スウェーデンには、ユースセンター(fritidsgård、ungdomens hus など)が各地にあります。私はこれまで研究や研修の機会に、スウェーデンやフィンランドのユースセンターを訪ねてきました。若者がふらりと立ち寄れて、そこから活動や参画が生まれていく。その姿は、日本で「こどもの居場所づくり」を考えるうえでも参照されてきました。

Fryschilletの内装(2026.9.筆者撮影)
ところが、そのスウェーデンでも、ユースセンターには全国共通の推奨指針がありませんでした。2026年5月、スウェーデン政府はこの状況を変えるため、若者・市民社会庁(MUCF)に「オープンな余暇活動(öppen fritidsverksamhet)」の全国的な推奨指針をつくるよう委託しました。本稿では、この政府委託の中身を整理し、日本の居場所政策にとっての示唆を考えます。
何が決まったのか:MUCFへの政府委託
政府の決定は2026年5月13日付で、社会省の所管です。決定文書によれば、主な内容は次のとおりです。
- MUCFが、オープンな余暇活動の全国的な推奨指針(nationella rekommendationer)を作成する
- あわせて、よい実践例を紹介し、質の高い運営につながる条件や働き方を明らかにする
- よく知られた問題や課題と、その避け方も示す
- 障害のある若者と、LGBTQIの若者に特に焦点を当てる
- 最終報告の期限は2027年3月31日、予算は2026年に最大200万クローナ
対象となる「オープンな余暇活動」は、若者を対象とし、学校法(Skollagen)の規定・要件に含まれないオープンな余暇活動と定義されています。日本の文脈に置き換えれば、ユースセンターや児童館の中高生向けの活動、地域の若者の居場所に近いものと考えてよいでしょう。
「法律にない」ユースセンターという前提
今回の決定で興味深いのは、その背景の説明です。政府の決定文書は、スウェーデンのオープンな余暇活動が法定の事業ではなく、自治体の任意の取り組みであることを率直に認めています。そのため、利用のしやすさや質、運営のあり方は、自治体によって大きく異なるといいます。
北欧のユースセンターというと、制度的にしっかり保障されたものという印象を持たれがちです。しかし実際には、自治体の裁量に委ねられてきた部分が大きく、その結果としての地域差が、いま政策課題として取り上げられているのです。この点は、日本の議論でも見落とされやすいところだと思います。
背景には、MUCFが2025年に公表したオープンな余暇活動の全国調査もあります。そこでは、オープンな余暇活動が、組織化された余暇活動(スポーツクラブや習い事など)に参加しにくい若者に届いていることが示される一方で、職員の研修機会の必要性や、長期的な支援の必要性も指摘されていました。
誰のための場か:見えにくい若者への焦点
今回の委託が、障害のある若者とLGBTQIの若者に特に焦点を当てている点も重要です。政府の決定文書は、MUCFの調査を引き、LGBTQIの若者の中には不適切な対応を恐れて余暇活動を避ける人がいることを指摘しています。また、障害のある若者の余暇満足度は約半数にとどまります。この後者の数値は、MUCFが2023年に公表した『Ung idag 2023:2』でも報告されています。
「誰でも来られる場所」は、それだけでは「誰もが来られる場所」になりません。オープンであることを掲げる場ほど、実際に誰が来ていて、誰が来ていないのかを問い続ける必要があります。ユースワークの「オープンさ」をめぐるこの緊張関係は、私が欧州各国のユースワークを調査した際にも議論になったテーマでした。
欧州の「地域ユースワーク憲章」を土台にする意味
もう一つの特徴は、指針の土台として、欧州の既存の推奨や指針を参照するよう求めていることです。具体的には、Europe Goes Local が2019年に採択した「地域ユースワークに関する欧州憲章(European Charter on Local Youth Work)」が、決定文書の中で名指しされています。
この憲章は、地域のユースワークの中核となる原則を示したうえで、政策、組織と実践、ユースワーカー、質の開発という観点から、自治体レベルのユースワークの質を支える条件を整理したものです。スウェーデンが独自の基準をゼロからつくるのではなく、欧州の共通の枠組みを国内に引き寄せようとしている点は、注目すべき選択だと考えます。
欧州評議会閣僚委員会は2026年、地域・地方レベルにおける若者参画に関する欧州憲章を扱う勧告(CM/Rec(2026)3)を採択しました。同勧告は、ユースセンターやユースワークが若者参画を支える枠組みを示しています。ユースセンターを「参画の基盤」として制度的に支えようとする流れは、スウェーデン一国にとどまらないものです。
日本の居場所づくりへの示唆
日本では、2023年12月に「こどもの居場所づくりに関する指針」が閣議決定され、国としての考え方が示されました。スウェーデンの動きと並べてみると、少なくとも三つの論点が見えてきます。
1. 指針は「質」を何で測るのか
全国的な指針をつくると、次に問われるのは、その質をどう評価するかです。利用者数や事業の成果指標に寄せすぎると、来にくい若者を受け入れる時間のかかる関わりや、目的を限定しない関係づくりが評価されにくくなります。ユースワークの評価をめぐる議論は以前にも書きましたが、指針の中身と同じくらい、評価のあり方が実践を方向づけます。
2. 「よい実践例」をどう集めるか
MUCFは、社会庁(Socialstyrelsen)や学校庁(Skolverket)などの関係行政機関、スウェーデン自治体・地域連合(SKR)、市民社会組織と対話しながら、よい実践例と問題点の両方を集めるよう求められています。成功例だけでなく、うまくいかなかったことや課題も指針に含める設計は、日本の事例集づくりにも参考になると思います。
3. 若者自身はどう関わるのか
政府の決定文書を読む限り、若者自身が指針づくりにどう関わるのかは明記されていません。欧州の憲章が若者参画を重視していることを考えると、MUCFがこの点をどう扱うかは、今後の注目点です。(とはいえスウェーデンでは既に、国レベルでは若者政策決定の際に若者団体と共同決定する仕組みがあるので、言及されていないだけかもしれません。)日本でも、居場所の当事者である若者が、指針や計画づくりの段階から関わる仕組みが問われています。
おわりに:2027年3月の最終報告に向けて
MUCFの最終報告は2027年3月の予定です。ただし、スウェーデンでは2026年9月13日に総選挙が行われ、9月下旬には組閣が難航していると報じられていました。この委託を決めたのは選挙前の政権であり、新しい政権のもとでどう扱われるかも含めて、引き続き追っていきたいと考えています。
「北欧には居場所がある」で終わらせず、その居場所がどのような制度的条件のもとで、誰に届き、誰に届いていないのか。その問いを日本の議論に持ち帰ることが、比較研究の役割だと考えています。
参考資料
- スウェーデン政府「MUCFに対するオープンな余暇活動の全国的推奨指針作成の委託」(2026年5月13日決定、S2026/00989)
決定文書(PDF)/委託ページ - スウェーデン政府プレスリリース「MUCF ska ta fram nationella rekommendationer för öppen fritidsverksamhet」(2026年5月)
https://www.regeringen.se/pressmeddelanden/2026/05/mucf-ska-ta-fram-nationella-rekommendationer-for-oppen-fritidsverksamhet/ - MUCF『Kartläggning av den öppna fritidsverksamheten』(2025年)
https://www.mucf.se/sites/default/files/2025/05/rapport_kartlaggning_oppen_fritidsverksamhet_2025_tillganglighetsanpassad.pdf - EU-Council of Europe Youth Partnership「European Charter on Local Youth Work」
https://pjp-eu.coe.int/web/youth-partnership/recognition-resources/-/asset_publisher/llpkrN7I27by/content/european-charter-on-local-youth-work - 欧州評議会 地方自治体会議「Youth democratic participation – especially at local level – essential in times of stability and crisis alike」(2026年3月)
https://www.coe.int/en/web/congress/-/youth-democratic-participation-especially-at-local-level-essential-in-times-of-stability-and-crisis-alike - こども家庭庁「こどもの居場所づくり」
https://www.cfa.go.jp/policies/kodomonoibasho


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