援をしているユースセンターは8つあるという情報を得ました。

グループリーダーのMaudさんから話を聞けました

これらの数字が明らかになったのは、スウェーデン若者庁がユースセンターの全国調査を実施するようになったからです。近年、ユースセンターの役割や在り方が見直され、国レベルでの調査が行われるようになりました。この調査により、スウェーデン国内には1100のユースセンターがあることも判明しました。

ストックホルムのユースセンターのミッション
「若者に安全で刺激的で意義ある余暇の提供」と明示しています

また、「ローカル・ユースワークのための欧州憲章」という欧州評議会の取り組みについても知ることができました。これは欧州レベルで自治体におけるユースワークを普及させる取り組みで、スウェーデンでも国レベルのワーキンググループが立ち上げられ、ユースセンターの発展を促進しています。

「90年代の予算削減によりユースセンターが壊滅的な打撃を受けた」こともありましたが、新しい社会サービス法により予防的ユースワークの重要性が法的に明記され、ユースセンターの再評価が進んでいます。

さらに、ユースワークの成果指標を測定するための「ログブック(Logbook)」というツールについても紹介されました。これは、ユースセンターの日々の活動データを入力することで、民主主義や社会への影響力など測定しにくい成果を可視化するツールです。フィンランドでも使用されており、日本でも同様のツールの開発が期待されます。

現在、ハールホルメン地区には4つのユースセンターと1つのパークレクがあり、多文化・低所得地域という背景のもと、再統合と協働体制の再構築が模索されています。パークレクは、スタッフ常駐型の遊び場であり、戦後スウェーデンの福祉政策の象徴です。最盛期にはストックホルムだけで200箇所を超えましたが、現在は約50箇所まで減少しています。とはいえ区ではパークレクの再開が検討されており、ユースセンターとの連携も模索されています

パークレク:スウェーデンの遊び場

3日目は阿久根 佐和子さんによる野外教育体験とパークレク訪問です。

スウェーデンの「パークレク(Parklek)」とは公園に職員が配置され、子どもの安全を守る仕組みです。日本でよく知られる「プレイパーク」とは少し異なり、パークレクはより安全性を重視しています。

パークレクの歴史は古く、ストックホルムで最初に設置されたのは1916年で、アメリカやドイツの遊び場のコンセプトを基に、労働者階級の子どもに安全な遊び場を提供する目的で作られました。第二次世界大戦後に急速に拡大し、1960年代には国や自治体がレジャーの重要性を認識するようになりました。1970-80年代にはユースセンターも含まれるようになりましたが、1990年代以降は予算削減の波にさらされました。

しかし、近年では2025年のソーシャルサービス法の中で予防的なユースワークの重要性が再認識され、パークレックも新たな役割を担うようになっています。設置数は減少しているものの、その重要性は変わっていません。

プレイパークとの違い

最初、パークレクを「プレイパーク」と和訳していたのですが、どうも違うことが明らかになりました。どちらも子どもの自由な遊びを大切にしながらも、異なる社会的背景と教育理念に基づいて展開されてきました。パークレクは、20世紀初頭のスウェーデンで労働者階級の子どもたちのために安全な遊び場として始まり、当時、労働者階級の子どもたちの居場所として公園内に「遊び場+見守り」の機能を持たせたのがはじまりだそうです。ドイツの「キンダーガルテン」やアメリカの進歩的教育思想(ジュニア・プレイグラウンド運動など)に影響を受けています。現在ではプレーリーダーのもとで「自由と安全のバランス」を重視する場所となっています。

一方、プレイパークはイギリスで1940年代に誕生した「アドベンチャー・プレイグラウンド(冒険遊び場)」の流れをくむもので、戦後の瓦礫の中から生まれ、「自分の責任で自由に遊ぶ」を合言葉に、子ども自身がリスクをとる経験を保障する空間ということでした。一見似たような取り組みですがニュアンスの違いが現れていました。

Lava:創造と自治のハブ

ストックホルム中心部の文化施設「Lava」は、14〜25歳の若者が主導する創造的スペースです。楽器ライブラリーや電動工具、自由な展示空間が整備され、若者が自ら助成金を申請し、夜間イベントを企画することもできます。スタッフは自らを「コーチ」と称し、「私たちが決めるのではなく、若者が来て語ることが始まりだ」と語っていたのが印象的でした。図書館機能も併設されており、安全で予測可能な空間として保護者の信頼も厚く、若者が初めて外部と接触する場所として機能しています。


フィンランドのユースセンター訪問

マニュアルユースセンター:参画ユースワーカーの活躍

フィンランドでは、まずヘルシンキ郊外にある「マヌエラユースセンター」を訪問しました。この施設は図書館やショッピングモールに隣接する、おしゃれな外観の建物でした。内部には大きなホールがあり、若者たちがゲームを楽しんでいました。

ここで印象的だったのは「参画ユースワーカー」の存在です。フィンランドではユースワーカーの資格は高校レベルや専門学校レベルで取得できますが、「参画ユースワーカー」は大学で環境問題などの専門分野を学んだ上で、その専門性を活かしてユースワークを行う人を指します。彼らはユースセンター内の若者参画だけでなく、地域全体の参画も担当しています。

ヘルシンキ市のユースセンターはいくつかのユニットに分かれており、参画ユースワーカーはそのユニット(3つほどのユースセンター)を統括する役割を担っています。このように体系化されたキャリアパスがあることは非常に興味深いと感じました。

Oodi:民主的公共空間の極致

次に訪問したのは、世界的に有名な図書館「Oodi」です。日本語ガイドの案内で、施設の仕組みや空間設計について詳しく知ることができました。フィンランド独立100周年事業として建設されたOodi図書館は、設計・機能ともに「市民のリビングルーム」としての理念を体現しています。防音スタジオ、3Dプリンター、缶バッジ機などが並ぶ2階の“クリエーションスペース”では、若者や市民が自由に創造活動を行っていました。
Oodiはフィンランド社会の縮図とも言える空間で、3階には子どもの遊び場、図書館、カフェ、学習スペースなどが共存しています。会議室の内部が見える設計や、男女を問わず育児中の親が使えるユニセックストイレの導入など、多様性と透明性が調和した空間でした。それぞれの空間が音響的にも工夫されており、異なる活動が一つの場所で行われていても互いに干渉しない設計になっています。フィンランドが目指すユニバーサリズムがこの空間に凝縮されていると感じました。

Luuppiユースセンター:DIYと参加の文化

最後に訪問したのは「Luuppiユースアクティビティセンター」です。この施設はテンスタと似たような移民の多い地域にあり、スウェーデンのユースセンターと似たコンセプトで運営されていました。

ここでは若者の参加を促す取り組みとして、ユースカウンシル(若者評議会)が立候補制で選挙を行っていることが印象的でした。また、施設の地下には核シェルターがあり、その巨大な空間を利用してスケートボード場やジムが設置されていました。

さらに地下の巨大空間にスケートパーク、音楽スタジオ、リサイクル工作エリア、短編映画制作設備などが整備されており、すべて無料で開放されています。


振り返りと考察

民主主義とユースワーク

今回のスタディーツアーを通じて、特に印象に残ったのは「民主主義(デモクラシー)」という概念です。スウェーデンではこの言葉が強調される一方、フィンランドではそれほど前面に出ていませんでした。しかし、「参加」の重要性は両国で共通していました。

日本の現場に民主主義の概念をどう取り入れるかを考えると、単に言葉だけを導入するのではなく、多様な「人との出会い」、「対話」、「暴力や差別の排除」「自治」など、既にある具体的な言葉や実践と「出会い直していく」ことが重要だと感じました。

フィンランドでは、若者政策の目標として「アクティブ・シティズンシップ(積極的な市民性)」を培うことを掲げています。これは単に選挙で投票するといった政治的な主体性だけでなく、自分の人生や生活について自己決定し、社会に影響力を発揮できるようになることを意味します。その意味ではデモクラシーよりも日本の文脈に落としやすいような気もします。

ただし、「市民性を培う」というアプローチは、教育や個人の能力に依存しがちな側面もあります。特に日本では学校教育の負担が大きい中で、さらに「アクティブ・シティズンシップ」を強調することは、子どもや若者への負担増加につながる恐れもあります。余暇時間の確保や、民主的な環境整備が先決かもしれません。改めて、個人が民主的な主体(アクティブシティズン)となること、社会自体が民主的(デモクラティック)になることの両方が必要だと言えそうです。

ユースワーカーのキャリアパス

フィンランドでは、ユースワーカーが公務員として認められており、長期的なキャリアを築くことができます。一方、スウェーデンではキャリアチェンジする人が多く、訪問するたびに担当者が変わっていることが多いです。フィンランドで案内してくれた60歳のユースワーカーのサムのように、長年同じ職種で働き続けられる環境があることは素晴らしいと感じました。

日本でもユースワークに関わる様々な職種や資格(社会教育主事、放課後児童支援員、スクールソーシャルワーカー、児童指導員、社会福祉士、キャリアカウンセラー、プレーリーダー、保健士など)がありますが、それらのキャリアパスが可視化されていません。ユースワークの資格を新たに作るのは壮大な話ですが、既存のユースワークにかかわる関連分野の人々がどのようにキャリアを形成できるのかがわかるようになるだけでも、若きユースワーカーにとって役に立つのではないでしょうか。

今後の展望

ユースワークという分野はまだ社会的認知度が低く、様々な主義主張やこだわりがあります。しかし、それらにこだわりすぎて前に進めないことは、子どもや若者の生活空間を守るという本来の目的を見失うことになりかねません。

今後は、ユースワークという言葉にこだわろうがこだわらまいが、子どもや若者の生活空間や居場所を作り、守っていくために、様々な分野が連携して基盤を整えていくことが必要です。また、この領域が5年後、10年後にどうなっているのかを見据えた取り組みも重要だと感じました。

おわりに

今回のスタディーツアーでは、参加者との振り返りの時間を何度も持ち、学びを共有できたことが大きな経験でした。北欧のユースセンターの実際の姿を見ることで、言葉だけでは伝わらない空気感や景色、社会の雰囲気を5感で共有できたことが何よりも嬉しかったです。「民主主義」や「余暇」を概念として知るだけでなく、ビジョン(Vision)として視覚的に捉えることは大きいです。

今後は、ユースセンターにおける成果指標の体系化、スウェーデンのユースワーカーの招聘、ユースワークと民主主義の関係性の体系化などに取り組んでいこうと思います。

参加者のみなさん、コーディネーターの佐藤さん、阿久根 佐和子さん、そして公益財団法人ベネッセこども基金のみなさん、この度(旅)は本当にはありがとうございました。

ベネッセこども基金のユースセンタープロジェクトの発信は以下のnoteから展開されるようです。どうぞフォローよろしくお願いします。

(公財)ベネッセこども基金|note
未来ある子どもたちが、安心して学習に取り組める環境のもとで、自らの可能性を広げられる社会を目指しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました