18歳選挙権が実現されてからの初めての参議院選挙が2017年の10月に実施された。野党再編に困惑しながらも、教育現場では様々な方法でシティズンシップ教育を実施している様子が各方面でみられた。だが盛り上がりに反して今回の選挙投票率は、53.68%と戦後2番目の低投票率であった。さらに10代の投票率は、18歳の投票率が50.74%、19歳は32.34%と大差が開く結果となった。2016年の衆議院選挙と比較して18歳の投票率は51.28%であったので、0.54%の減少。19歳の投票率
は、42.3%であったので、今年は9.96%と約10%も投票率は低下した。
では選出された議員は若返ったのだろうか?当選議員の年代別の割合を多い順にみると、50代で33.1%。次が40代で26.9%。その次に60代、70代、そして最後に30代の7.1%と続いた。特筆すべきは20代の政治家がいないことだ。衆議院は25歳で出馬可能にもかかわらずだ。
投票率だけが若いわけではないスウェーデン
対照的にスウェーデンでは、30歳未満の若手国会議員の割合が10%を占める(18~24歳 :2.3%、25~29歳: 8.3%)。16年3月時点で、国会議員の最年少の議員は穏健党青年部所属の22歳のヤスペル・カールソンだ。また2014年に発足した社会民主党連立政権においては閣僚24人のうち30代3人、20代2人が入閣した。政治が実質的な意味で「若い」とは、こういうことをいうのであろう。
この9月、日本のとある新聞社とスウェーデンの若者の政治参加について、現地で若手政治家にインタビューを行ったのだが、先方は自治体の市議で23歳のストックホルムの大学に通う女子大生だったのが印象的だ。スウェーデンは、アントン・アベレに代表される史上最年少の18歳の国会議員も過去に輩出している。日本のように出馬の際に必要な供託金はなく、これまでの仕事を兼務しながら政治家になることができる。
また、選挙制度が比例代表制であるため、若者が政治に挑戦するための参入障壁が低いことも若い政治家を増やす成功要因といえよう。当然、出馬する若い政治家は、若年世代を代表する存在として若者政策を打ち出し、若者にとって意味のある政策を誰が提示しているのかを選挙戦を通じて競い合う。
改めて若者の投票率が81%(2014年)であるスウェーデンにおいてはどのようにして若者の社会的な影響力を高めているのか。今回はその根拠を活発な政党青年部の存在に求めて論じたい。
スウェーデンにおける政党青年部とは?
YEC(若者エンパワメント委員会)との、穏健党青年部への視察時の様子
政党青年部は政党内の青年組織であり、主に、若手の議員で構成されるが議員として当選していなくても所属することが可能だ。スウェーデンのほとんどの政党に青年部があり、国の省庁や県・市から活動のための補助金を受けている。スウェーデンにおける16歳から25歳の若者の青年部の所属率は3.5%で、その所属率は過去10年間に大きな変化はなく相対的に安定し、他の欧州諸国よりも高い水準を保っている。
例えば、スウェーデンの中道左派政権、社会民主党青年部の支部は全国に26あり、2年に一度の総会では全国から249人の党員が集まる。基本的には13歳から30歳であれば誰でも党員になることが可能だ。青年部の活動は多岐にわたり、党大会に向けて青年部の政策をまとめたり、党員の勧誘をしたり、選挙時には学校に招かれて討論会で党の主張を論じたりするだけでなく、若者が政治について気軽に話せる対話の場を設けたりと活動は多岐にわたる。
政党青年部は、政党間で方針の違いは多少あっても、基本的にはどの青年部も同年代の若者の声を代弁し政治へ反映させる役割を担っている。さらにスウェーデンの政党青年部の特徴は、政党青年部が母体となる政党本部とは政策的にも独立して活動をしているところだ。同じ政党なのに本部と青年部で方針が異なった場合は、青年部として本部へ政策の提案をする。なぜなら青年部の役割は若者世代の声の代弁だからだ。
2015年、スウェーデンの人口規模33万人程度の地方都市・ヨンショーピン市にある青年部を訪問した。日本でイメージするような「政党青年部」とは異なり、スーツで身を包むこともなく、「普通」の若者が迎えてくれた。ヨンショーピン市の中道右派、穏健党の会員は全体で2500人。うち青年部は350人だ。青年部は、全体をまとめる本部の他に「大学生部」と、「基礎学校から高校生の部」の二つに分かれている。青年部の会費は年間約560円程度で、本部の会費の約2100円と比べて払いやすく工夫されていた。基本的な活動は、お茶を飲みつつ、気軽な雰囲気の中で政治的な対話を楽しむことだ。日常会話から市政や国政の課題まで内容に制限はない。その延長として、話し合いから生まれた政策アイデアを毎年実施される青年部の党大会で意見表明する機会もある。実際に青年部発で実現した政策もある。ヨンショーピンの隣のハラン市の青年部の若者が、生徒の学校選択権を主張し学校選択制の導入を党大会で提案した。これはその後、穏健党の政策となり穏健党政権下において1991年に国策レベルで採択され、法律化されたのだ。
そして、スウェーデンでは政党青年部が青年会員を増やすため、学校に訪問するキャンペーン活動が認められている。学校長の許可さえあれば訪問が可能で、穏健党青年部はこれまで月に1回程度学校を訪れているが、断られた経験は一度もないという。さらに選挙中には学校から招かれ、政治討論の場にも参加している。一般的に選挙中に学校内で行う討論は、国会に議席を持つ8政党のすべてが参加することになっている。
このようにスウェーデンにおいては政党青年部の活動が、政治全体を「若く」し、そして若い時期からの政治的な活動に携わる中で政治的素養を培う機会になっていることは言うまでもないだろう。民主主義を「教わる」のみならず「実践する」というプラグマティックな発想は、このようにして具現化しているのだ。現在の教育大臣であるグスタフ・フリードリン(31歳)は、11歳から環境党の活動に関わっており、2002年に19歳で議員となった。一期で議員を辞めジャーナリストとして活動後、再び28歳で議員と返り咲いた。このことからもスウェーデンにおいては政党青年部が、若い政治家にとってのキャリアの先駆けとなっているのだ。こうして政治を「若く」しているのだ。
参考文献
http://www.huffingtonpost.jp/tatsuhei-morozumi/young-politics-in-japan_a_23261468/
https://youth-empowerment.jimdo.com/文献/スウェーデン視察報告書2015/