ものすごい本を読んだのでシェアします。
イタリア5つ星運動のマニフェストの参考文献のひとつにもなったこちらの本。
幸せのマニフェスト(Stefano Bartolini, 訳・解説 中野佳祐)です。
https://amzn.to/2FcvrU5
静岡県立大学の津富宏教授から教えていただきました。すばらしい本の紹介をありがとうございます。
「幸せ」という文字がタイトルにある本に何かしらの「怪しさ」を抱いてしまう気持ちはわかりますが、それもこの本を開くまででしょう。
なぜならこの本は社会の幸福度についてあらゆるデータを提示して論証しているからです。
例えばこんなデータが最初に出てきます。
収入が増えても幸せにならないアメリカ人
1972年から2004年までのアメリカ人の給与水準と平均労働満足度の推移です。 給料が上がっても、仕事で得られる満足度は上がらないと解釈できるデータです。「所得が増えても幸福度は上がらない」とよくいわれることですが、改めてこうプレゼンテーションされると驚いてしまいます。
これもすごいです。
こちらはアメリカとヨーロッパ社会か、どれだけ働く時間を減らしてきたのかを示したグラフです。
アメリカ人はヨーロッパ人と比べるとかなり働いているのです。戦後からヨーロッパ人がどれだけ働く時間を減らしてきたかが一目瞭然です。「欧」と「米」は本当に違うのです。
こちらのマイケル・ムーアのドキュメンタリーを紹介した記事でも、アメリカ人のムーア自身がヨーロッパ(ドキュメンタリーだとドイツとイタリア)の休暇を尊重する制度に驚いている様子が描かれています。
ヨーロッパではアメリカよりも、やはり休暇や余暇が大事されていることがよくわかります。なぜなのでしょうね。
なぜ収入は増えても幸せにならない?
米国で個人の所得は上がり続けても幸福度があがらない理由をバルトリー二は、
①社会関係材の喪失(つながり)
②社会的諸制度への不信感(政府機関など)
③他者との比較文化(あの人のように金持ちになりたいとか)
としています。確かにこれらの要素は、日本でもあてはまる部分があるのではないでしょうか。この話をある学生にしたら「日本では規範を気にしすぎる不自由さがある」と教えてくれました。確かにこれは日本らしい問題ですね。
これらに加えて、消費主義の拡大がいかに社会を蝕んでいるかを指摘しています。
社会を蝕む消費主義の拡大の被害とは?
著者は、消費主義に走る人間は
・幸福度が低い
・生活満足度が低い
・ストレスがある
・精神疾患に罹る確率が高く
・テレビをよくみて
・アルコール・薬物を多用し
・健康状態が悪い
としています。(自分も部分的に重なるところがある気が‥。)
さらに消費主義の拡大は、人と人の関係性にも影響があるということです。他人を「モノ扱い」する人が増えて、関係性の貧困化を招き、結果的に必要なときに頼れるネットワークの中に自分がいない状態を招くということです。
極端な例ですけど、ネットワークビジネスに友人に誘われて縁を切ったという例から、確かに消費主義は人間関係にも影響を与えていることが明らかです。
そんな消費主義の広がりがアメリカでは止まりません。同書によると、「経済的に富裕であることが人生の本質的な目標である」と答えた米国の大学生の割合は、1970年には39%だったのが1995年には74%にまで増えたということです。
消費することが当たり前になると、「消費する故に我あり」と、自分のアイデンティティすらも消費に立脚してしまうことになります。
かつて無償だったものもサービス化して手にしないと「不幸」になるような刷り込みが起きてしまうのです。(多くの有料のレジャーは実は無料でできるものが多かった)
消費主義の拡大に何ができるか?
この本で最も目をひいたのが、消費主義の拡大に対抗する手段としてスウェーデンの事例が出てきたことです。まさか自分の研究フィールドが!と、驚きました。
ここで紹介していたのは、スウェーデンにおける子どもに対するテレビ広告禁止の措置についてです。スウェーデンのテレビ、本当にそうなっていて子どもチャンネルとか多いんですよ。
スウェーデンは12歳以下の子どもを対象にしたテレビ広告を全面的に禁止する法案を1991年に採択しています。
ぼくの専門の知見を加えると、ウェーデンの若者政策のほうでも80年代に若者の消費者主義の拡大に警鐘を鳴らした政府レポートが出されています。これを受けて若者が「自分の人生の消費者」にならないようにするために、若者の社会的な活動に政府補助金が出されるようになったのです。
なぜスウェーデンはこの時期に消費社会の拡大に気づけたのでしょうか。なぜ消費が若者の人生を蝕むと気づいたのでしょうか。消費主義が内発的なインセンティブを抑制してしまうことは行動経済学的にもよく言われていることです(モチベーション3.0とか)。
ここまで読んで、日本で若者が社会参加しない理由のひとつに社会の消費主義化と、その若者への影響もあるのではないかと考えました。
歴史的にも教育の「脱政治化」が進むのに並行して消費主義の拡大がおきてきたように思います。
そしてこの消費主義の拡大は教育にも影響を与えている(競争主義の助長や学びの動機の外発化)ことをバルトリーニは指摘しています。
関連して、本書はしがきでは日本の若者の今の状況このように憂えています。
「(ひきこもりが54万人いることに触れた後で)日本の学校はグローバル市場の要請を満たすように改革されており、世界の中で有数の競争的な学校教育システムを生み出しています。それが若者の不安、不満足、自殺の温床となっています。」
「大学入試の結果が若者の自殺の主要な原因となっていることを考慮するならば、日本の自殺率の高さは過剰な競争を強いる学校教育システムと直接関連しているも言えるでしょう」
いろいろなメッセージのある本ですが、ぼくは消費主義の拡大と社会参加がいかに関連しているか、なぜスウェーデンは消費主義に対抗した政策を打ち出したのか、研究しなければと思いました。
ぜひ一読あれです。