2020年1月に開催れた文教大学での「すき間シンポジウム」の報告書が完成しました。報告書のぼくが講演した部分だけブログで公開いたします。
すき間シンポジウムとは?
すき間シンポジウムとは文教大学人間科学研究科が主催した第7回地域連携フォーラムの企画です。お世話になっている文教大学の青山先生が企画してくださいました。
企画趣旨がすばらしいので、一部を青山先生の投稿より一部抜粋を紹介です。
こうした企画をした背景には、地域が「教育的」になりすぎてしまうことへの懸念があります。
近年、「放課後支援」や「地域の教育力」といった文脈の中で、地域を「教育的」にしようとするさまざまな試みが行われていて、もちろんそれらの多くはとても有意義なものです(僕もさまざまな形で関わりを持っています)。
しかし一方で、地域や放課後が「教育的」になっていくことが、子どもや若者にとってよいことなのかと言われば、必ずしもそうとは言えない気もします。特に、今回取り上げる「遊び」や「居場所」や「参画」は、本来、大人が用意したプログラムの中ではなく、むしろそうした教育的な働きかけの外側に生まれるものです。その意味で、地域を「教育的」にしようとしていくさまざまな試みは、それが「教育的」に組織されるものであるにもかかわらず、いや、むしろ「教育的」で組織されるものであるがゆえに、教育的でなくなってしまう可能性をもっているとも言えます。
したがって、子どもや若者が主体的でいきいきと成長できる地域にしていくためには、地域を教育的なシステムで覆ってしまうのではなく、「遊び」や「居場所」や「参画」が生まれる余地(すき間)を地域に作って/残していくことが重要なのではないでしょうか。
たとえば、
・放課後子ども教室が、子どもたちにとっての7時間目・8時間目の授業のようになってしまっていないでしょうか。
・大人によって用意された「居場所」や「参画」が、若者をかえって
お客さんのようにしてしまっていないでしょうか。
こうした「あるある」の中に、そもそも教育的である必要がない場所まで、教育の論理が浸透しすぎてしまうことの怖さを感じることもあります。
もちろん、「教育」も「地域」も「成長」も本来はもっと多様なものであるはずです。だから重要なのは、ただ「教育的であること」を否定することではなく、さまざまな支援と「すき間」をきちんと両立させるためにはどうすればいいのか、こうした一見矛盾するような状況をどうやって乗り越えていくのか、といった問題を実践の中で考え続けることなんだろうと思います。こうした問題を、いつもさまざまな刺激をもらえる3人のシンポジストと一緒に考えられることを今からとても楽しみにしています。
こうして企画されたすき間シンポジウム。
プログラムはこのとおり。
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第Ⅰ部各地の現場から考える子ども・若者の「すき間」の作り方
①子ども・若者の「遊び」と「すき間」
〜越谷における放課後活動の現場から〜
矢生 秀仁(子ども環境デザイン研究所)②子ども・若者の「居場所」と「すき間」
〜国立市公民館の「コーヒーハウス」の現場から〜
井口啓太郎(文部科学省 ※国立市より派遣)③子ども・若者の「社会参加」と「すき間」
〜スウェーデンのユースワークの現場から〜
両角 達平(文教大学生活科学研究所) -
第Ⅱ部トーク&ディスカッション
シンポジストの3名とフロアのみなさんで一緒に考えます。
進行:青山 鉄兵(文教大学人間科学部)
当日の様子
台風で第一回が流れてしまったりと大変でしたが、100名以上が参加し、スグキクというスマホで反応がみれるアンケートツールを用いたり、コーヒーが出されたりと、まさに「すき間」でありながらもホットな雰囲気な会場でした。
シンポジウムの様子(報告書より)
シンポジウムの議論も盛り上がりました。
報告書ができました!
そして報告書ができました。
2020年1月10日に開催された人間科学研究科主催の第7回地域連携フォーラム・シンポジウム「子ども・若者が育つ「すき間」の作り方〜地域を〈教育〉で埋めつくさないために〜」の報告書が完成しました。
当日は、160名を超える参加者にお集まりいただき、参加者の皆さんと共に学校外での子ども・若者の「すき間」をめぐるさまざまな議論が展開されました。当日参加された方もそうでない方も、当日の雰囲気を感じつつ読んでいただければ幸いです。
文教大学大学院人間科学研究科 ホームページより
当日の雰囲気をできるかぎり伝える工夫が各所に散りばめられています。写真も多く、スライドも挿入されているので読みやすいです。
改めて、このような会にお招きいただきありがとうございました。またシンポジウムの準備、当日の裏方、報告書の作成に携わっていただいた学生さんにもこの場をお借りして感謝申し上げます。
ダウンロードは以下からどうぞ。
第7回地域連携フォーラム・シンポジウムの報告書ができました | 文教大学大学院人間科学研究科
許可をいただいたので、ぼくが講演した部分だけ以下で共有します。※スライドの無断利用はお控えください。
子ども・若者の「社会参加」と「すき間」〜スウェーデンのユースワークの現場から〜
皆さんこんにちは、両角と申します。僕は、スウェ ーデンという国が大好きで、スウェーデンのことが詳しいただのおじさんなので、スウェーデンの話をします。僕自身の話はあまりしません。なのでこうやって皆さんと一緒に客席に座って、正面を向いてお話をしたいんですね。なので、一緒にスライドを見ましょう(笑)。 僕が簡単に自己紹介をしている間に、スウェーデンという国について知っていることをスグキクにいっぱい書いてもらっていいですか。みなさんにとって、スウェーデンといえばなんですか。おお、早い早い、たくさん書いてくれていますね。
報告書より
その間に自己紹介しますね。今は文教大学の生活科学研究所というところで、研究員をしております。他にも非常勤で大学の授業をしたりしながら、若者の社会参加を研究しています。今 31 歳なんですけど、22、23 歳のとき初めてスウェーデンに行ったら、向こうの若者たちがすごい意識高いんですよ。「民主主義」とかよく言うし、政治にも関心が高くて、みんな投票に行ってるんですよ。
さて、改めまして、スウェーデンとはどんな国でしょうか。
実際、国際的な指標においても、ランキングの上位を常に占めている感じはあります。それと、僕が紹介したいのは、意外と税金が高いけれど、ビジネスに適した国ランキングで結構上だったりとか、イノベーションとかのランキングも結構いい、あるいは政治の透明性、もちろん男女平等もそうですが、若者幸福度っていう調査もあって、これは非常に高くて 1 位なんです。あと、ちょっと意味不明なランキングですけど、国の評判ラン キングというのでも 1 位を取ってます。
現在、気候変動問題で、世界中の若者たちが立ち上がって、いろいろ活動してますよね。 グレタ・トゥーンベリが注目されていますが、彼女が生まれた国がスウェーデンです。彼女は 15 歳のとき、2018 年の夏から登校拒否をして、議会の前に座り込んで、抗議活動を開始しました。「気候変動のための学校ストライキ」と書いたこのプレートを掲げて、一人で座ってたんですよ。そうするといろいろな人が入ってきて、世界中に広がっていったんですよね。皆さんも、ニュースや国連でのスピーチなどで彼女のことを知ったと思うんですけど、ノーベル平和賞の候補になるくらいに注目されました。彼女が登場した背景にもスウェーデン社会の面白さがあると思っています。もちろん若者の社会参加でもあるし、やはりその前提としての「すき間」がこの国にはいっぱいあるんだと思っています。
例えば、スウェーデン人って、帰宅時間がめちゃくちゃ早いんですよ、まず日本人の平均帰宅時間は、男性で夜 9 時以降、というふうになっています。まあ大体そうですよね。 専業主婦が多いので、家にいるっていうのは女性のほうが多いです。これが、スウェーデンだとどうなるかっていうと、男性だと午後 5 時で帰る人が一番多いんですね。なので、 仕事を 4 時くらいに終えないと 5 時には帰れないので、みんな帰るんです。女性も3 時、 4 時で帰る人が多いっていうか感じ。まず、仕事を終えてからの時間が非常に長いということなんですね。いろんな指標でそういうことが証明されているわけですね。
OECD が出しているワークライフバランスの指標でも、日本は 34 位ですけど、スウェーデンは 7 位になっています。もう一つ指標があって、こちらの方が大きな差がありますが、1週間に 50 時間以上働いている労働者の割合が日本は 23%なんですけど、スウェーデンは 1.1%しかいないです。つまり日本は働きすぎている人が多い一方で、スウェーデンはそうではない、ということがこれでわかると思います。
では、若者はどうなんでしょうか。スウェーデンの人口はさっき 1 千万人って言いまし たけれども、13 歳から 25 歳の人口は 150 万人といわれています。そのうち、4 人に 1 人 がストックホルムに住んでいます。84%がスウェーデン生まれで、残りの 16%は海外の背景を持った人です。約 7 割の若者が地域のクラブ活動などに週 1 で参加していたりだとか、ボーイスカウトとかガールスカウトとかの活動に参加している若者の割合は 23%だったり、何かしらの若者団体で活動をしている若者が非常に多いんですね。これは、「フェレーニング」と言われるんですけど、16 歳から 24 歳の若者の約 6 割が所属していて、年齢が上がると、約 7 割が所属している、と言われているので、若い世代だけでも 63 万 人が所属しているということになります。
他にも、日本だったら高校を卒業したら、すぐに大学に行きますので日本の大学入学者の平均年齢というのは 18 歳なんですけど、スウェーデンは 24 歳なんですね。高校を卒業して、すぐに大学行かないんですよ。ちなみに世界の平均年齢は 22 歳です。日本って大学に入学するのがめちゃめちゃ早いんですよ。スウェーデンは高校卒業して、すぐに大学に行く人は 13%しかいません。だから僕は初めてスウェーデンに留学した時に 22 歳だっ たんですけど、周りで一番若かったです。大学院も 26 歳で行ったんですけど、2 番目くらいに若かったですね。
じゃあ、「高校卒業してから何してるの」と聞くと、今はやりたいことがないので、アルバイトして探すといっている若者がいたりとか、高校終わったら夏休みだから、それが終わったらゆっくり旅にでかけたいとか、いま所属している若者団体の活動を続けると言っている若者もいました。あるいは大学進学のために勉強しますと か、アルバイトします、という若者がいたりとか、高校卒業する時点ではあまり決まっていないのが普通っていうくらい若者に「すき間」とかゆとりがあるわけですね。
じゃあスウェーデンの若者はどこで社会参加しているのか、どの「すき間」でどんな 社会参加をしているのか、というのを作った図なんですけど、右側が学校で、左側が 学校外の余暇(fritid)、英語にするとフリータイム、というものがあります。その中に、若者団体の活動があったりとか、学校だったら生徒会とかがありますよね。国全体で生徒会を束ねている組織があったりします。 スウェーデンはスタディサークルっていう大人の生涯学習の活動も盛んなので、大人は大人でいろいろあるんですけど、今日は、若者のためのユースセンターについて、話したいと思います。
スウェーデンのユースセンターはこんな 感じ(スライド)です。もともとミーティングプレイスという意味の施設で、いわゆるセ ツルメントとして広がっていったんですけれども、基本的には学校の13 歳から 25 歳 が対象となっているので、小学校に行っている子どもたちの放課後の場所というよりは、 中学校以降の若者たちが自由に行ける場所だというふうに考えてください。すべての若者が行っているかというと、そういうわけでもなく、対象人口の約 10%弱がこういう施設に行ったりしているというデータがあります。
全国に約 1500 施設というデータがありますけど、完璧なデータでないので、もっと多かったり少なかったりする数字もあります。このユースセンターとか余暇センターには専門の職員さんがいます。職員さんは余暇リーダーという認定資格を持っています。また、社会教育者っていう、日本の社会教育主事やドイツなどの社会教育士のように国で資格化はされてないんですけど、こういう社会教育の課程を修めた人がユースセンターで働くことが多くなっています。また、ボランティアとかインターンの人も入っています。 スウェーデンのユースワーカーがどのような感じなのかがわかる動画を見てみましょう。
スウェーデンのユースワーカ ーは、こういうユースセンターで働く人のことをいいます。
最後にいくつかのユースセンターの紹介をしますね 。スウェーデンには、実は文教大学の北欧研修という授業でも学生さんが視察に行ったところなんですけど、「フリースヒューセット(Fryshuset)」っていうヨ ーロッパでも最大といわれるユースセンターがあります。
ここは、普通のこじんまりとしたユースセンターとは違って、総合商社みたいなかんじで、いろんな事業をやって るんですね。若者が自由にやりたいことをやれることはもちろん、余暇のための施設だけでなく学校も備えていたりして、一方で社会的にしんどい層の若者へのソーシャルワーク的なアプローチもしてします。
就労とか起業支援もやっているんですね。青山先生とも一緒に行ったんですけど、めちゃくちゃ大きい体育館があって、スケートボー ドパークがあって、こういうのがほぼ無料で使えます。フリースヒューセットでは、若い 時にはエネルギーがいっぱいあるから、それを自分がやりたいことをちゃんとみつけて、 それにささげられるようになれば、若者たちはそのことにエネルギーを割くわけで、そうしたら犯罪とかもしなくなると考えられています。フリースヒューセットはいかつい感じの若者を集めて、そういう活動ができるようになっていますね。
ウプサラという都市にある、「レオパー デン(Leoparden)」という女子の参加率が非常に高いユースセンターにも行きましたけども、ここはセンター長の女性の方がとにかく商業的ではないいろんな文化だったり、アートに(若者が)触れるのが大事だという思いを持ってやっています。アンティ ークの家具や本も置いて、カフェみたいなスペースがあるんですね。真ん中にはアトリエがあるんですけど、これも自由に使えるようになっているんです。
他にも 「 ウプサラ 若者の家 (Ungdomenshus i Uppsala)」っていう名前のユースセンターがありました。ここは若者による若者のための若者の家っていうのをコンセプトにしていて、若者たちが若者団体をつくって運営している施設です。ここは、ゲームとかができるスペースがあったり、スケートボードできたりとか、音楽聞いたりとか、いろいろできるんですけども、 市も大人も一切運営に関わってないんですね。ここには余暇リーダーや専門職員もいなく て、若者自身が運営している施設です。
改めて、スウェーデンの若者の社会参加ということでいうと、スウェーデンは若者団体の活動をやっている人が非常に多いんですね。実際には、ユースセンターに行く若者よりも、若者団体をやってる人の方が圧倒的に多いんです。
例えば、若者協議会っていう仕組みがありまして、ヨーテボリ市の場合には、100 人くらいの若者を集めて、この街でやりたいことを実現していくっていうことをやっています。そこでは単に街の課題を話し合うだけじゃなくて、自分たちのやりたいことを、年間 350 万円の予算をもらって話し合って決めていって、若者が住んでいる社会に影響を与えていく、という活動をしています。そんなこともあって、スウェーデ ンというのは若い政治家がいるんですね。たとえば、19 歳の時から市議の活動とかしている若者もいるんですよ。
そして、大人はスタディサークルという余暇の活動がありまして、勉強会とか音楽会、 音楽活動などを、日本でいう公民館みたいなところでやるようなサークル活動がさかんなんですけれども、大人の方も余暇の時間を社会参加につなげていのかなと思います。
結果として、投票率もこの前の選挙の投票率も 80%を超えていて、若い世代の投票率も約 85%だったし、国にとって、自分が住んでいる地域に意思表明する機会があるって感じている若者の割合が多かったり、自分に関連のある問題に影響を与えたいと思っている若者の割合が 45%もいるといたデータにもつながっているのかな、と思っています。
世界価値観調査っていう国際調査で、「あなたの生活にとって余暇はどの程度重要ですか」という質問を、日本、ドイツ、韓国、オランダ、ス ウェーデン、アメリカの人にしているんですけど、とても重要、まあまあ重要って考えている人はどこの国でも多いんですよ。日本人もとても重要だと思ってるんですね。
でも、次の「自分の人生をどの程度自由に決めることができると思いますか」という質問に対し て、肯定的に答える割合は日本がやっぱり一番低いんですよね。
これをさらに 29 歳以下の若者にしぼってみると、思い通りに自由にできるって答えているのが、日本の若者は非常に少ないです。スウェーデンは逆に思い通りに、自由にできるって答えている若者が多いわけですよね。
僕は社会参加って、自分で意思決定することだと思うんですよね。誰かと一緒に協働してやることもあれば、政治に参加する場合もあれば、ユースセンターとかで何かやりたいことをやるっていうことも社会参加だと思うんです。スウェーデンでは、そういうプロセスを経て若者が社会参加しているのかなと思います。
さきほどの「ウプサラ若者の家」を運営している若者に民主主義って何ですかって聞いたら、「自分の声を聞かせることができ て影響を与えることができること」って教えてくれました。なんでこれが大事なのかって聞いたら、
「社会がずっとよくなっていくためには、変化が必要で、変化するためにはいろんな人がいろんなことを考えます。たくさんのことを考える人もいれば、ちょっとのこ としか考えない人もいる、しかし、少ない人が考えるだけでは、いい社会にはなりません。 多くの人考え方が反映される方が良い社会になると思います。」
と言っていました。社会参加って、自分で意思決定をすることだけれど、大きくなるにあたって、他の人と社会に参加するにあたって、いろんな人と生活をしていくことになるわけですよね。そんな中で、 いろんな人と声をすりあわせて、一緒に意思決定をしていくことこそが自分の影響力を高めていくこと、お互いの声を聴きあうっていうことであって、それがスウェーデンでは学校教育でも、ユースセンターでも、若者団体でも行われているんだってことを彼の発言から僕は感じ取りました。
最後にまとめます。日本人も、もちろん余暇を大事だと思っているんだけど、自分の人生を自由に決められると思うと感じている若者は非常に少ないことが分かりました。それがなぜかっていうと、余暇が少なくて、社会参加することなしに育ってきても大丈夫な社会だったからではないか、と思うんですよね。
大人も若者の声を聞かないし、若者が声をあげても何かそれが形になるわけでもないし、というのが当たり前になっていく、という感じですよね。一方でスウェーデンは、子どもや若者にとっての「すき間」が圧倒的に多い し、「すき間」があるからこそ、社会参加できるのかな、と思います。子どもや若者にとって余暇を重視するということが保証されているし、大人も余暇の価値を認めている。 若者が活動できることに、十分に施設もあれば、お金も投じられている結果、社会参加しやすい環境ができるのかな、と思います。
(おわり)
報告書のダウンロードは以下からどうぞ。
第7回地域連携フォーラム・シンポジウムの報告書ができました | 文教大学大学院人間科学研究科