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欧州6カ国で見えたユースワークの現在地|国際調査レポート完成!

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2025年3月まで所属していた国立青少年教育振興機構青少年教育研究センターのヨーロッパにおけるユースワークの国際比較研究の報告書が公開されました。私と、客員研究員の青山鉄兵(文教大学)さんとのこれまでの4年間の研究の集大成です。

「青少年教育の国際比較研究」調査研究報告書(最終まとめ)

「青少年教育の国際比較研究」調査研究報告書(最終まとめ)は、ヨーロッパ各国におけるユースワークの最新動向を詳細に分析し、日本の青少年教育が抱える課題と今後の方向性について検討しました。

ヨーロッパにおけるユースワークの国際比較の全体像

本研究は、諸外国の「青少年教育」の理念、制度、方法、特にヨーロッパで発展してきた「ユースワーク」に焦点を当て、国際的な視点から日本の青少年教育の特徴を明らかにし、未来へのヒントを得ることを目的としています。

この報告書では、6つの国(ベルギー、ウェールズ、ルーマニア、ハンガリー、フィンランド、エストニア)と、それらを包含する3つの地域(西欧、東欧、北欧)を対象に調査が行われました。さらに、EUおよび欧州評議会といった国際機関に関する調査も含まれています。合計44の異なる団体・機関や個人の専門家から、合計51人のインタビュー対象者に調査が行われました。現地でユースセンターにも行かせていただきました。

以下、簡単に概要を紹介します。

はじめに

近年、日本では、不登校、いじめ、ニート、ひきこもりといった若者に関する多様な問題への対応が求められる中で、従来の青少年教育の枠組みを超えた、より総合的な子ども・若者支援の必要性が高まっています。このような背景から、北欧のユースワークやユースセンターの取り組みが先駆的な事例として注目されており、本報告書はその詳細を探るものです。

ヨーロッパのユースワークの多様性と共通性

報告書では、ヨーロッパのユースワークが置かれている「コンテキスト(文脈)」の多様性について触れています。国ごとの歴史、政策的位置付け、推進体制、政治状況、そして国内外の外部要因が複雑に絡み合い、それぞれのユースワークのあり方を形成しているのです。

例えば、ベルギーのフランダース地方では文化政策の一環として位置づけられ、フィンランドやエストニアでは明確に教育政策の一部として推進されています。また、東欧諸国ではEUの財政支援が活動の大きな支えとなっている一方で、西欧諸国では伝統的な基盤の上に現代的な課題への対応が模索されています。こうした多様性の中にも、ユースワークの共通項として、その理念と方法論が挙げられます。最も重要な共通理念は、いかなる国においても若者の参画(participation)を促進することです。また、ユースワークは若者が自由に活動し、自己表現できる「空間(Space)」と、若者の社会への円滑な統合を促す「橋渡し(Bridge)」という二面性を持つことが指摘されています。これは、ゲント大学のフィリップ氏が提唱する「移行(Transition)」と「フォーラム(Forum)」の概念にも通じます。

さらに、ユースワークの推進には、ユース分野の施策、ユースインフラ(ユースセンターなど)、若者団体・ユースカウンシル、予算、ユースワーク、そして人材といった要素から成る「ユース・エコシステム」の構築が共通して目指されていることも明らかになりました。

各エリアのユースワーク最前線

報告書は、調査対象国を西欧、東欧、北欧の3つのエリアに分け、それぞれの特徴と課題を深掘りしています。

西欧エリア(ベルギー・フランダース地方、ウェールズ)

この地域は、ユースワークの長い伝統と高い社会的認知が特徴です。ベルギー・フランダース地方では、ボランティア精神に基づいたユースワークが文化政策と連携し、強固な政策・財政基盤に支えられていました。若者自身の主体的な参画と自己実現を促す「攻め(proactive)のアプローチ」を重視し、若者が主体的に活動に参加し、主体的な参画を通じて学び、自己実現できる環境を提供することに重点が置かれ、、国際協力支援や若者研究を担う機関もその基盤を支えていました。

一方、ウェールズは、ユースワーカーの専門性向上に取り組むものの、緊縮財政や法的枠組みの脆弱さ、成果主義へのシフトといった課題に直面しています。デジタル技術を活用した相談サービスや困難を抱える若者支援を行う団体、ユースワーカー養成機関などが活動していることも明らかになりました。

東欧エリア(ルーマニア、ハンガリー)

この地域では、国内の若者政策や予算基盤が脆弱なため、EUやCOEからの財政的支援が活動の大きな柱となっていました。ルーマニアでは、若者のニーズに応じた柔軟で創造的なユースワークがNGOによって展開されていますが、国内政府の予算不足や組織再編が課題とされていました。恵まれない若者支援、演劇を通じたエンパワーメント、ユースセンター運営 など多様な実践が見られました。

ハンガリーでは、若者に関する包括的な法律や政策が事実上存在せず、若者政策の形骸化が顕著です。地方の若者支援や国際交流プログラムを提供する団体、またEUプログラムの実施機関が中心となり活動していました。若者政策の不在やユースワークの衰退は、若者の政治不信を招き、若者の社会参画を阻害する要因となっている実態がありました。

北欧エリア(フィンランド、エストニア)

この地域は、ユースワークがノンフォーマル教育や若者の趣味活動を基盤とし、先進的かつ体系的な取り組みが特徴です。フィンランドでは、ユースワークは教育文化省の管轄下にあり、若者の余暇活動に焦点を当て、普遍的な社会包摂とウェルビーイングの実現を重視していました。若者の成長、自立、参画を支援することを目的に、ユースワークは若者一人ひとりの人生への積極的な参画を重視していました。デジタルユースワークの専門センター やユースワーカー教育機関 VerkeやSalto Youthも興味深い取り組みです。フィンランドの事例は、「体験」や「居場所」を公共的に保障し、若者の主体的な参画と自己実現を信頼するという重要な視点を提供してくれます。

エストニアは、ユースワーク法と趣味学校法を法的基盤とし、長期的な開発計画に基づいてデータ分析を活用した政策を進めています。趣味学校での体系的な学びや、若者主導のイベントを開催するユースセンターなどが活動を支えています。ユースワーカーの環境が整備されており、キャリアパスも明確である一方、経済的な状況が、若者の活用による経済復興やまちづくりといった文脈に回収されると言うようなニュアンスも散見されました。

まとめ

報告書は、日本の青少年教育が抱える課題に対し、ヨーロッパのユースワークから得られる示唆を最後に論じています。今回の国際比較研究は、ヨーロッパのユースワークが多様なコンテキストの中で発展しながらも、若者の参画を核とした共通の理念と方法論を共有していることを明らかにしました。

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4年間の欧州におけるユースワーク研究の集大成がこのようにまとまったこと、大変嬉しく思います。それぞれの地域を広く浅く捉えることが限界だったので、この研究を基盤にして今後各地のユースワーク研究を日本の研究者が担っていくことに期待します。

ダウンロードは以下から可能です。 また、何かしらの方法で研究内容を発表したり共有できたら幸いです。

両角 達平 (Tatsuhei Morozumi) - 「青少年教育の国際比較研究」調査研究報告書(最終まとめ)― EU・COE及びベルギー・ウェールズ・ルーマニア・ハンガリー・フィンランド ・エストニアにおけるユースワークの展開 ― - MISC - researchmap
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