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スウェーデンに学ぶ若者参加を支える思想:若者の政治参画 マイノリティーの声も社会へ ①

この記事は約19分で読めます。

先日、4月に登壇したイベントの講演録を頂戴したので、いつものようにブログで共有したいと思います。

SJF アドボカシーカフェとは?

今回のイベントは、市民団体の助成事業を行っているソーシャル・ジャスティス基金(SJF)が主催した「SJFアドボカシーカフェ第52回 若者の政治参画 マイノリティの声も社会へ」です。

静岡を拠点に活動をするNPO法人わかもののまちが、このソーシャルジャスティス基金より助成をうけてあるプロジェクトを進行しています。それは、地域における若者参加を進める仕組みである「ユースカウンシル」についてのハンドブックを作成するというもので、ぼくもハンドブックの検討委員会に入っています。

基金からの助成を得ることができると、このように報告会を開催することができます。今回のイベントはそのような位置づけであり、ここに僕が招待頂いたのでした。

そしてさらに今回は、愛知県新城市の市長である穂積亮次さんもゲスト登壇をする運びになったのです。

愛知県新城市では、「若者議会」という市政における若者参加を可能としている仕組みがあります。単に意見表明の場になっているだけでなく、1千万円の予算をつけて、市長の諮問機関として若者の意思決定を政策に生かしているのです。

その新城市の取り組みを主導したといわれる穂積市長がいったいどのような思いで若者議会をはじめたのか、その理念は何かを聞くことができる機会になりました。

大変、収穫の大きいイベントとなりましたので、以下、会の記録をシェアします。

会全体は、NPO法人わかもののまちの土肥さんの司会のもと

という流れで進行しました。全文を掲載するのは量が多すぎるの今回は、1の僕の講演部分のみを掲載します。

というわけで早速、開会です。

若者の政治参画 マイノリティーの声も社会へ 

NPO法人わかもののまち静岡として今年の2月まで活動していましたが、今年の2月に法人名を変更しまして、わかもののまち静岡から<わかもののまち>になりました。その代表をしております土肥と申します。

私たちのNPOが昨年よりソーシャル・ジャスティス基金から「日本ローカルユースカウンシル・プロジェクト」で助成を受けております。

このプロジェクトは、欧州を中心に広がっているユースカウンシルという、若者の地域社会に参加する仕組みを日本で実体化していこうとするものです。ユースカウンシルは、日本語にすると、「若者議会」や「子ども議会」、「若者協議会」となるかと思います。欧州や最近ではアジア圏でも活発になっているようですが、日本では若者議会や子ども議会は非常に幼稚に扱われてきた、形骸的なものであったという印象があります。そこで、参加を実体化していく仕組みを日本版でどういうふうに開発ができるか、日本の各地の実践者や研究者を検討委員会にお招きし検討していくのを、一昨年の12月から取り組んでおります。1年間、議論を重ね、それを一つのハンドブック――それを見た若者たちが自分たちのまちでユースカウンシルを立ち上げられる――作りに1年間取り組んできました。今年やっと公開できるかなという所まで来ました。

今回、両角さんと穂積さんをお招きしております。両角達平さんは、一緒にユースカウンシルのハンドブックをつくってきた検討会議のメンバーとして参画していただいており、その縁からスウェーデンの若者政策などを紹介していただくということでお招きしております。

穂積亮次さん。最近、新城市の若者議会が有名になってきています。これまでなぜ国内で子どもや若者の参加が実体化してこなかったかというと、子ども議会や若者議会に対する意思決定権や若者たちが実際に行動するための予算が付いていなかったからです。それを新城市は、若者議会に実際に予算を付けて、若者の意思決定に力を持たせていった、影響力を持たせていったところが、大きな特長かなと考えています。なぜ市長のお立場で、その若者議会や若者政策を推進されて来たのかという背景から、そこに対してどういう思いを込められているのかを伺いたいなと今日お招きした次第です。

今日の流れは、まず両角さんと穂積さんからお話をいただいた後、登壇者間で簡単な質疑をやらせていただき、グループの中で対話、その中から質問や意見を前に持ってきていただき、全体で対話をしていくという形を考えています。

スウェーデンに学ぶ若者参加を支える思想

スウェーデンにおける、ユースカウンシルや若者議会など、若者政策や若者参加はどのような思想によって支えられるのかをみなさんと考えられればと思います。

僕と穂積さんのつながりは、僕からの一方的なつながりでした。グーグル・アラートという、あるキーワードが出たら検索結果をメールくれるという機能があるのですが、そこで「若者政策」というキーワードを入れたところ、もう4~5年前になりますが、ぱっと来た通知メールを開いたら、なんと穂積さんのブログにたどり着いたのです。そのブログで紹介していたのが新城市における若者政策の思想などで、「若者を資源とみなす」ということが明言されていた。そこで引用されていたのが、スウェーデンの若者政策の文章でした。その文章は、津富宏さん(静岡県立大学教授)が翻訳をなさったもので、その下訳を僕がしていたのです。というわけで、その文章の前書きに「両角達平」と書いてあるので、僕は一方的にすごくうれしかったのです。それ以来、僕は一方的に新城市をずっと見ていて、今日このように全国的に注目されるような取り組みになったことをうれしく思っております。

スウェーデンに4~5年住んでいました。その間、ブログを書いたり若者活動の支援をしたりしてきました。もともと静岡の大学に行っていたので、わかもののまち静岡とも関わってきました。この四月からは、大学で非常勤講師もしています。僕の活動の原点は、YEC(若者エンパワーメント委員会)という静岡での取り組みで、中高生の活動を大学生が応援するというもので、小さな取り組みですがみなさん頑張っています。

このような活動とともにいろいろ勉強していくなかで、北欧の若者政策やユースワークが非常に進んでいると大学2年の時に知りました。それでスウェーデンについていろいろ勉強して、大学4年で休学して1年半スウェーデンに行って戻ってきて、また向こうの大学に行って、その間いろいろな若者団体やユースワークの取り組み、ユースカウンシルや、主権者教育や政治教育の分野を含めて70以上の団体を訪問してきました。

その中で得た知見をみなさんと共有したいと思います。

若者は社会の資源と認識するスウェーデンと新城市

スウェーデンは人口1千万程の国で、首都ストックホルムは日本の仙台や京都ぐらいの規模のまちだと考えてください。北欧は高福祉・高負担の国がある一方で資本主義的な国もありますが、スウェーデン研究をされている岡沢憲夫さんがスウェーデンを「優しさと厳しさの絶妙なバランス感覚」と表されており、まさにそれが当てはまる国だなと思ってます。

スウェーデンは若者の投票率が高いことが有名ですが、実は学校教育に関しては、あまり良くない成績になっています。国際学習到達度調査(PISA)ランキングを見ますと、フィンランドと日本は同程度に高いのですが、スウェーデンはここ10年くらいぐっと下がっていて15歳の学力という点ではあまり良くなく、フィンランドと大きな差があります。いっぽうで投票率は非常に高いです。年代別の投票率を比較しますと、一番若い世代はどこの国も低い傾向にありますが、スウェーデンは80%を超えていて(スウェーデン総選挙2014年)、日本は35%程と低くなっています(衆議院選2012年)。

スウェーデンの若者は社会参加意識も非常に高いことがスウェーデンの白書から明らかになっています。僕が衝撃を受けた数字は、政党に所属している数や、市議会における24歳以下の政治家の数が約5%に達していることや、地域の政治家に意見を伝えられていると思う24歳以下の若者が約3割もいるというものです。半数近くの人が、その地域の人に自分の関心のあることを伝えたいと思っています。そして、アソシエーション活動や、スタディーサークル等、若者団体がたくさんあって、それに所属している人が半数を超えている。若い政治家もいて、選挙権・被選挙権の年齢は同じで、16歳選挙権も検討しています。若い国会議員も多いです。今の最年少の国会議員は22歳です。現在の連立内閣の大臣にも30代以下の人が3名いて、教育大臣、高校・知識向上担当大臣、国民健康・医療およびスポーツ担当大臣です。

スウェーデンは、これこそ穂積市長が読まれた文章に書いてある若者政策(youth policy)のことなのですが、こういった若者政策があります。この若者政策が長い歴史をもって設置されていて、5つの分野、就労・家庭・学校教育・余暇活動・政治という分野になっています。目的のキーワードを一つ上げるとしたら「影響力」かと思います。目的は「13歳から25歳のすべての若者が、良質な生活環境に恵まれ、自身の人生を形作る力を持ち、コミュニティの発展に影響力を持てるようになること」となっています。若者政策の管轄は、教育庁にある若者・市民社会庁です。

要であるのが、若者をどう認識しているか。スウェーデンの若者政策は、若者を社会の問題ではなく、社会のリソース、資源であると認識しています。

日本にも子ども育成政策や若者政策が最近できましたけれども、大きな違いは何なのか。スウェーデンの若者政策を担当している若者・市民社会庁がやっていることは主に3つあります。調査・研究・出版(子ども・若者白書、テーマレポート)と、協議会の実施(若者団体と若者政策担当大臣との面談開催など)は他国でもみられることですが、最優先の政策は、若者団体への助成金の拠出です。若者団体がいろいろな活動をしていく中で必要な資金を付けています。2014年では約30億円の助成金を106の子ども・若者団体に拠出していて、これは毎年やっています。若者団体の支援を言うだけでなく、実際にお金を出すところまで国レベルでこの規模でやっていることはスウェーデンの強みかと思います。

ではそのお金で実際に何をしているかを見ていきましょう。スウェーデンの若者の参加がどんな場所で起きているのかを3つ、公式の場・余暇の場・その他の場に分けてみました(図1)。

公式の場(Formal)は、学校や政治の場などであり、そういう場で若者がどのように社会参加や政治参加しているのか。社会科の授業や、模擬選挙、生徒会活動、学生組合、政党の青年部、全国若者協議会等があります。

余暇の場(Non-formal)は、公式の場ではない参加の場、だけどある程度目的があって組織活動をする場で、余暇の機会に行われている若者の活動では、若者議会や若者団体、余暇活動施設における活動があると思っています。

それ以外の活動は、その他の場(In-formal)として分類させていただきました。

若者と政治家との権力関係の転換 若者から発して若者の主導で

今日は、余暇の場である若者議会に焦点を当てます。

スウェーデンの若者議会で何が起きているのか。スウェーデンの若者議会はシンプルな活動をしているなという実感があります。みなさん高校生だとしましょう。何かこの地域で何か面白いことをやりたい。この地域でこんな問題があって何とかしなきゃと思っている。だけど、生徒会はやりたくない人――スウェーデンは生徒会も活発なのですが――、政党青年部は政治色もあって違うなと感じる人――いろいろある政党にある若者部は10代から20代まで所属でき、そこで地域の課題を話すこともできますが――、そういう人が若者議会に入るのです。

スウェーデンの第2の都市、ヨーテボリでやっている若者議会を紹介します。12歳から17歳までの若者101人で構成されています。若者議会のメンバーは 選挙で選ばれたり選ばれない場合もあります。やることは基本的に、定期的に集まって自分たちでやりたいことをやっていく。いまこの課題を僕は気になっているから話し合おうということを定例会で話し合って、活動が大きくなったら委員会等を作ってみんなで話し合っていきます。

実際に行政への政策提言につながる場合もあります。地方選挙における16歳選挙権の導入を提言したり、ヨーテボリで走っているチンチン電車を若者は無料で使えるようにしようという活動をしたり、ウォータースライド祭りをやろうという活動もあります。

予算が毎年出ていて、約350万円が自由に使えます。

この若者議会は スウェーデン全国の地域に37団体あります。それらを束ねている全国団体がスウェーデン若者協議会です。束ねているからといって「代表です!」というわけではなく、地域の若者議会の活動をサポートすることを徹底的にやっている団体です。全国の交流会を主催したり、全国の若者議会の声を集めて、それを国に政策提言する時にこの団体が母体となってやったりします。

このスウェーデン若者協議会に所属していない若者議会的な取り組みがあります。公式的なものとそうでないものがある。公式でない団体は、勝手に自分たちで活動しているだけです。

スウェーデン全国若者協議会でやっていることで面白いものの一つに、毎年やっている全国集会があります。組織運営の研修合宿をやります。若者の組織や団体を続けていくのは結構大変なので、みんなで組織運営の方法をシェアしていこうというリーダーシップの合宿です。そういうことを続けていたら、政治家から「若者政策、どうしたら若者に関心を持ってもらえるのか」という相談が相次いだそうで、それについての本を出版したら、とても売れているとのことです。若者と政治家との権力関係の転換が生まれていて、若者の方が上にあるということが起きています。

いろんな方法で若者議会は政策に影響を与えることができています。若者の声を吸い上げる仕組みがあります。地域にいろんな若者団体があり、若者議会や政党青年部もそうです。それらが束になったものがたくさんあります。それが県レベル、国レベル、自治体レベル、それぞれのチャンネルにおいて、若者政策を担当している役職がありますので、そこを入口にして若者の声を伝えられます。全部の若者団体を束ねる若者協議会があり、それが若者sr会(SU)です。こういう重層的な取り組みが若者団体だけでなく、スウェーデンのいろいろな市民団体で起きていて、ひとつの伝統になっているのではないかと思います。

若者を人生の消費者にさせない 社会的な排除を乗り越えて

新城市の若者政策では、若者は問題ではなく資源であるといっています。僕はそれをブログで見て、とても感動したのです。そして、「では、資源の次は何だろう」と考えてみました。

スウェーデンの若者政策の歴史的発展を見ていくなかで、資源の次に大事にした方がいいのではないかということが見えてきた気がしたので共有したいと思います。

スウェーデン若者政策は、1898年に初めて国レベルでやっていこうとなりました。この時はまだ、子ども・若者政策という形でした。都市化が始まる頃で、福祉国家が形成される段階。どんどん国ができていく時に、若者という層がまだ政策の対象になっていなかった。それで若者たちがどんどん街に繰り出したり、路上にたむろしたりというふうになっていった。その不良の若者たちをどうにかしなければいけないと始まったのがスウェーデンの若者政策です。当時設立された委員会はギャングボーイ・コミッティーと呼ばれたように、不良若者を私たち大人が何とかして良くしなければいけないんだという姿勢でやっていました。

この姿勢はどうなのかという問題提起が1940年代になされました。それは、1945年のスウェーデン政府報告書に書かれていました。委員会のある人が「大人が若者の余暇活動の選択に影響を与えることができるのか」と疑問を投げかけました。それはつまり、「若者の活動なのに、なぜ大人が自分たちと違う人たちを変えてあげようとするのか。この姿勢はどうなのか」という問題意識です。そこから政策が変わってきたという流れがあります。それ以来、スウェーデンの若者政策はできるだけ当事者の声を聞く傾向になりました。

1950年代からユースワーク、学校外での活動や余暇活動の推進が本格的になりました。この時期に、「若者は問題ではなく社会の資源である」という視点が入りました。これは、国際連合の1965年の文章に刺激を受けたことが起点となっています。

1980年代からは、もう一つ新しいターニングポイントを向かえて、「若者を消費者にさせない」という視点が導入されるようになりました。市場社会が拡大していくなかで、若者がどんどんお金持ちになって、いろんなサービスも受けられるし、ユースセンターに行けばいろんな職員さんがよくしてくれるということが起きて、若者が消費者化してしまうことが起きているのではないかという報告書が1981年に出されました。「若者が商品や製品の、さらには自身の人生の『消費者』になってしまい、結果として自身の人生も自分で決めることができなくなっている」と書かれています。それ以来、若者団体の活動にいっそう出資することによって、消費者にしないようにして行くということにしました。

1985年、EUの世界青年年に若者の「積極的な市民性」(アクティブ・シティズンシップ)をスウェーデンの教育だけでなく、ユースセンターなど学校外の場所でも強めていこうという流れになりました。

1990年代からは、子どもの権利としての参加など、先進国で起きたのと同じような流れになっているかと思います。

2000年代からは、若者政策に「影響力」や「社会的包摂」という言葉が使われるようになったかと思います。

ヨーロッパにおいて若者政策が浮上した出発点は、若者の社会的排除でした。

なぜ若者参加が必要なのでしょうか。これをまとめた欧州議会の分かりやすい文章を紹介します。

一つ目は、基本的人権だから。

二つ目は、子ども・若者が排除されなくなるから。

三つ目は、若者の成長や学びになり、自信が高まるから。

四つ目は、その政策自体が良くなるから。

五つ目は、積極的な市民になるためには、訓練が必要だから。

日本だとこの5つのうちどれに該当しているのか。たぶん、教育や学び、成長なのではないかと思いますので、ほかの一つ目・二つ目・四つ目を日本は高めるとよいのではないかと思います。

本当の若者参加 大人が操らない

若者参加を考えるためのフレームワークについてお話します。

ロジャーハートの子ども参加のハシゴというのがあります。子ども・若者参加にもいろいろあり、ニセの参加もあります。大人が操ったり、お飾りの参加をさせたりする段階もあります。そうではなく本当の参加というのは、きちんと情報を提供したり、意思決定を大人と一緒にやる、あるいは子ども・若者だけが意思決定し主導していくことなのではないか。そういうことが見えるようにしたのがこのハシゴです。このハシゴに関してはいろいろな議論があります。子ども・若者参画は、このハシゴがあることによって、逆に動けなくなるのではないかと批判している人もいます。

これも参考にしながら、現代における若者参加にはこういうのがあるのではないかと、修士論文で出したのがこの図です(図2)。

一番下の楕円が、若者の参加がどんな場所で起きているかを示しています。いろんな分類を3つにまとめた結果として、政治、教育・雇用、社会・市民に分類し、そのなかにさまざまな若者参加を置きます。

いい参加は、図の真ん中にあるハシゴの上の方で起きるものです。非参加の状態があり、その上に参加の状態があり大人と子どもが一緒に意思決定していきます。さらに上にある、より積極的で多様な参加というのは、若者主導でいろんな人を巻き込んでやっていく状態です。

これらを起こしていくためには何が必要かは、左側にある矢印が示しています。要は、権利として参加が認められているか。さらに、参加のための十分な資源――財源もそうですし、空間や誰かの助け(人的資源)――があるとよいものになる。そして、一番上の「権力関係の転換」とは、子ども・若者をとりまくサポートする人や周りの社会の状況との関係を変えていくことです。主導している人が上から目線で、パターナリズムで私がやってあげようという姿勢で関わってくる人がいたら、権力関係は大人の方が強いですからずっと変わらないものです。この3つがあるとよい参加になります。

参加の目的が右側で、「若者が社会と自分への影響力を高めて、社会的排除を乗り越える」とまとめました。

「若者参加」 教育ではなく市民参加として

もう一つ考えなければいけないのは、若者参加をそれだけで終わらせないためには次なるステップが必要なのではないかということです。

一つ目が、第3セクターのさらなる拡大と若者参画という視点です。

ロバート・パットナムというアメリカの研究者が、「なぜアメリカの対人・信頼関係が下がっているのか」というテーマでずっと研究をしています。この方はアメリカの対人・信頼関係が下がっていると言いますが、北欧はすごく高いのです。他者を信じる社会で、ノルウェーは約70%の人が他者を信じることができると答えていますし、スウェーデンもそうです。日本はアメリカと同じくらいで30%~40%です。

パットナムは、なぜ今こうなっているのかについて、市民活動やアソシエーション活動など第3活動への参加率がどんどん下がっているからだと分析しています。PTA活動やボーイスカウトなど伝統的にあったアメリカの活動に参加している人がどんどん減っていて、それによって信頼関係が下がっているということです。

北欧はなぜ対人信頼関係が高いのかといったら、やはりこういう第3セクターでの活動や市民活動が大きいのではないかと思っています。若者問題を取り扱うところはスウェーデンには伝統的にスタディーサークルや教会活動に元々ありましたし、市民運動やセツルメント運動も昔から盛んでした。

現在、スウェーデンの若者団体を担当しているのが若者・市民社会庁です。これが意味することは、若者団体の活動と市民活動を同列に見ているということです。それぐらい、第3セクターの役割が大きいのではないかと思っています。第3セクターというのは、スウェーデン人のペストフ(Pestoff)による福祉トライアングルにおける第3セクターです。

日本では、第3セクターの若者団体だけでなく市民団体全体がまだまだ弱いのではないかなと思っています。ですから、第3セクターを大きくして活発化していかない限り、若者団体の活動も大きく広がっていかないのではないかと思っています。

欧米の事例を参考にしようというとき、比較的アメリカやイギリスが引き合いに出されます。教育もそうです。NPOの活動や事業レベルにおいてはそれでいいと思うのですが、社会像がアメリカとヨーロッパはそもそも全く違うことを認識しなければいけないと思います。アメリカにおけるユースワークの活動は、学習支援や就労支援などに回収されてしまう。要は、成績を上げたら点数が上げるし、数字で見えるし、就職率が上がったら成果達成となってしまう。一方、ヨーロッパだと比較的そんなことを気にしないという伝統がまだあります。そんな事業にお金を出すんですかということがあります。若者団体の中には、年間1億円ぐらいを国からもらって職員45人を雇ってストックホルムで事務所を借りてということができるのです。こういうのを見ていると、何か違うなと思います。僕らがやってきていることは科学国家・科学主義のアメリカの影響が大きいのではないかと思っています。

二つ目が、「資源」の次の若者政策の理念は何かという視点です。いま出てきたキーワードである「影響力」や「社会的包摂」、財源を付けることとか、「若者を人生の消費者にしない」ということを日本の若者政策で考えていくとよいと思います。

三つ目が、若者参加それ自体に価値があるという視点です。最近ある団体によばれて審査委員みたいなことをやっていたのですが、中高生の活動を応援するという全国の活動を審査委員が審査をする。中高生とともに時間を過ごしてよかったのですが、ぼくは嫌いがあって、中高生が自由にやっている活動を大人が審査するのはすごく日本的で教育的だと思いました。若者参加の活動は好きでやっているのに、審査されるとなれば行くし、優勝すれば大臣賞とかもらえる。これでは結局、教育への回収になってしまうと思うのです。一方で若者は表現の自由としてやっているだけという場合もあります。いちいち教育に回収するのは、何かを捨象するのではないかという危機感があります。

四つ目として、若者参加、若者議会が、ある一部の人しか参加しないようにならないためには、社会的包摂との接続が大事だと思います。イギリスの若者議会(youth parliament)を見に行きましたが、かなりエリートが集まっている傾向があります。一方でスウェーデンは、そもそも政治家自体がアマチュア、ど素人ばかりという感じです。

こういうのを見ていく中で、より多くの人たちの声を聞くためには、そして、関係者以外は立ち入り禁止という表札を社会は自動的につくってしまうと思うのですが、それに気づかせてくれるのは、後者(の一部のエリートに支配された社会ではない多様な人が参画する社会)なのではないかなと思います。

教育と参加の話のなかで紹介されたロジャー・ハートの子ども参画のハシゴについては、シェリー・アーンスタインという方が市民参加のハシゴを子ども参画のハシゴに変えたのが始まりです。ですので、教育的な文脈ではなく、市民参加の文脈として子ども参加・若者参加がスウェーデンで絶対化してきたというのがお話のなかでつながりました。

これからお話いただく新城市の若者議会は所管が「まちづくり推進課」であることは大きな特長だと思います。日本の子ども議会や若者議会をいま全国で調査していますが、ほとんど教育委員会が所管でやっています。あるいは子どもの権利関係の課がやっていることが多いです。まちづくり系の課や、市民参加系・市民協働系の課が若者議会を持っているというのは非常に珍しい取り組みなのではないかなと思います。

(講演終わり)

続きの穂積市長の講演は、次回の投稿でアップします。

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