なぜスウェーデンでは差別禁止の意識が強いのか?

いじめ対策

静岡県立大学の国際行動論Bという授業の一コマをいただいて講義をさせていただきました。

ズバリテーマは、「Mr モロズミのヨーロッパ侵略のススメ」

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ちょっとトゲのあるタイトルですが、元ネタを知っている人ならわかるはず。そう、アメリカの社会派ドキュメンタリー映画監督の作品「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ Where to invade next?」が元ネタです。このドキュメンタリーは、沈みゆく大国アメリカに我慢ができなくなったムーアがヨーロッパへ渡り、そこで驚きの社会の事実を目の当たりにしていくという作品です。
アメリカ人も日本人も知らない、ヨーロッパ社会の常識とは?
今回は「Where to invade next? (世界侵略のススメ)」です。「侵略」と謳っていますが、その実はムーアが、ヨーロッパを訪ねる「旅行記」のようなものです。通常の旅行記と一線を画すのは、現地で「アメリカにとっての非常識」を目の当たりにするというミッションを背負っているという点です。

静岡県立大学の国際行動論のこの授業を担当している津富教授からは、このドキュメンタリーの僕バージョンをやってほしいとのことでした。僕自身が4年間ヨーロッパに滞在する中で目の当たりした「え!?」をクイズ形式にしてお伝えしました。(ヨーロッパ侵略と書きながらスウェーデンのことしか話さなかったのは反省です。。)

これらのクイズの後に、解説を加え、なぜそうなっているのかについて話し、最後に人権・民主主義の意識の高いスウェーデン社会がどのようにして形作られたのに触れました。

僕にとっては当たり前のことを話したにすぎないのですが、しかし意外や意外、学生さんにとっては目から鱗のことばかりだったようです。授業の感想用紙を読ませていただきましたが、スウェーデンという国自体のことや大学や若者政策以上に反響があったのは、ジャッキーチェーンとデートのクイズでした。
ジャッキーチェーンのクイズはこの通り。

Q.6 ファストフード店で知らない人に「ジャッキーチェーンに激似だな!」と言われました。周りのスウェーデン人の反応は?

1.無視
2.爆笑
3.激怒

正解はもちろん3番です。ある週末、友人とクラブからの帰宅途中、マクドナルドに寄った時のことでした。酔っ払ったイギリス人四人組のグループに絡まれて話していたところ、「お前、ジャッキーチェーンに激似だな!」と一言。留学をしたばかりの時の僕はただ笑っていただけでしたが、周りの友達は「いやそれはただの人種差別だろ!」と一蹴。さらに近くにいた警備員のおっちゃんも参戦して僕を守ってくれたのです。日本だったらこんなことにならないだろうと、まさに「目から鱗」の体験をしたのでした。

このスウェーデン人の高い人権意識には何があるのか。いろいろ調べていたら、スウェーデンの教育や差別禁止法、その執行を監査する差別オンブズマン制度の存在が確認できたので授業で紹介したのでした。

Friends といういじめ撲滅を掲げるNGOが作ったこちらのスライドでは、人種差別を含むいじめをなくすためによりどころとしているスウェーデンの教育基本法と差別禁止法を紹介しています。

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教育基本法では、学校における不当な扱い、ハラスメント、差別を予防し、起きた場合には調査して措置をとる義務が学校にあることを定めています。差別禁止法では、以下の項目での差別の禁止を定めています。

1.性別
2.性自認・性表現
3.民族・人種
4.宗教やその他の信仰
5.障がい
6.性的指向
7.年齢

これらの項目に基づいて起きた差別を、差別オンブズマン(D.O)に訴えることができます。職権調査を行い、必要であれば警告、どうしようもない場合には訴追します。そしてこれらのケースををまとめ、政府、企業、組合に報告して差別問題の啓発をします。さらに政策提言につなげて立法措置をとるのです。ちなみにFriendsはこれらの学校がこのような差別を含む不当な扱いが起きた際に取る措置のサポートをしています。Friendsが実際に学校に出向いてセミナーをやったり、措置をとるために何ができるか当事者である、教員、保護者、生徒からなるチームを結成して、計画を作り、実行し、そして評価をするといった具合にPDCAサイクルを回します。実際にFriendsと関わった学校は、1年後いじめの件数が半減するというデータもあります。このように差別問題への意識が学校を通じて醸成されていることがよくわかります。

年齢も差別に該当する

松下政経塾のこちらの記事では、「人種差別オンブズマン」と記していますが、Diskrimineringsombudsmannen が名称であり、差別を人種に限っているわけではないので「差別オンブズマン」が正しい訳でしょう。日本だと、差別問題は、人種や障がい、性別(最近ではトランスジェンダーなども)において特に意識されますが、スウェーデンでは「年齢」すらも意識されていることが、差別禁止法の規定(上記の8項目の一つ)からも明らかです。教育・若者支援の現場であからさまな年齢差別は少ないと思いますが、スウェーデンでは普通の大人でもあまり年齢を気にしていないようにもも思います。実際、スウェーデンでの取材で年齢を聞く時には(特に新聞の取材)「あれ?何歳だっけ?」という反応をする人も多いんです。

デートでおごって失敗した理由

もう一つ、学生からの評判が良かったのはデートで失敗したクイズです。

Q.9 スウェーデン人女性とのデートに失敗しました。理由は?
1.遅刻した
2.おごった
3.割り勘にした
4.荷物を持とうとした

こちらの記事を読んだことがある人は正解がわかると思います。

男性がデートでおごるのが当たり前なのは日本だけ?スウェーデンでは嫌われます。
例えば日本で食事をしたとき。同席した人が、自分より若かったり部下だったり女性だったら、おごるもしくは多く支払うことが一般的ですよね。しかしその「常識」が嫌がられる国もあるんですね。スウェーデンで体験した、半年前の苦い経験の反省会をします。

「男性が女性におごる」「男性が女性のカバンを持ってあげるべし」という日本でのデートの必勝法がスウェーデンでは通用するどころか、嫌がられたのです。記事でも触れていますがこの「日本のデートの必勝法」が、スウェーデン人女性には、女性は経済的にも身体的にも男性よりも「弱い」という印象を与え、女性差別につながってしまったのです。「強い人が弱い人を守ってあげる」という発想は、「強者の弱者への眼差し」に基づいた規範意識、つまり父権主義(パターナリズム)に基づくのです。

パターナリズム(英: paternalism)とは、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援することをいう。 親が子供のためによかれと思ってすることから来ている。 日本語では家族主義、温情主義、父権主義、中国語では家長式領導、溫情主義などと訳される。Wikipedia 

パターナリズムは、様々な「力(チカラ)関係」の中で起きます。男女の間のみならず、親と子供、先生と生徒、監督と選手、上司と部下など、一方に力(チカラ)が集中して、権力関係が対等でなくなる場合に特に浮上しやすいです。セクハラもパワハラも同じ原理ですが、一方を弱いとみなし、権力を乱用した最悪の例の一つが体罰です。

スウェーデンは世界で最初に法律で体罰を禁じた国です。セーブザチルドレンが作成した報告書では、「体罰容認派」の非をこう指摘しています。

「理に適った体罰」や「法的に容認される懲罰」といった概念は、子どもを親の所有物とする認識から生まれます。そのような「権利」は、「弱者に対する強者の力」に基づいており、暴力と辱めによって維持されます。

ここでもパターナリズムを「弱者に対する強者の力」と言い換えています。体罰容認派の人たちは、「子どものためだ」として体罰を容認しますが、そもそも子どもを人として対等にみていません。人は元来対等であるのに、デートにおける男女の振る舞いや、体罰などにもみられるように社会が定めた「規範」によって、その対等性が崩れてしまうことがあるのです。

だからこうまでして徹底的に差別を禁じて、人が「人らしく」生きていける世の中にしていこうという試みをスウェーデンは諦めていないということなのかもしれません。

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