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なぜスウェーデンは子どもの権利条約を法制化するのか?|スウェーデン子どもオンブズマンに聞いてみた

この記事は約26分で読めます。

子ども・若者の生活状況をよくするために重要な役割を果たす第三者機関として、「子どもオンブズマン」というものがあります。「オンブズマン」という言葉は、もともとスウェーデン語で「代理人」を意味し、市民の権利を行政機関が侵害していないかを「監視」する第三者機関を指します。

「子どもオンブズパーソン」とも呼ばれることもあるこの機関は、国連で1989年に採択された子どもの権利条約にのっとり、子ども・若者の権利や利益に影響を与える問題を「監視」する役割を担っています。

オンブズマン制度自体はもともとスウェーデンで最初に生まれましたが、子どもを対象にしたオンブズマンは、ノルウェーで世界に先駆けて1981年に設立されました。日本では1999年に兵庫県川西市が「子どもの人権オンブズパーソン」を最初に設置し、現在は約20の自治体で設置されています

ぼく自身は過去2回の2015年9月と2017年11月に、スウェーデンの子どもオンブズマンを訪れたことがあります。

今回、訪問したときの記録を文字起こしすることができたので、内容を編集してお届けします。先方は、スウェーデン子どもオンブズマン(Barnombudsmannen)の事務局員のエヴァンジェロスさん。何と訪問した2回とも彼が対応してくれたのでした。ですので、今回はカタリバさんとYECさんからの質問を両方とも反映させてお届けします。時空を超えたコラボですね〜。

13000字を超える大作なので、読むのに時間がかかりますが悪しからず。

それではどうぞ。

強い法的権力をもつスウェーデンの子どもオンブズマン

エヴァンジェロスさん

エヴァンジェロスさん
子どもの権利条約には45の条項があり、その冒頭に、「18歳以下の子ども・若者はすべて権利をもっている」と書かれています。その権利の最も基礎的なことは、自分の言葉を聞き入れられる権利、そして自分の持っている権利について知る権利です。

スウェーデンは1990年に子どもの権利条約を批准し、条約にのっとってオンブズマンの事務所を1993年に設立しました。それから、子どもの権利を守るためには条約に沿った法制度を整えないといけないことが分かってきました。スウェーデン政府は毎年、任期6年の子どもオンブズマンを任命しています。

エヴァンジェロスさん
我々子どもオンブズマンがやっていることは、子どもの権利条約を遵守する法制度にのっとって活動することです。ある子どもがトラブルに巻き込まれて法的措置を取る、というような個人のケースを引き受けることは現状ではできないです。しかし、子ども・若者を支援する目的においてオンブズマンは公的機関から公開されていない情報にもアクセスする権利があります。必要ならば担当者と話し合いの場を設けて招集することが可能です。
エヴァンジェロスさん
移民・難民の子ども・若者と関わる場合には、移民庁の職員を招致して話を聞いてもらうことができるといった、法的権力があるのです他にも例えば、16歳以下の子どものうちどれくらいの人数が警察によって収監されているのか、その実態に関する報告を求め、収監されている子どもの待遇を改善するように要請することができます。基本的に他の政府機関、法的機関は子どもオンブズマンからの報告請求を断ることは出来ませんし、子どもオンブズマンが要請した議論の場には必ず出席しなければなりません
エヴァンジェロスさん
他の政府機関同士にはこのような権限を行使できる関係にはありません。この法的拘束力が発揮される場面はしばしばあります。頻繁に起こるわけではありませんけれども・・・今日も地元の政治家に対して呼び出しをする場面がありました。その政治家はその他にもスケジュールがありましたが、子どもオンブズマンの法的拘束があったので、改めてスケジュールを組み直しました
エヴァンジェロスさん
先ほど個人の問題に直接かかわることはできない、といったのですが、社会(福祉)施設に連絡してその個々のケースに対応することならばできます。例えば、家が無くて路上生活を強いられている子どもをみつけ、子どもオンブズマンが直接シェルターを提供してあげることはできなくても、ソーシャルサービスにつなげることは可能です。
エヴァンジェロスさん
現在 (2015年当時) のスウェーデンのオンブズマンはマルムベリさんといって、2008年からオンブズマンを務めています。 任期は6年でしたがさらに3年延長されました。彼はオンブズマンになる前はセーブ・ザ・チルドレンにて、主に南アジア、中央アジアへ家族全員で移り住んで活動していました。少なくとも6・7年はそちらにいたでしょう。また、アフリカにも活動範囲を広げていきました。

2018年1月からは、Anna Karin Hildingsson Boqvist がオンブズマンを務める。

「刑務所の子ども達にも権利が保障されているかどうか」

エヴァンジェロスさん
子どもオンブズマンの組織は、この図のような感じになっています。政府から任命された子どもオンブズマンを筆頭に、必要な事務作業を行う職員を抱えています。子どもオンブズマンの活動報告のために毎年作成しているレポートに携わる職員さんなどです。
エヴァンジェロスさん
私たち子どもオンブズマンの部署で働く全員のミッションは、すべての子ども・若者の声を聴いて、子どもの権利条約を実現させることです。そのために、子ども・若者の声を聴いて、それを政治家に届けることです。そして、ビジョンは2つあります。1つは、すべてのこども・若者が自らの権利に気付いて、その権利が認められていなかったり侵害されていたりする場合において、どこに訴え出れば良いか知っている状態になることです。2つ目は、社会的に脆弱または不利な状況に立たされている子ども・若者、その状況から脱出することです。

エヴァンジェロスさん
これらのビジョンが実現できているかどうか、具体的に評価できるように1年ごとにレポートを作成しています。特に、社会的に脆弱な状況にあるとされる子ども・若者の現状に焦点を置いて作られているのです。非行や犯罪によって拘束されている子ども・若者の権利向上のためのレポートも作成しています。鍵がかけられた場所に拘束されて、自由が制限されている環境にいる、保護観察におかれた子ども・若者の処遇改善も重要なのです。精神医療ケアを受けている子ども・若者の権利にも同様に目を向けなければならないです。
エヴァンジェロスさん
例えば、刑務所に入れられている子ども達にも権利が保障されているかどうか、実際に「刑務所」に入っている子ども(15歳以上18歳未満)から話を聞くなどのリサーチを行って作成したこともあります。テーマレポートは、本人達の声を聴いて作成しています。実際の子どもたちの声を聴くことによって彼らがどのように考え、感じているのかが分かってくる。家庭内でDVが起こっている子どもや、精神的医療ケアの必要な子どもである場合もあります。

レポートのテーマの決め方は、オンブズマン事務所の職員の側でどういった問題に着目すべきか協議して、子どもオンブズマンが省庁の大臣に報告して決定しています。そうすると、具体的なテーマ設定はオンブズマン事務所の職員で決めているということになります。

カタリバ職員A
スウェーデンの現状で、6万人の子どもが学校でいじめを受けていると聞いていますが、これらの改善しきれていない状況に対してはどう思われますか?
カタリバ職員B
それでも減少してきているという感じもありますよね。それを追跡調査するなどをしているのでしょうか。
エヴァンジェロスさん
年次報告書を作成するときに、今後子ども・若者を取り巻く世の中がどうなってほしいかを最後の章にまとめるようにしています。その後のフォローアップとして、また数値を含めて調査をしています。どんな変化にも時間がかかるものですが、少しずつですが着実に変化させることは出来ているのではないかと思っています。目下では、オンブズマン制度の法律が改正されて、オンブズマンが直接子ども・若者の個々の問題に着手することが出来るように権限を持たせるような変化などが望まれています。もう1つは、地方の自治体レベルでオンブズマン制度が敷かれ、オンブズマンの地方担当事務所も設立されてほしいですね。今は国の中央政府に所属しているオンブズマンでしかありません。地域ごとにオンブズマンが存在すれば、国全体で起こす変化よりもより明確に変化させることが出来ると思います。
カタリバ
2018年の年次レポートのテーマが“不平等”となっているのですが、どのように作成しようとなさっているのですか。
エヴァンジェロスさん
ストックホルムのある地域の住宅状況が変化していて、住居の販売の仕方が、賃貸型であった過去15年~20年ほどの間から、過去10年~現在で購入型の住居が主流になってしまったことが挙げられます。住居を購入するほうが賃貸するよりもお金が必要ですよね。そのため住居が手に入る人とそれが困難な人との格差が生まれてしまったのです。スウェーデンは世界でもより格差化が進んでいる国となってしまっています。こうした住宅状況が、ストックホルムの子どもの生育環境に深刻な影響を与えています。

「子どもからの質問には、翌日をめどに可能な限りすぐに回答する」

エヴァンジェロスさん
一般市民からの質問を受けつけて回答する「リサーチユニット」というものがあるのですが、普段ここに寄せられる質問は複雑な内容であることが多く、回答する内容をまとめるために調査をするのですが、これにはかなりの時間がかかっています。また、1年ごとにここで受けつけた質問と回答、それにともなう調査をまとめたレポートも作成しています。子どもからの質問は翌日をめどに可能な限りすぐに最低でも1週間以内に回答することになっており、その他一般人からの質問には、3週間以内には必ず回答をします。もちろん回答をするためには調査を実施します。
たっぺい
どんな質問にもお答えしているのですか。
エヴァンジェロスさん
基本的にできる限りあらゆる質問にお答えしています。家庭の親御さんから自分のお子さんについての質問やその他、すべての子ども若者に関わる質問を受け付けています。
たっぺい
Webページからでも質問を受け付けるのですか。
エヴァンジェロスさん
公式ホームページを開設していて、そこで受け付けています。それと、電話でも受け付けています。18歳以下の子ども・若者であれば午前9時から午後3時、それ以上の年齢は10時から12時までの2時間だけ電話対応しています。だいたい25人くらいの職員がい対応しており、弁護士だったり、ソーシャルワーカーだったり、コカ・コーラの会社員が兼業したりもしています。
エヴァンジェロスさん
電話相談の時間帯だと学校に通っているなどの理由で相談できない、という場合ではインターネットでの相談を受け付けている。リアルタイムでのライブチャット、メッセージを送受信する形のものもあります。24時間受け付けている。過去のQ&Aをアーカイブしていて、参照することもできます。より複雑だったり長かったりする相談内容であったら、メールなど別の形の相談へと誘導しています。
エヴァンジェロスさん
子ども・若者から直接話を聴くこともしています。まず、子どもから話を聴いてもらいたい旨を上記相談窓口などで受け取り、その際記入してもらった連絡先をもとにオンブズマン側からコンタクトを取ります。相談を寄せてくれた子どもに直接会って話を聴きに行きたい場合は、(未成年なので)親に許可を取って会いに行くようにしています。オンブズマンから話を整理するために質問をしていくのではなく、その相談事の当事者である子ども・若者自身で語る言葉を受け止めることが大事なので、より時間がかかっても、子ども・若者から語ってもらう間は遮らずにじっくり聴くことにしています。会いに行って話を聴く場合は、1度会うだけではなく、最低4,5回ほどはオンブズマン事務所から直接出向いて会いに行くようにしています。
エヴァンジェロスさん
子ども達から話をじっくり聴くのには理由があります。それは、例えば精神医療ケアを受けている子どもに関しては、その当事者の子どもたちは、自分のおかれている状況において専門家であるから、彼らの言いたい事がより重要であるという思いで聴くようにしています。我々オンブズマンは、子どもたちがいるところに出向いていくこともありますが、最初から心を開いて歓迎されるばかりではないです。それでも我々が独立した国政機関であることで信頼を寄せてもらえることは大きな意味があります。
エヴァンジェロスさん
2014年には2400万スウェーデンクローナ(約 5 億円)の予算がつきました。政府から受け取っていて、他からの資金は受けつけていません。五年間の目標を立てて、活動しています。子どもの権利条約をどの程度守れているかを報告する義務がありスウェーデン政府は国連からの子どもの権利条約の推進に関する質問に答えることになっています。

「国が条約を批准するだけでなく、国内で法律が整備されて初めて意味がある」

エヴァンジェロスさん
子どもオンブズマンのミッションとして、子どもと若者の声を政策決定者に届けることを掲げています。子どもから集めた声を、代わりに政治家や大臣に伝えるのではなく、子どもたちや若者が自分から伝えるためにその場に参加してもらいます。子どもが自分の権利について知って、その権利を実際に行使するためにはどこに訴えれば良いのかを知っている状態になる、というビジョンを持って活動しています。そのビジョンが具体的に実現できている場面としては、例えばある子どもが学校でいじめを受けていて、その状況が本人にとって好ましくなく、改善すべきものであると知ることができ、どこに要請したら良いのか分かっている、といったことです。子どもが自らの言葉で語ることができるのに、オンブズマンのような大人が代わって伝える必要はあるでしょうか。子ども自身が直に政策決定者と話せばよいのです。
エヴァンジェロスさん
両親と一緒に暮らせていて親の収入で不自由なく暮らしている安定した家庭環境に恵まれない子どもも、精神医療ケアを受けている子どもであっても、18歳未満のすべての子どもが対象となる子どもの権利条約によって守られなければなりません。子どもオンブズマンは、18歳未満の子どもの利益と権利について代弁すること、それから政府機関の役職についている人が、子どもたちのための政策決定・運営をしているのかを監視することが役目です。国連の定めた子どもの権利条約はあくまでも「法律」ではなく、それだけでは義務や保障が生じないからこそ子どもオンブズマンとして、子どもたちのために必要な制度を訴えていく必要があります。国が条約を批准するだけでなく、国内で法律が整備されて初めて意味があるのです。
エヴァンジェロスさん
子どもを授かったカップルに子どもの権利について書かれた本を配り、生まれてくる子どもがもつ権利についての啓発活動もしています。世論の形成にも着手していて、例えば移民の権利の問題に焦点を当て、すべての子どもにも学校に通い、教育を受ける権利があるという訴えかけを各メディアに働きかけることもあります。

子どもオンブズマンのウェブサイトに、政府の作成した統計情報を閲覧できるようにリンクを掲載しています。例えば、学校に通うことに苦労を感じている子どもがどれくらいいるか、家庭が貧困の状態で学校に通っている子どもがどれくらいいるか、など18歳以下の子ども・若者にまつわる情報を、当事者である子ども・若者がアクセスしやすいようにしています。

エヴァンジェロスさん
EU域内の子どもオンブズマンで構成される会合に参加して、各国で子どもの権利条約の認識と条約に則した国内における改善がどれほど進んでいるか、またその改善の施策としてどのような法制度が互いの国で作られているのかなどを確認しあったりしています。子どもオンブズマンも国によって様々で、ある国では他国のオンブズマンより国内での権限が大きかったり、また別の国ではその権限の形・行使の仕方が異なっていたりします。

子どもの声を聴くための方法

エヴァンジェロスさん
子ども・若者に関わる政府機関では、当事者である子どもや若者から話を聞く際に”young speakers”というメソッドを取り入れています。彼・彼女らが話すことをしっかり聞き入れることを目的としていて、子どもや若者が言いたいことを自由に言えるように、聴く側の姿勢を示しています。話の途中で遮らずにひたすら聴くこと、途中で別の話を持ち出さないこと、また図やコラージュ、スライドショーを加えたプレゼンテーションなどを用いて、より情報を盛り込んで伝えることを子どもや若者に勧めています。

個々の子どもや若者が抱えている問題を1つ1つ解決するということはできないけれども、より多くの子ども・若者にとって影響のある政策について、政府機関に直接届けるようにしています。

カタリバ
これまでの話から、子どもオンブズマンの制度の中で、国から任命された「オンブズマン」が主に子どもたちと直接関わる人で、オンブズマンの事務所に常駐している職員の皆さんはその他事務方の作業をしてらっしゃるように理解しているのですが、あっているでしょうか。もっというと、任命されたオンブズマンとそれ以外の職員の方々の違いは、どうなっているのでしょうか。
エヴァンジェロスさん
オンブズマンでもその他職員でも、子ども・若者からの相談を受け付けて個別の回答をすることはできます。基本的には大きな差異はありません。ただし、深刻な事案などに対処するために他の公的機関に協力を求めたり、子どもオンブズマンの法律に基づいて法的権力を行使したりする等の場合は、オンブズマンの責任で行わなければならないです。
学生
スウェーデン国内では、子どもオンブズマンの制度についてどれくらいの人が知っているんでしょうか?
エヴァンジェロスさん
ほとんどの人がその存在については知っていますが、具体的にどんなことをしているかは認知されていないと思います。例えば、マルムベリさん(前の子どもオンブズマン代表)は国内では知られています。彼はよくテレビや新聞に出ていますので。しかし、私の知っている人々は、彼がオンブズマンとしてやっていることをあまりよく知らないみたいです。

我々子どもオンブズマンに、「うちの孫(子ども)が・・・」という個々の問題に対処してほしいといった問い合わせが来ることもあるのですが、そういう場合は法的措置を取ることができる機関で、我々と同じように「オンブズマン」という名前をもっているところに頼るつもりではないかと思います。

子ども達に、我々の存在と目的に対する認知度を上げるために、子どもの権利条約と子どもオンブズマンについて書かれたポスターの掲示もしています。

学生
ポスターを掲示する以外に、学校とのつながりや学校へのアプローチがありますか?
エヴァンジェロスさん
仕組みとして学校とはつながりはないです。しかし、学校内で子どもが相談することができる組織もあります(BEOという)。その組織と連帯して学校に通う子どもにアプローチをしています。個別の相談案件が来た場合は、案件に応じた適切な別の団体へ連絡するよう勧めています。
学生
子どもオンブズマンに下部組織があるのでしょうか?政治家に子ども・若者の声を届ける活動は、ローカルなレベルまたは国政のレベルでやるとして、それはオンブズマンの組織自体が行っているのでしょうか?
エヴァンジェロスさん
地域レベルで独自にオンブズマン制度のもとで活動しているところもあるのですが、私たちは国政に訴えかける別のオンブズマンなので、特につながりはありません。どちらかが下部組織になっているということもありません。確かにそれは興味深い点だと思います。各地方でオンブズマンをしている彼らとは目的が似ているのですが、それぞれ自分たちの方でやることがたくさんあります。お互いに連絡を取り合ったり連帯したりということはほとんどありません。私が知る限り無かったと思います。
学生
スウェーデンのオンブズマンの取っている手法は、誰のために作られているのでしょうか?もっと広げていくことは考えてらっしゃいますか?
エヴァンジェロスさん
子ども・若者に関係する活動をしている全ての組織や団体と連絡を取っています。子ども、若者であれば誰でもオンブズマンの制度を利用してもらいたいですし、彼らのために活動する団体にもこの制度を活かしてもらいたいです。

私たちが作成しているレポートが、より多くの子ども・若者にとって手に取りやすくなるように、堅苦しい報告書というよりハンドブックといった感じになるように工夫しています。ちょっとした漫画なども混ぜながら楽しい要素も取り入れています。

学生
電話での相談窓口で、18歳以下の子ども・若者と、それ以外の大人とで受付時間が違っているのはなぜでしょうか?
エヴァンジェロスさん
子どもや若者は学校に行っていることもあるので、早い時間帯から午後3時まで長めにとってあります。ただ、その他大人に向けてもオープンでなければならないので、月曜から金曜の午前10時から2時間は、最低でも受付時間を確保するようにしています。これは子どもオンブズマン制度の法律で定められています。ただ、基本的に子ども・若者からの問い合わせはメールによるものが多く、その問い合わせに答えるべく、リサーチユニットへ伝達してなるべく早くに返信するようにしています。その他、一般の大人からの問い合わせは電話で来ることが多いです。
学生
18歳以下の子ども・若者から、普段どれくらいの問い合わせが来ているのでしょうか?
エヴァンジェロスさん
具体的な数字は把握していないですが、彼らが学校に通う期間よりも、夏休みなどの休暇期間の方が問い合わせは多くなりますね。彼らが家にいてこちらと連絡を取ろうとすることができる時間帯が増えるので。

子どもからはどんな「声」が届きますか?

学生
どのような内容の相談・質問が寄せられるのでしょうか?
エヴァンジェロスさん
とても様々です。その中でも、例えば「どうして15歳にならないとコンサートへ行くことができないの?」「『夜の10時までに家に帰って来なさい』と親に言われたけれども、本当にそうしなければならないの?」・・・

などといった内容の他に、「両親が別れて暮らしていて、私は母親と暮らしているけれども、父親や兄弟とも一緒に暮らしたい。でも、裁判所が週に2日しか会うことを許してくれない。どうしたらいいのですか?」という家庭の複雑な事情による相談もあります。大人は当たり前と思っていることでも、子どもにとって素直に受け入れがたいこととして我々に相談を寄せてくれています。

大人から寄せられる質問は、より具体的な内容の質問になってきます。例えば精神医療ケアを受けている子どもに対する処置に関して、家族と面会できる時間帯はどれくらいあるか、保護措置の過程でどのような環境に置かれているか、といった内容があります。より具体的な質問になるため、返答する内容も自然と大人に対するものの方が多くなってくるのも確かです。

一方で、学校のクラスから月に1度、子どもオンブズマンへ寄せられた質問に対してまとめて回答するというインターネットを介したチャット形式のやりとりの時間もあります。あまりに多様な分野の質問が飛び交うと回答に時間がかかるので、開催する回ごとにテーマを決めて質問を募っています。質問を寄せてくれた個人を特定できる情報を取り除いたうえで、内容のみをデータに記録して公開しています。

若者が子どもオンブズマンを通じて伝えたいことについて自主的に動画を作成して、オンブズマンのもとへ投稿していることもあります。これらの動画も、作成した本人が政治に訴えたいという場合であれば、政策決定者に観てもらうこともあります。

学生
若者個人で作成された動画が、直接子どもオンブズマンのサイトに投稿されるのですか?

エヴァンジェロスさん

エヴァンジェロスさん
そうではありません。我々が彼らの話を聞いて、社会へ訴えたいこと・伝えたいことを聞いて、一緒に動画を作成・編集したのちに掲載しています。

子どもオンブズマンの活動で実際に変わったことは?

学生たちと

学生
政治へと届けられた案件については、実際に改善されたことはありますか?
エヴァンジェロスさん
精神的医療ケアを受けている子どもの中で、手足をベルトなどで拘束する措置を取る場合があることに疑問が寄せられたことがありましたが、子ども本人の意思に反して体の自由を奪う措置をやめ、そのうえで安全な医療ケアを施せるように環境が整えられたうえで改善されました。
学生
EU域内の子どもオンブズマン同士の会合で、スウェーデンでは他の国より子どもの権利条約を守るように仕組みができていると思われますか?
エヴァンジェロスさん
他の国より明確にできているかどうかは分かりません。ただ、他の国でも行われていなかった部分に焦点を当てていることはあります。例えば、少年刑務所にいる子どものおかれている環境が子どもの権利条約にそったものであるかどうかを監視していることが挙げられます。これに関しては、スウェーデン以外の国にも詳しく伝えるために報告で作成されたレポートの英語版も作られました。その他、強いていうなら国内の子どもの貧困の指標が他のEU域内の国より良い数値になっていることです。

スウェーデンではどれだけ子どもの権利条約が認知されている?

学生
スウェーデンでは一般市民のレベルで、どれくらい子どもの権利条約についての理解が広がっているでしょうか?
エヴァンジェロスさん
子どもの権利条約があって、国が条約を批准しているということは国内では知られています。しかし、市民の中で条約の意味が浸透していくには、まだまだ草の根レベルでの努力が必要です。
学生
スウェーデンが先駆的に子どもオンブズマンの制度を発展させて、より子どもの権利条約の遵守に積極的なのはどうしてでしょうか?
エヴァンジェロスさん
うーん、なぜでしょう、はっきりと答えるのは難しいですね。ただ、スウェーデンはもともと国が国連の条約の批准と遵守に積極的であったことは確かです。とくに社会福祉に関する条約が国連で採択されれば、基本的にそれを批准するという姿勢は以前からありました。
カタリバ
ユースセンターの担う役割には、どんなものがあると考えられますか。
エヴァンジェロスさん

ユースセンターは子ども・若者が放課後にたくさん集まる場所であるので、大きな役割があると思います。しかし、国全体の経済状況が悪くなり、かつてユースセンターがいくつか閉鎖されてしまったことがあります。今現在もその状況と少し似ていると思われます。最近も閉鎖されてしまったユースセンターがあるらしいです。

エヴァンジェロスさん
もう1つ、他の質問を受け付ける前に皆さんに伝えておきたいことがあります。スウェーデンでは、法律を制定する際に、法案に関わる市民団体・関連団体が集まる委員会に議題を提出して、そこで了承を得たうえで法律の制定をする制度があります。我々子どもオンブズマンはこれまで200以上の法案に対して意見を求められました。法案に関する情報ですので、数枚の紙面で示されるのではなく、分厚い紙の束で届けられるわけです。それだけの情報に目を通せる権限があります。

なぜスウェーデンのような福祉国家でも不平等が生じてしまうのか?

カタリバ
子どもの平等を保障することがなぜ重要と考えるのでしょうか。
エヴァンジェロスさん
私の意見として語ることは出来るのですが、動機はそれぞれの言い方だと思いますけれども。人々が平等になることは、間違いなく社会全体の利益になると思います。家庭環境において不平等が生じているならば、子どもの余暇活動にまで影響が波及する可能性が大いにあるでしょう。
カタリバ

スウェーデンのような高福祉・高(税)負担の国の中でも、不平等が生じてしまう理由はなぜだと思いますか?

エヴァンジェロスさん
スウェーデン国内の住宅環境がまず大きく影響していると思います。賃貸で獲得できていた住居が、その価格の上昇から購入(持ち家)型の市場になっていったことがまず挙げられます。かつては公営住宅が多数あり、そこに住まうことで住居を確保する手段が保障されていました。持ち家と賃貸の存在割合はほぼ半々でした。今では2:8で賃貸の方が圧倒的に少なくなっています。そのそれまであった公営住宅を民間業者に売り渡してしまったために、経済的に困難を抱える人々が新たに住居を探そうとするのが難しくなってしまったのです。郊外の方が比較的安価な価格で住居を購入できていましたが、住居を求める人々が郊外に集中するためにやがて郊外の価格も上昇していきました。
たっぺい
僕も、スウェーデンに留学した時に住まいを探すのにとても苦労しました。ある期間はホームレス・・・状態でした。
エヴァンジェロスさん
経済的に負担がある場合は住宅を賃貸するために順番待ちをするのですが、現在だと15~20年は待たされるということらしいです。またはまとまったお金を用意して購入するか。また、それは都会の市街地の話だとして、郊外にて賃貸住宅を手にいれるという手段もありますが、それでも賃貸料金を用意する必要があります。若者が家を出るときは、親からお金をもらうことになりますが、それも結局親の経済力に依存することになります。郊外に人々の目が向いたら、やがて郊外での賃貸料金は自然と上がっていくのでしょうけれども。このような住宅事情に目を付けて、安い住宅を転売することで利益を得ようとする、住宅バブル的な流れも出てきている可能性もあります。

まとめ

いかがだったでしょうか。

「子どもの声を聴く」ことは言うは易しで、スウェーデンの子どもオンブズマンもありとあらゆる手段で、子ども・若者の声を聴くための取り組みをしていることがよくわかります。電話や、ウェブチャットでリーチできるようにしていることだけでなく、Young speakersというメソッドにもその工夫がみられます。僕だったら電話をすることにすら抵抗を覚えるので、そういう意味でこちらから実際に足を運んだり、別の表現手段を用意するのは、当然重要なことです。

日本にも地域自治体レベルで約20団体ほど設置されているということですが、スウェーデンの子どもオンブズマンの違いをあげるとしたら、まず「国レベルの第三者機関」であるという位置づけでしょう。国政レベルでの第三者機関であることに加えて、法的権力が伴うことで、子どもの権利・利益を守るためにあらゆる手段が打てることが強みです。スウェーデンでは逆に、地域レベルで子どもオンブズマンがなく、個別のケースに対応することはできなかったということですが、これも変化を迎えており、ノルウェーのように個別のケースも対応できるようになっていくということです。

また、国の機関として十分な資力が投じられているので、ある特定の子どもを取り巻く社会課題を調査研究するテーマレポートの作成などにも注力ができます。さらに、EU各国内における子どもの権利条約の認識と状況の改善を互いに進捗を報告をしあいチェックできているのは、これもまた国レベルで子どもオンブズマンが設置されているからこそできることです。EUでは、若者政策においてもこのような共同の枠組みが成立しており、あらゆる分野での「伝統」になりつつあります。

子どもオンブズマン事務所のスローガン「子どもには話す権利がある」

エヴァンジェロスさんが「スウェーデンでは法律を制定する際に、法案に関わる市民団体・関連団体が集まる委員会に議題を提出して、そこで了承を得たうえで法律の制定をする制度があります。」と触れていましたが、これはリフォローシステム(Remiss)という枠組みで、スウェーデンの市民団体に与えられている権限です。若者団体にもこの枠組みがありますが、このことから行政機関ではない「第三セクター」の社会における期待と役割がどれだけ大きいかがわかります。

スウェーデンがここまでできるようになっているのは、法律で国に子どもオンブズマンを設置することがを義務づけられていて、その法律でこのオンブズマン制度がスウェーデンの子どもたちのために存在していなければならない、と明確に定められていることもあるのでしょう。

国連の定めた子どもの権利条約はあくまでも「法律」ではなく、それだけでは義務や保障が生じないからこそ子どもオンブズマンとして、子どもたちのために必要な制度を訴えていく必要があります。国が条約を批准するだけでなく、国内で法律が整備されて初めて意味があるのです。(エヴァンジェロスさん談)

この言葉に現れているように実際にスウェーデン政府は2017年7月に、子どもの権利条約を法制化する提案をし、可決されれば2020年1月にも施行されます。

世界的にはまだまだ格差が小さいとされていますが、国内においては社会的な不平等がこれまでになく拡大しつつあるスウェーデン社会において、その影響は子どもの生育環境にも及んでいます。今後、子どもの権利条約が法制化されることでどのような手を打つことができるの注目していきたいところです。

追記

模擬選挙ネットワークの林さん、子どもの権利条約総合研究所の平野さんより以下のようなコメントをいただきました。

Special Thanks 

Katsumata Shunichiro