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「帰ったらディズニーで感動できなくなった」―『福祉大生、スウェーデンへいく』ができるまで

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「もう昨日、ディズニーに行ったんですけど、全然感動しなくて。まじで。もうお土産もおかしい。終わりみたいな」

2024年度の振り返りミーティングで、帰国直後のある学生がオンラインの画面越しにそう語った。笑いが起きた。しかし私は、この一言に本書全体を貫くテーマが宿っていると感じた。(序章)

両角
両角

この3月に思い立って執筆を進めた書籍の方が完成しました。

『福祉大生、スウェーデンへいく――ケアのその先へ 15人が見た民主主義の景色』(晃洋書房、2026年7月30日発売)というタイトルの本です。

Amazonページも公開されましたので、このブログでも改めて紹介させてください。

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きっかけは、2024年の渡航だった

日本福祉大学社会福祉学部で講師をしている私は、2024年と2025年の2回にわたって、学生を連れてスウェーデンでのフィールドワーク、通称「北欧研修」を実施しました。

  • 2024年:学生6人
  • 2025年:学生9人

合わせて15人の学生と一緒に、ストックホルムを中心とした福祉現場を歩いた記録です。この企画で、私が担ったのは「秘書のような最低限の事務」だけでした。学生への北欧研修の案内文にも、こう書いています。

「両角は秘書の如く、最低限の事務的なことしかしません。基本的に北欧研修グループの皆さんで何をするかを決めていってください」

訪問の目的、訪問先の候補、日程の組み方――学生たちと共に考え、決めるプロセスをとりました。これは手を抜いたわけではなく、意図的な設計です。私の専門であるユースワークが最も大切にすることの一つが「若者の参画」――自分たちのことを自分たちで決める自治の経験そのもの――だからです。

だから私は「引率者」ではなく「同行研究者」として、学生たちと並走する立場を取りました。前を歩く案内人ではなく、同じ場で同じ訪問先のドアをノックし、自分自身の研究課題とも向き合う。本書は「私が学生を指導した記録」ではなく、「私と学生が一緒に調査した記録」です。

訪れた場所

阿久根 佐和子さんによる屋外FIKAと野外教育活動(撮影:平林優里)

本書は第1章でスウェーデン福祉の基本構造を概観したうえで、第2章から第10章までを、乳幼児期から高齢期までのライフステージ別に構成しています。

序章 なぜ今スウェーデンなのか?──福祉大生が旅立つ前に
第2章 乳幼児期と家庭支援 ── ファミリーセンター
第3章 就学前教育 ── テラスバーン・ギャラクセン
第4章 虐待対応 ── バーナフース
第5章 インクルーシブ教育 ── ホーカレンゲ学校
第6章 ユースセンター ── フリースフーセット/Lava
第7章 民衆大学と市民形成 ── ストックホルム大学/ブロンマ・フォルクヘーグスコーラ
第8章 障害者雇用 ── SAMHALL
第9章 パーソナルアシスタント ── STIL
第10章 高齢者ケア ── ストーラ・フェンダル
終章 スウェーデン福祉と民主主義、15人の問い

児童福祉、教育、ユースワーク、障害者福祉、高齢者福祉――ライフステージを追う形で現場を回ったことで、学生たちのなかにさまざまな問いが浮かび上がってきました。

なぜスウェーデンには、ヤングケアラーが「いない」のか

ユースセンター内のカフェ

本書の帯にも使っている言葉です。

バーナフースでの、通訳を介したヒアリングのなかで、「(ヤングケアラーの問題は)そもそも起きていない」という趣旨の説明がありました。

実際にヤングケアラーが本当にいないわけではありません。しかしこのやりとりから、起きないようにする仕組み、そしてそもそもの社会の構造に大きな違いがある。これに気づけたことが、本書の一つの核になっています。

感受性が鈍ったのではなく、比較感覚を獲得した

スウェーデンの民主主義の歴史について学んだ民衆学校

冒頭の学生は、何かを失ったのではありません。何かを得たのです。スウェーデンで見た「当たり前」を手に入れた後、ディズニーという「感動の装置」が相対化された。感受性が鈍化したのではなく、比較感覚を獲得したのです。

この感覚は、彼女だけのものではありませんでした。別の学生は帰国直後に日本のユースセンターを調べ始めました。また別の学生は「普通って何なんだろう」と問い続けました。さらに別の学生は「問い方を学んだ」と語りました。ある学生は、スウェーデンで食べたパンケーキの味が忘れられなかったそうです。

誰一人として、出発前に予測していた学びを持ち帰った者はいません。15人が、それぞれの仕方でスウェーデンから何かを持ち帰り、それが帰国後も問いとして残り続けました。本書はその記録です。

本の構成

各章の構成には一定のパターンがあります。訪問先の現場で何が語られたか(機関・実践の実態)を先に置き、次に学生がどう受け取り、何を考えたかを重ねる。章末には著者の視点を添える、という順序です。2024年と2025年、両年の学生の声をできる限り同じ章の中に並べることで、「一回の体験」ではなく「継続する問い」として読めるよう試みています。

ユースセンター内の学童とプログレス・プライド・フラッグ

終章では、15人の記録を通して見えてきた「福祉」と「民主主義」の接続を論じています。スウェーデンの現場で「民主主義」という言葉が繰り返し現れたのは、偶然ではありませんでした。

書誌情報

  • 書名:『福祉大生、スウェーデンへいく――ケアのその先へ 15人が見た民主主義の景色』
  • 著者:両角達平(日本福祉大学社会福祉学部 講師)+日本福祉大学社会福祉学部生15名との共同調査
  • 出版:晃洋書房
  • 発売日:2026年7月30日
  • 判型:A5判・176頁
  • ISBN:978-4-7710-4064-9

おわりに――ギャップを見てしまった人へ

「見てしまった」ことは、知らなかった頃には戻れないということです。それは絶望ではなく、変化のための出発点です。

オープン保育園の内部(撮影:永田雄大)

本書を読んでいるあなたは、本書の学生と同じスウェーデン経験はないかもしれません。それでも、15人の問いの記録を読み進めるなかで、「なぜ日本ではこれができないのか」と感じた瞬間があったとすれば、それはすでに始まっています。

両角
両角

「ふくし=ふつうのくらしのしあわせ」――この言葉がどう響くか。それを問いの出発点にしてもらえたら嬉しいです。

あなたが「感動できなくなる」としたら、何がそのきっかけになるでしょうか。

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