スウェーデンの若者の投票率が高い理由 http://www.ungidag.se/
スウェーデンの若者白書の2016年版「Ung Idag 2016」が出ていたので、ざっと読んで現在のスウェーデンの若者の生活状況を把握してみました。ということで拙訳をシェアします。また、スウェーデンの若者の政治参加の統計データの詳細もみてみました。
全体的にポジティブな傾向。一部は依然と残る困難な生活状況
というのがヘッドラインの今回の白書でした。スウェーデンの若者の失業率は減少し、若者の経済状況は改善しました。しかし、精神疾患に悩まされる若者、大学進学の学力がない若者は増加し、ニートの若者は減少していないことが明らかになりました。
また、スウェーデンの若者の生活状況は、どの地域に住むか、男子であるか女子であるか、スウェーデン生まれか海外生まれか、で大きく異なります。例えば大学進学のための学力を保持している割合は、女子では80%であるのに、男子となる63%まで下がります。
以下、Good NewsとBad Newsにわけて、箇条書きでまとめます。
Good News
・失業状態(arbetslösa)並びに長期期間における失業状態(långtidsarbetslösa)にある若者の割合は減少
・若年層の経済状況は改善。借金や負債を抱えている若者が減少し、より多くの若者が学生補助額は十分であると感じている
・若者の選挙投票率は上昇し、選出された若者の数も増加
Bad News
・基礎学校(義務教育)の卒業資格を取得し、高校へ進学する生徒の割合は減少
・就職した若者並びに活動支援プログラム参加後に就学に復帰した若者の割合は減少
・病気などでフルタイムで就労できない若者が受給する活動補助(Aktivitetsersättning)を利用している若者の数は増加
・13歳から18歳の若者は週に最低でも一度は、精神的な病気の症状が出ている
・20〜24歳で両親とともに住んでいる若者の割合は40% (スウェーデンは伝統的に独り立ちの年齢が若かった)
・30%の高校卒業者の学力は、大学へ進学する基準に達していない
若者白書のビジュアライゼーション化
さらに細かいデータをみてみましょう。スウェーデン若者市民社会庁は、一昨年くらい前から若者白書の統計データをただのPDFだけでなく、ネット上でインタラクティブなグラフで公開する取り組みを始めました。
このようにシンプルかつデザイン性の高いデータビジュアライゼーションを実現しています。上から、就労と住居、経済・社会的脆弱性、身体・精神的健康、影響力・代表制、文化・余暇、教育というカテゴリーわけがされています。過去のある時点からの経過がみられるだけでなく、男女、外国生まれかどうか、年齢という変数でグラフをみることもできます。統計局もデータを公表していますが、統計素人のぼくにはこちらの方がはるかに使いやすいです。
今回は、4つ目の項目「影響力と代表制」というスウェーデンの若者の政治・社会参加の状況をみてみました。以下、再び箇条書きでまとめます。
影響力と代表制
・家庭内の意思決定に参加できていると感じる13〜18歳の子どもの割合(2008-2015)
→ほぼ変化なしの90%前後
・社会の課題、海外の出来事、政治に興味があると答えた16~25歳の若者の割合
→社会課題:2009年に若干落ち込むも60%前後をキープ (2004-2015)
→海外の出来事:2007年は70%を誇るも以降は63%前後で安定 (2007-2015)
→政治:緩やかな上昇傾向で男子は47%、女子は39.5% (2004-2015)
・16〜24歳の若者で政党の党員であると回答した若者の割合
→2009年には3.8%だったものが2015年には5.6%へと増加。(以下グラフ)
Ung Idag より
→女性は6.2%、男性は5.1%と女性の党員数の増加が顕著。16~19歳は4.9%、20~24歳は6.4%という差もみられる。
・市議会選挙で指名された18~24歳の若者の割合(2002~2014)
→2002年の4.1%から2014年の5%へと緩やかな増加傾向
・若者の選挙投票率(EU、国、県、地方自治体)
→全体的に増加傾向。30歳以下の若者の投票率は、81%で、18~24歳に関しては82.2%の投票率。詳細はこちらの記事も参考あれ
・地域の意思決定者に意思表明をする機会があると感じている16-25歳の若者の割合 (2004~2015)
→2004年の9.4%に比べて2015年は16.8%なので増加傾向。しかし外国生まれor外国の親を持つ若者とスウェーデン人(便宜上)を比べると、2012年時点では前者の割合が後者より多かったが、2015年の調査ではその数値が以下のように逆転している。
Ung Idagより
また、16~19歳の若者は21.5%、20~24歳の若者は14.7%とこちらでも差がみられる。10代の若者の方が地域に影響を与えられると感じる多い若者が多いのはなぜだろうか。
・住んでいる地域の、自分自身に関連のある問題に影響を与えたいと思っている16-25歳の若者の割合
→2004年は49.4%で、その後一度落ち込むも2015年には45.6%にまで回復。外国生まれ・海外の背景のある若者ほど割合が高い。
前年、何かしらの政治的な活動をした16歳から25歳の若者の割合
・ネットで政治的な話題についてチャット、コメント、議論したか
→9.5%(2004)から21.4%(2015)へ増加
・デモへ参加したことがあるか
→14.4%(2004)から8%(2015)へ減少
・政治的な集会に参加したか
→6.1%でわずかな増加
・組織団体への金銭的な寄付をしたか
→16.3%(2009)から22.3%(2015)へ増加
・政治家に連絡をとったか
→8.1%で大きな変化はなし。ただし外国生まれ、外国の背景のある若者ほどその傾向にあり。
・特定の社会的課題に取り組む団体・組織の会員であるか
→8.5%。2012年より若干落ち込む。
・政治的、倫理的、または環境問題などを考慮して特定の商品を購入したか(オーガニックフードなど)
→31.2%。わずかな増加。女性は約38%、男性は24%と性差あり。
・新聞などの編集者への読者からのメッセージを送ったか
→3.9%。減少傾向
・署名をして意見表明をおこなったか
→52%(2004)から23.6%(2015)へ大きく減少
・インターネット上で、「いいね」をするなどしてある意見を支持したことがあるか(2015のみ)
→全体は56.2%、男子50.7%、女子61.9%で、16-19歳が49.9%で20-25歳が59%。外国生まれ、外国の背景のある若者のほうが割合が少ない
まとめ
いかがだったでしょうか。日本の若者白書ではないような質問項目もあって興味深いですね。
政治参加に関しては、男子よりも女子の方が高い項目があったり、海外の背景のある若者のほうが高い項目、低い項目がちらほら見受けられました。女性の党員数の増加とは驚きです。
また地域に影響力を与えられると感じる海外の背景がある若者の割合が2012年から2015年にかけて大きく減少したのは、2014年の総選挙で露わになったスウェーデン民主党(極右政党)の飛躍や同政党の排外主義的な騒動も一理あるのかもしれません。
しかし全体的には、スウェーデンの若者の政治的な関心と参加は以前よりも増して高まっている傾向にあるといえます。「古い」タイプの政治参加の枠組みであるデモ、署名活動、編集者へのメッセージ、団体の会員は、以前からもスウェーデンの若者政策で指摘されていたように減少傾向にあります。一方でインターネット上での発言や、オーガニックフードの購入などは新しい、若者の政治・社会的な意見表明のやり方故に増えているのでしょう。
16〜24歳の若者の党員の割合が増えていますが、スウェーデンには13歳から所属することができる政党青年部の活動が活発なことも一つの理由でしょう。
政治参加以外では、就労や経済的な状況がよくなっていることは吉報ですが、それ以外の例えば精神疾患や教育の状況があまりよくないことが今回の白書で指摘されました。次回はそれらの具体的な内訳をみていきましょう。