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クラブとスケボと学校?スウェーデンNo.1のユースセンターを訪問しました

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2週間前のことですが、フィールドワークで興味深い話しを聞くことができたのでレポートします。僕がストックホルム大学で履修しているChildren, Culture, Globalizationという授業のフィールドワークです。この授業は、Child and Youth Studies学部という日本にはない社会科学分野の授業で、「子どもとは何か?」とか子どもの権利条約とかスウェーデンの教育・若者政策を包括的に学習する内容です。

今回のフィールドワークは、これまでの講義で習ったことをふまえ、子どもや若者と実際に関わっている組織や職業の方をヒアリングし、その組織や職業がどのように子ども若者に働きかけているか、子どもの権利条約をどのように反映しているか、今日のスウェーデン社会の中における今後の展望、などを考察するという宿題です。

僕らのグループは、”Fryshuset(フリーシュフーセット)というユースセンターへ行くことにしました。

フリーシュフーセット(Fryshuset)とは?

フリーシュフーセット(Fryshuset)は、簡単に言うと若者が自由に集うことができる施設を備えた学校です。バスケットボールやスケートボードなどのあらゆる余暇活動ができる施設を備え、多様な社会包摂のプロジェクトにより様々な若者の問題解決に取り組んだ事業などを展開しています。民間のユースセンターであり、学校であります。自称、「スウェーデン・ナンバーワンのユースセンター」らしいです。一応、NGOなので民間団体で、資金もほとんど協賛をとったりして調達しているみたいです。

僕が以前スウェーデンに行ったときに一度訪れた場所で、このヒアリングには最適だと思い、コンタクトをとり、ここへ行くことになりました。(メールを送ったのですが返ってこなかったので、アポなしで訪問したらその場で予定を組んでくれました!!)

渉外担当、二人のプロジェクトリーダーと会い、上述した疑問をぶつけていきました。二人のプロジェクトリーダーが担当していたプロジェクトは、一つはFryshuset Incという起業家支援プロジェクトです。

15歳から25歳の子ども若者向きで、何かやりたいことがあったら、アイディアを持ってきてそれを実現するのを助けるというプロジェクトです。リーダーシップやチームビルディングのワークショップを開いたり、資金集めなどのサポートをメンターと言われる大人の方が助けてくれます。このプロジェクトは起業家支援と言いつつ、ビジネスだけでなく余暇活動(スケボとかバンドとか)も含むこと、またやりたいことがない若者も巻き込むことを重視していました。またこれは「エリート」を育てることを目的としていないというのも強調していました。

もう1人の方が担当していたプロジェクトは、Mission Possible というプロジェクトで、9歳から12歳の、学校の教師とうまくいかない子どもを対象にしたプロジェクトです。

ソーシャルワーカー、教師、セラピスト、ボランティアなどから構成されるチームで子どもだけでなく、教師、家族、近所の住民にも働きかけていることを重視しています。また、子どもの権利についても教えていて、子どもが何歳になったら何をすることができて、それに伴い何をしなければいけなくなるのかという責任についても教えています。それを絵に描いて、学校の先生や親に説明するという宿題を課すことで教師や親も子ども達の権利について知ることができます。

それぞれのプロジェクトのリーダーへインタビューしました。

子どもの権利条約の理念をどのように実現しているのか?

フリーシュフーセットの職員は子どもの権利条約をどの程度認識し、活動を展開しているのでしょうか?そのような質問をしたら、「そんなの人権や子どもの権利条約の根本となる”コモン・センス”ではないか」と一蹴されました。ある職員さんは「そんなの”始めっから”とっくに身体に染みついてるよ。」と。

また別の職員さんは、

「子どもの声を聞かれる権利、つまり子どもの権利条約第12条を重視しています。Mission Possibleでは、保護者や教師に子どもを操作させるのではなくなぜ、どのようにして子どもの声を聞けばいいのかというのを実践的に教えています。子どもについて話すのではなく、子どもとともに話すことを大切にしています。事実、大人は子どもが何をしたいとか感じているかを汲み取ろうとしません。」

とおっしゃっていました。

さらにこのように続けています。

「親に子どもが過剰に保護されるのではなく、子ども達は自ら主体的に現実の世界を体験的に学ぶ権利があると考えています。そうすることで子どもは自分の才能やいいところに気づき、自分を信じることができるようになり自尊心が高まり、世の中にどんな人がいて何をしようとしているのか、というのを自分の手で知ろうと思えるようになるのです。そして自分たちには権利だけでなく責任もあるんだということを少しづつ学んでいきます。」

これらの発言から彼らは、Wyness(課題文献の著者) が”子どもの声”のとこで称しているように、子どもを受動的とみているのではなく、将来の社会の形成に積極的に貢献することができる主体として認識していると考えることができそうです。

昨今のスウェーデン社会での、今後の展望

フリーシュフーセットは、「すべての人が何かをしたいという情熱がある」と考えています。「ある人はその情熱を悪いことに使ってしまうが、それは単にひとりひとりが持っている情熱を使う機会がないからであり、だからフリーシュフーセットはその情熱、才能をもっと価値のあることに使えるように機会を提供をしている」ということです。このような価値観は、Woodheadが著書で論じたように17世紀にジョン・ロックが唱えた「タブラ・ラーサ」的な考えや、性善説的なRomantic discourseに基づくものとも言うことができそうです。

また、社会に何も貢献していないからと決めつけられて取り残されてしまった子ども達のことについても話していました。ある大人は、「子ども達は全てのことから守られていなければいけない」と考えてしまい、ついつい過保護になってしまう。そのような親は”Cotton-parent (cottonには動詞で『仲良くやっていく』という意味がありおそらくそこから生まれた呼び名)”と呼ばれています。しかしフリーシュフーセットの職員は、「子ども達は何が正しくて何が悪いことなのかというのを自分で知ることで責任感を持てるようになるので、親の過保護から解放されるべきだ」と主張しています。これはウードヘッド(Woodhead)が「子どもに能力がないのではなく、能力がないように大人にさせられており、このような状況から子どもを解放しなければならない。大人の若者に対する権利、特権、義務、責任は、すべての子ども若者が利用できるようにしなければならない。」と述べていることと合致しています。

フリーシュフーセットは「子どもの遊ぶ権利」についても触れており、「今日のような社会においては、純粋な創造性や自発性に限りなくリンクしている遊びの必要性とその意義はますます増している」と認識していました。しかし、ある職員は「10歳〜12歳のスウェーデンの子ども達は、しばしば危険な状況に置かれている」とも言っていました。この年齢の子どもは十分に成長した子どもである、と親は認識しているらしいです。しかし、子どもに留守番をさせているときに喫煙や飲酒などをしているというケースがしばしばあるみたいです。(この10歳〜12歳はどうやら大人の監視下に置かれにくい年齢であるらしいです。追及中です。)子どもの発達に相応な余暇、遊びの時間を提供することは子どもの権利条約31条で触れられています。

まとめ

このヒアリングを通じて、フリーシュフーセットは”3つのP”を実現していると言えそうです。”3つのP”とは子どもの権利条約で規定されている、Protection(保護),Provision(供与),Participation(参加), のことです。僕らのグループはこのフレームワークを用いてこのように分析しました。フリーシュフーセットは、Cotton-Parentのとこでも述べたように子どもを過保護し、実際の世の中から隔離するのではなく、逆に子ども達の手によって自ら体験させることで間接的な”Protection(保護)”を実現しています。Provision(供与)は、(もともとこの名前でしたが、わかりにくさもあり現在では「生存と発達の権利」として置き換えられていますが、この意味でも)フリーシュフーセットは子ども達に十分な余暇と遊びの機会を提供することで発達としてのProvisionを実現していると言えます。最後の”Participation(参加)”ですが、これは親や教師に強制させられのではなく、子ども自身のことは本人が決める、という子どもの声や権利・責任を尊重していることで、これを実現していると考えられます。

またフリーシュフーセットは、子どもは一人の人間として「独立している」と考えることは実際的ではないとしています。それよりもコミュニティ、つまり地域、家族、学校を構成する一部の主体だと考え、そのために子ども達だけでなく親や教師、地域の住民も同じようにコミュニティの構成員として子どもを認識し、コミュニティへの参画を保障することを勧めています。

おまけ

僕が最も感心したのは、一緒にヒアリングにいった大学生が「どうやって、ここまで多くの多様な若者たちをプロジェクトに誘っているのか?」と質問をしたら、「そんなのわからないよ。若者達は口コミでフリーシュフーセットのことを知ってくるんだけど、こっちからアウトリーチ(施設やプロジェクトに誘うこと)はこちらからはしないよ。ただ、常に誰でもウェルカムにしてオープンにしていた結果、こうなったんだ。」と言っていたことです。ここにフリーシュフーセットの理念が現れているように思いました。

この言葉もグッときました。

「子どもにとっての”最善の利益”とは何だと思いますか?時には大人が介入したり与えたりすることも子どもにとって利益であることもあり、私たちは授業でこのことを何度も議論してきたのですが…」という質問に対して、「それは両者のバランスが大事ですが、まずはとにかく子どもに聞くことです。彼らに私たちから心を開き、心を開いてもらいましょう。しかし責任を自覚させることも忘れてはいけません。大人への尊敬は、子どもとのいい関係性からくるものです。」

まだ、現場を目の当たりにしてる訳ではありませんが、それでもこのような言葉がすっと出てくるのは本物のユースワーカーの証だと確信いたしました。ここでインターンするのがますます楽しみになった、フィールドワークでした。

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