2025年11月15日・16日の2日間にわたり、茨城県東海村にて「わかもののまちサミット2025」が開催されました。本サミットは、若者の社会参画・地域参画をテーマに、全国各地の実践者や若者、行政、研究者が集い、学び合う場として毎年実施されています。

今年度は「若者もまちづくりの主役だ!」をテーマに、全体会や分科会を通して、若者参画や地域づくりのあり方について活発な議論が行われました。
全国ユースカウンシルサミットも開催!
前日には全国ユースカウンシルサミットも同時開催され、欧州若者評議会の経験をもつルート・エイナルスドッティル氏が登壇しました。
https://x.com/JYCA2024/status/1972551120401875158?s=20
私はこの全国ユースカウンシルサミットにて、ルート氏の通訳を担当し、海外の実践と日本の現場をつなぐ役割を担いました。国際的な視点と地域の取り組みを結びつける貴重な機会となり、多くの参加者にとって学びの深い2日間となりました。

ルート氏とは十年ぶりの最下位でリトアニアで開催されたTransparency International のtraining course で会った仲です。再会と報告内容に感動です。ルートの報告についてはまたまとめようと思います。
わかまちサミットで参加した「評価」の分科会
次の日はわかまちサミットの本番。そして私は評価の分科会に参加しました。
改めて考えさせられたのは、「こども若者政策の評価は、なぜこんなにも複雑なのか」という問いでした。

評価を丁寧にやろうとすればするほど、指標は増え、報告書は厚くなり、現場の負担も大きくなる。一方で、「本当にそれで大事なことが測れているのか?」という違和感も、どこかに残り続けます。
分科会を聞きながら欧州の若者政策やユースワークの評価枠組みを思い返し、「こども若者政策策の評価をどう組み立てていくと良いのか」を三層で整理してみました。
欧州の若者政策は「質をどう見える化するか」の工夫が進んでいる
ヨーロッパでは若者政策の評価に関する具体的なツールがいくつか整備されています。評価を単なる点検ではなく、振り返りと学びのプロセスとして扱う姿勢が共通しています。
ログブック方式(北欧やスロベニアほか)
自治体やユースセンターが
- どんな若者が来ているか
- どんな活動が行われたか
- どんな成果や気づきがあったか
を継続的に記録し、対話の材料にする手法です。北欧などで使われている「ログブック(Logbook)」は、ユースワーカーが日々の活動をデジタルで記録し、統計データとコメントを組み合わせて分析できるようにしたオンライン・システムで、成果が数値化しにくいユースワークの質を可視化することが目的とされています。
Quality Youth Work(欧州評議会/EU)
欧州委員会や欧州評議会では、若者政策を評価する際の視点を整理した枠組みを提供しています。例えばアイルランドの National Quality Standards Framework(NQSF)は、若者中心、多様性と包摂、参加、解決志向といった基準を掲げ、デジタルログブックや若者アンケートなど複数のツールを用いて組織全体の実践を評価・改善するプロセスを示しています。イギリスの National Youth Agency による Quality Mark も、若者の個人的・社会的な成長、実践の質、組織運営の質を評価する枠組みとして知られています。
Youth Work Portfolio(欧州評議会)
欧州評議会が提供する「Youth Work Portfolio」は、ユースワーカーやユースリーダーが自らの実践や若者との関わり、専門性の強み・改善点を自己評価するためのツールです。個人やチーム、組織が自身のコンピテンシーを整理して発展させることを助けるもので、トレーナーや政策担当者も活用できます。評価=学び(reflection)という姿勢がよく表れており、若者支援に携わる人の専門性向上にもつながります。
このような事例を見ると、欧州の若者政策では「評価」を単なる点検ではなく、振り返りと学びのプロセスとして扱っている印象があります。
UNICEF CFCIは「自己評価→外部評価」の二層構造

CFCIを導入している豊田市
ユニセフの「Child Friendly Cities Initiative(CFCI)」では、自治体がまず自己評価を行い、その後、国ごとの仕組みによって外部評価や認証が行われる仕組みが採用されています。ユニセフの評価報告では、支援プログラムが政策レベル、サービス提供レベル、コミュニティレベルの三層で働きかけることが強調されており、内側と外側の評価を重ねることで自治体の振り返りと透明性の両立を狙っているように見えます。
こども若者政策でも、自己評価と外部評価を組み合わせる考え方は応用しやすいと感じました。
三層モデルで考えるこども若者政策の評価
以上を踏まえると、こども若者政策の評価は次の三層で整理できます。
① こども若者中心の「自己評価」
第一層は、こども若者自身の声や経験を中心に据える層です。安心感や関係性、活動の質、参加してどう感じたか、生活や意識の変化などを丁寧に捉えます。Youth Work Portfolio に通じる「省察(reflection)」の思想が土台になります。こども若者が自分の経験を言語化すること自体が評価の一部となり、人権や参加、エビデンスを支える基盤となります。
② 外部評価(透明性・信頼性の層)
第二層は、第三者の視点を取り入れる層です。英国の National Youth Agency が運営する Quality Mark のように、自己評価を尊重しつつ外部からの評価を組み合わせる仕組みが代表例です。大学・NPO・専門家が関わることで、評価の閉鎖性を防ぎ、政策の透明性と信頼性を高めます。
③ アウトカム評価(変化・インパクトの層)
第三層は、若者の変化や社会的成果を見る層です。主観的ウェルビーイング、包摂、参加の質、エンパワーメント、進路や生活の安定などを、数値と物語を組み合わせて評価します。ログブック方式はこの層と特に相性が良く、定性的な変化を継続的に記録し可視化することができます。
ソーシャルワーク・教育分野との共通性
この三層構造は若者政策特有のものではなく、他分野でも同様の構造が見られます。
ソーシャルワーク分野
ソーシャルワークの世界では、近年 Evidence-Based Practice(EBP)が広く知られるようになり、研究エビデンス・専門職の判断・利用者の価値や経験を統合する実践モデルとして位置づけられています。国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)の「ソーシャルワークのグローバル定義」でも、ソーシャルワークは社会変革と包摂を目指し、エンパワーメントを重視する専門職であることが強調されています。
EBPの考え方自体は、もともと医療分野から発展したものであり、1990年代以降にソーシャルワーク分野へ本格的に導入されてきました。たとえば、バッファロー大学などの資料では、EBPを「最良の研究エビデンスを、専門職の判断と利用者の価値と統合しながら、慎重かつ明示的に意思決定に用いること」と説明しています。
一方で、EBPが制度的に広まる以前から、ソーシャルワークの現場ではすでに、当事者の語り、専門職の経験的判断、支援の成果や変化を重ね合わせながら実践を組み立てる文化が存在していました。ケースワーク、スーパービジョン、記録と振り返り、利用者参加型の支援計画などは、自己評価・第三者的視点・成果確認を組み合わせる実践として、長年積み重ねられてきたものです。
その意味で、現在のEBPは、ソーシャルワークにまったく新しい枠組みを持ち込んだというよりも、もともと現場にあった多層的な実践構造を、科学的・制度的に整理し直したものと捉える方が自然だと考えられます。
こうした点を踏まえると、若者政策の評価においても、EBPを単なる「科学的手法の導入」として理解するのではなく、現場に蓄積されてきた実践知や当事者性と結びつけて捉えることが重要だと感じました。研究・専門性・当事者の声を統合する姿勢は、若者政策の三層モデルとも深く通じています。
【参考文献・関連資料】 ・International Federation of Social Workers (IFSW) Global Definition of Social Work https://ifsw.org/what-is-social-work/global-definition-of-social-work/ ・University at Buffalo, School of Social Work Evidence-Based Practice https://socialwork.buffalo.edu/resources/self-care-starter-kit/evidence-based-practice.html ・Sackett, D. L., et al. (1996). Evidence based medicine: what it is and what it isn't. BMJ, 312(7023), 71–72. ・Gambrill, E. (1999). Evidence-based practice: An alternative to authority-based practice. Families in Society, 80(4), 341–350. ・Gray, M., Plath, D., & Webb, S. A. (2009). Evidence-Based Social Work: A Critical Stance. Routledge.
教育分野(OECD/UNESCO)における評価の近年動向
教育分野においても近年、「自己評価・外部評価・成果評価を組み合わせる多層的な評価モデル」が国際的な標準として定着しつつあります。
OECDは学校評価に関する報告書の中で、学校内部による自己評価と、外部機関による評価を組み合わせることで、教育の質改善と説明責任の両立を図ることの重要性を繰り返し強調してきました。評価は単なる監査ではなく、学校改善のための「学習プロセス」として位置づけられています。
またUNESCOも、学習成果の測定と評価を通じて教育の質を高めることを重視しており、各国に対して評価制度・指標・データ活用体制の整備を促しています。特にSDGs(持続可能な開発目標)との関連で、教育成果の可視化と包摂性の確保が重要なテーマとなっています。
高等教育分野においても同様の傾向が見られます。大学の認証評価制度では、自己点検・自己評価を基盤としつつ、第三者機関による外部評価を組み合わせ、さらに教育成果や学修成果(learning outcomes)を検証する仕組みが整備されてきました。日本の大学評価制度も、この国際的潮流を踏まえて構築されています。
このように、教育分野ではすでに、
- 学校・大学による自己評価
- 外部機関による第三者評価
- 学習成果・アウトカムの検証
を重ね合わせる多層構造が制度化されています。
これは、こども若者政策やユースワークにおいて整理した三層モデルと、基本的な発想において共通しています。評価を「管理のための点検」ではなく、「改善と学びのための仕組み」として設計するという点で、両者は同じ方向を向いていると言えるでしょう。
【参考文献・関連資料(教育分野)】 ・OECD (2013) Synergies for Better Learning: An International Perspective on Evaluation and Assessment https://www.oecd.org/education/school/synergies-for-better-learning-an-international-perspective-on-evaluation-and-assessment.htm ・OECD (2015) Education Policy Outlook https://www.oecd.org/education/policyoutlook.htm ・UNESCO (2017) Global Education Monitoring Report https://www.unesco.org/gem-report ・UNESCO (2020) Education in a Post-COVID World https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000373717 ・OECD (2019) OECD Reviews of Evaluation and Assessment in Education https://www.oecd.org/education/evaluation-and-assessment-frameworks.htm
まとめと私の考え
欧州の評価ツール(ログブック、Quality Youth Work、Youth Work Portfolio)や UNICEF CFCI の枠組み、さらにはソーシャルワークや教育分野の評価モデルを振り返ると、こども若者政策の評価は ①自己評価 → ②外部評価 → ③アウトカム評価 の三層をゆるやかに重ねていく形が無理のない方法なのかなと感じました。特に、こども若者の声と経験がどれくらい中心に置かれているかは、どの分野でも共通して大きなポイントになっているように思います。
なぜ評価は複雑か
こども若者政策の「評価」は、やればやるほど複雑になります。その理由を突き詰めると、民主主義そのものの性質にたどり着くのだと思いました。
民主主義には、すべての若者が場に参加できるようにする「プロセスとしての民主主義」と、すべての若者にとって良い社会を実現する「目的としての民主主義」の二つの側面があります。この二重性こそが、こども若者政策の評価を単純化できない理由ではないでしょうか。
評価の目的は何か?
一方で、今日の社会では科学技術の発展や行政の透明性要求など「政策科学」のプレッシャーがあらゆる領域に押し寄せています。福祉、教育、若者政策といった共通資本の領域も例外ではありません。評価や指標が求められるのは理解できますが、その裏で本来あるべき理念や価値の議論が置き去りになりがちなのが気になります。欧州では多様な指標や評価方法が大量に作られ、それが現場のブルシットジョブ化につながってしまう問題も指摘されています。まさに「評価」が新自由主義的なロゴスの中でその役割を構造的に形成している視点も看過できません。

評価のための点数化や枠組みづくり、委員の選定などで仕事が膨大に増えてしまいますよね…
だからこそ今、問われるのは「みんなが大事だと思える社会的な共通善って何だろう?」という根源的な問いだと思います。教育、福祉、若者政策――。何を守り、どこを評価し、どの価値を大事にするのか。その民主的な合意形成と共有されたゴールを、社会全体で改めて確認する時期に来ているのではないでしょうか。
数字の前に哲学に基づく評価・政策という視点
実際に近年、教育政策ではエビデンス重視(EBPM)が重視される一方、数値やデータへの過度な依存が課題とされています。こうした状況に対し、哲学者・教育学者の苫野一徳氏は「P-EBP(Philosophy-based Evidence-Based Practice/Policy)」という考え方を提唱しています。
P-EBPの特徴は、「まず哲学を置く」点にあります。教育の目的や「よい教育とは何か」といった根本的な理念を共有したうえで、施策や実践を構想する姿勢を重視します。まさに共通善とは何か?という理念的な目標を哲学的に定めるという点と一致します。
子ども若者政策やユースワークでも評価は、こども若者を管理するための道具ではなく、こども若者が社会の一員として声を上げ、参加し、未来をともにつくるためのプロセスであるでありたいと改めて感じました。
東海村での分科会を通じて、そんなことを深く考えました。今後もさらに考察を深めていきたいと思います。



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