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意識啓発アプローチの限界|ユースワークは何を担えばいいか?

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週末は札幌へ飛びました。

こちらのインタビュー調査は、最終的にはブックレットにまとめる予定です。ブログでも公開できるようしたいと思います。

ユースワークの聖地、札幌にて職員研修

滞在中、ぼくの出張に合わせて、公益財団法人 札幌青少年女性活動協会の職員さんが札幌市内の若者支援施設「Youth+」にて勉強会を開催してくださいました。テーマは、ユースセンターにおいていかに若者の社会形成意識を育むか。そもそも「意識醸成」という啓発アプローチがユースワークの役割か?を出発点に、スウェーデン実践などを紹介しました。

スライドは以下からどうぞ。

最終的には社会におけるユースワーク、ひいては余暇、ソーシャルセクター、そして民主主義、の意義など大きな話になってしまいました。現場職員さんにはかなり抽象的な話だったかと思うけど、例えば実践力に直結するファシリテーション力やプロジェクトマネジメントなどの話しはぼくじゃなくてもできると思い、そんな内容になりました。

そもそも社会参加「意識」を育てるから投票するのか?

話した内容の一部をここで紹介します。

頂いたお題の1つが、若者の「社会形成意識を育む」にはどうしたらいいか?でした。

素直にこの文言に従って、スウェーデンの社会参加の実践をすぐに報告したらよかったのですが、そうはいきませんでした。なぜなら若者の「社会形成意識を育む」という文言は気をつけないと、ある方向付けをしかねないからです。

スライドでは、まずスウェーデンにおける若者の投票率の高さを紹介します。そのうえでしかし、スウェーデンと日本の若者の社会参加の「意識」はそもそもそんなに違うのか?という点を紹介します。実際、スウェーデンの若者よりも日本の若者のほうが本当に社会への意識が高いのか?と思わせる調査結果があります。

平成25年度の内閣府の調査なのですが、この調査によると「あなたは今の自国の政治にどのくらい関心がありますか?」という問いに対して、「非常に関心がある」「どちらかといえば関心がある」と答えた若者は、スウェーデンは46.3%であったのに日本の若者は50.1%だったのです。さらに別のデータでは「社会に役に立ちたいと思っている」日本の若者の割合は増えつつあることが明らかです。

あれ?スウェーデンの若者は投票率は高いのに、政治への意識は日本の若者より低いの?という疑問が湧きます。なぜこうなっているのでしょうか。

投票していないのに「投票した」と答える人が多い理由

それは社会調査の限界を示しています。アンケート調査でみようとしているものは「意識」であり、それはアンケートに反映された回答が根拠になります。回答を集計したものが「意識」の結果としてまとめられるわけですが、果たしてそれが本当に現実をあらわしているデータであるかどうかは疑う必要があります。

なぜならそこには「社会的望ましさのバイアス(SDB : Social desirability bias)」があるからです。

SDBとは、人は社会調査において事実を回答するのではなく、自分が周りから良くみられるような回答をするというバイアスです。社会的に受け入れられないような回答をするのではなく、「社会的に望ましい」とされるような回答をしてしまうということです。有名な例は、実際に選挙で投票をしていないのに「投票した」と答える人の割合が高いという研究です。なぜなら、投票をすることは「社会的に望ましい」からであり、社会的に望ましくないように人はみられたくないがために、実際の「行動」とは異なる回答をしてしまうからです。

これ心当たりある人は、多いのではないでしょうか。実際に、学校の授業などでも発言はしないのにやたら感想文がびっしり埋まっている生徒とかいますよね。あるいは、ワークショップ終了後のアンケート調査で場の雰囲気に反して、いい回答結果だったことなどもないでしょうか。

SDBが示すのは、アンケート調査と「意識」を把握することの限界です。このつかみきれない「意識」というものを如何にすれば把握できるのでしょうか。そもそも正確には秋など可能なのでしょうか。意識をinputとすると、ぼくはそれよりも「行動(output)」と「結果(outcome)」をいきなり起こすように働きかけるほうが良いのではないかと思います。

意識(input)が高いから→投票(output)する。だから「社会参加意識(input)」を育むというのが教育や啓発的なアプローチだと思うのですが、これだといつまでも意識啓発ばかりをすることになります。意識を把握するためにアンケートをとるも、そこにはSDBがあるから果たして実際に意識が高まっているのかわからない。さてどうしょうか、となるのではないでしょうか。

それだったらアプローチの目標を「意識を育む」ではなく、「行動(output)が起きやすくする」ことに重きを置く方が良いのではないでしょうか。

「意識を育む」アプローチが遠ざける可能性のある若者だっている

もうひとつは、そもそもユースワークが「社会参加の意識を育む」アプローチでよいのか?という点です。

「育む」という言葉が入っていることからも、そこにはある「教育的な眼差し」が垣間見えます。似たようなアプローチとして「主権者教育」や「シティズンシップ教育」などがあります。例えば生徒会の予算の配分を考えたり、模擬投票や政治的な討論をしたりといろいろなメニューがあります。それらのアプローチ自体を否定するつもりはありませんが、果たして学校の外を主戦場とする「ユースワーク」がそういうことを担うべきなのか?ということです。

「生徒会」や「選挙」というアクティビティ、先生と生徒という主従関係、に萎えてしまう若者も多いのではないでしょうか。学校の授業ならわかりますが(それもどうかと思うが)、少なくとも学校の「外」なのだからそういう「堅苦しさ」からの解放を求めている若者にさらに「堅苦しく」アプローチしていいのでしょうか?その言葉を使った瞬間に離れていく若者がいないでしょうか。

スライドでも触れていますが、まずはユースワークの立ち位置を確認して何を大事にしなければいけないかを把握することが大事です。主権者教育とユースワークは明確に異なるのです。この方向付けを確認しないと、どんどんぶれて結果、いつも来ていた若者がこれなくなってしまうことだってあるのです。

スウェーデンの若者の約8割はユースセンターへ行ったことがない。では何をしているか?

以上の2点に基づき、ユースセンターにおいて若者の「社会参加」を促すためにできることは何でしょうか。

スウェーデンにはたしかに多くのユースセンターがあります。一見、ほとんどすべての若者が放課後にはユースセンターにいっているようにも思えますが実際にはユースセンターに一度も行ったことがない若者の割合は対象人口の78%にもおよびます。つまりスウェーデンの若者であっても八割近くはユースセンターに一度もいったことがないのです。

ではスウェーデンの若者は何をしているのか?

そこに若者の組織・サークル・団体活動があげられます。スウェーデンの若者白書Ung idagによると「少なくとも1つの協会・クラブ活動に属する若者の割合」が16~24歳で、58%、25~29歳で70%もいるのです。日本の大学のサークルのようなものをイメージしてもらえばいいですが、大学を拠点にせず地域を拠点にして活動しているこのような若者の組織活動が非常に盛んなのです。

スウェーデンは、スタディーサークルという成人の生涯学習をする会が盛んですが、民主主義的な方法による組織活動を通じて、民主主義を実践し学ぶ場になっています。もちろん、若者の組織もまた民主主義的な方法によって運営されなければなりません。ある一定の条件が整うと、組織運営のための助成金を国などから受け取ることが可能となります。

スライドの後半では、そのような若者の組織活動を増やすためにユースセンターができることを、

①リソース(人・資金)
②スペース(空間・時間)
③アクセス(広報、経済的障壁、言語)
④コンセンサス(理解、権利の認知、行政・制度によるバックアップ)

という4つのサイクルをまわし、それぞれの段階において若者を巻き込んで実施していくことを提案しました。

最後には、ユースセンターにおける政治的中立性の保ち方を、スウェーデンの事例から報告しました。

札幌は勤労青少年ホームが残ったおかげで市内にユースセンターが複数あり、就労支援から児童虐待防止まで総合的に、子ども・青年期にリーチができるようになっていて本当にすごいなと思います。

一般的に、18歳になると子ども・若者は学校を卒業し、各施設にも通えなくなる場合が多く、学校や家庭以外でのユースセンターのような「第三の居場所」での、これまでの関係性が途切れてしまうことがあります。そして20台後半になったらときには、「要支援」の状態になっている若者が出てきて、もっと早くつながっていればよかったということがあるようです。そうならないためにも札幌は、18歳以上でも30台後半まで何かしらの方法で、つながりを絶たないようにするという視点があり、そのためにあらゆる施策を打つことができているのです。

これで二回目ですが、今後も札幌のユースワークからいろいろ学ばせていただければと思っています。

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