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『子ども若者抑圧社会日本』へのさらなる提言|読書人に書評を掲載しました

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週刊読書人2024年4月19日号 に書評を寄稿しました。

書評した書物は、一般社団法人 日本若者協議会 の室橋さんの著された『子ども若者抑圧社会・日本 – 社会を変える民主主義とは何か』です。

子ども若者抑圧社会・日本
室橋祐貴 光文社 2024年03月21日頃

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両角
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以下、本文になります。なお掲載にあたっては媒体より許可をいただいています。PDFで読みたい方はこちらからダウンロードください。


子ども若者が社会参加できない実態国内外の事例を取り上げた説得力を伴う主張

このままだと、「テロ」が新しい政治参加の手段になってしまうのではないか。

衝撃的な一文ではじまる本著は、子ども若者が社会参加できない日本の実態を包括的に描いたものである。私と同世代である著者は、若者の声を政治に反映させることを目的とした日本若者協議会を立ち上げ活動を続けてきた。2014年に選挙権年齢が18歳に引き下げられたが、その間10年以上にわたって引き下げを訴え続けてきたのが、NPO法人Rights(設立2000年 解散2020年)であった。同団体が2010年に主催したスウェーデンへのスタディツアーへの参加をきっかけに評者も活動に携わってきた。

同団体の活動が低迷する中、それまで手がけていた若年世代の政治参加というテーマや、そのための政治家へのアドボカシー活動や調査研究の活動を自ら引き受け、さらにブーストさせていったのが2015年設立の日本若者協議会であった。

著書で紹介されているさまざまな国内外の事例は、実際に協議会でこの10年間近く実施してきた専門家を招いた研究会や海外への実地調査、若者団体からのヒアリングなどの活動の中で収集したデータに基づいている。評者自身も、スウェーデンの若者政策研究者として情報提供をしてきた部分もあるが、欧州の他国の事例のみならず国内の事例もさまざまに取り上げたことで主張に説得力が伴っている。

著書の終盤には、「若者に『武器』を渡すための5つの提言」がされている。提言は、①被選挙権年齢の引き下げ、②民主主義教育、③学校内での子どもの権利の尊重、④若者団体の活動基盤の整備、⑤国内人権機関の設置、から成るが、若者参画を研究してきた評者からもさらなる提言を3つ付け加えたい。

 ①規範批判教育

規範批判教育(NCP: Norm Critical Pedagogy)とは、社会には性、ジェンダー、人種、階級、性的指向、障害、などの様々な「ノーム(規範)」が存在するが、これらの規範を批判的に分析して内省を促す教育である。規範がどのように自身の生活や日々の価値認識に影響を与えているかを客観的に振り返ることに加えて、規範を維持している権力関係の相対化も行う教育である。規範を定めているのは誰で、誰が恩恵を受け、誰が不利益な状況に置かれているかの分析まで踏み込むものである。

この教育が有効だと考えるのは、日本社会にはさまざまなシーンで規範が支配的な場面があり、その影響が大きいからである。例えば、教員と生徒、上司と部下、先輩と後輩といった上下関係もまた規範の一つであると考えられる。若者を「未熟」とみなし「抑圧」し、いつまでも権限移譲をしないできたことも「規範」に依っているからではないだろうか。相手の上に立つマウンティング的なコミュニケーションを変え、フラットな関係性をベースにした民主的なコミュニケーションを前提としない限り、若者が声を上げるどころか、若者の抑圧が再生産されるだけである。

 ② ユースワーカーの支援

「若者団体の活動基盤」の整備として、若者の活動の拠点としてユースセンターの整備が提言されている。ユースセンターは、ヨーロッパで展開される若者の余暇活動支援の拠点として地域に設置されているものであるが、近年は日本でも近いコンセプトの場所が増えてきたが、実は「青少年教育施設」という名で全国に840施設が存在している (文部科学省, 2023)。

しかし、「青少年自然の家」などの宿泊も可能な非日常的な野外活動施設なども含むため、教育色が強い傾向にある。また、利用者である子ども・若者の声を聴く運営協議会を設置している施設は4割程度であり、その構成員も50代が最も多くなっており、子ども・若者が参画できていない実態がある(両角, 2022)。利用者である子ども・若者の声が聴かれる(参画)ためには、施設の職員やユースワーカーが研修を受ける機会や、キャリアアップができるようにするために、制度設計をしていくことが求められる。

③若者団体の若返り

子ども若者の参画は「若者団体」自体にも求められていることである。地縁の青年団や欧米のYMCAなどの青少年運動にルーツを持つ若者団体は日本には昔から多く存在する。しかし、中には若返りが進まず代表が高齢化している組織も多い。それは「青少年団体」といいながら、若い世代に席を譲って民主化を達成できなかったからである。スウェーデンの若者団体は毎年トップや理事会が選挙で公平に選ばれるが、それは若者世代を代表する組織だからという自覚があるからである。かつての日本の「青少年団体」の二の轍を踏まないよう若者が「循環する」組織を支援する施策求められる。

本書は、日本の若者が社会参画できない・できていない社会環境に構造的にメスを入れるための方策が包括的に述べられている。当事者を含め、あらゆる子ども・若者にかかわる人に広く薦めたい。

引用文献

両角達平. 2022年. 子ども・若者の参画を可能とする青少年_教育施設のあり方とは: 「青少年教育関連施設基礎調査」の結果から考える. 社会教育, 77(10), 42–49.

文部科学省,2023, 社会教育調査-令和3年度結果の概要: https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/kekka/k_detail/1419659_00001.htm, 2024.4.7 参照.

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