日本では18歳で投票ができるようになり、政治教育や主権者教育に注目が集まっています。政治的な話題をどのように扱ったら良いかが様々に議論されています。それというのもこれまで日本は戦後、文科省による69年通達を皮切りに教育と政治をわける教育の「脱政治化」が起きてしまい、飲み会のタブーの話題として「政治・宗教・野球」といわれるくらいに生活や教育から「政治」がなくなってしまったからです。その結果、何が起きているかというと、先進国の中でもだんとつで低い選挙投票率と社会参加の意識といっても言い過ぎではないでしょう。
さて、そんな目を覆いたくなる状況ではありますが、国内で若い世代の市民性を育む取り組みとして「未成年模擬選挙」というものがあります。
・未成年模擬選挙:有権者ではない、未来の有権者である20歳未満が、実際の選挙にあわせて実際の立候補者・政党に対して投票する。実際の選挙結果との比較や、投票理由などを議員に届ける。
|未成年模擬選挙ホームページ
その名の通り、模擬の選挙を選挙権のない生徒のために実施するのです。そうして練習することで、実際の選挙で投票をする18歳になったときに学校で習ったように自分で投票するために、何をしたらいいかということがわかるのです。これまでに延べ200校、4.5万人を越える未来の有権者が参加しているとのことです。
同じような取り組みが、ここ若者参加の先進国、スウェーデンにもあるのです。その名もSkolval 2018、つまり「学校選挙2018」です。(学校の占拠ではありません)未成年模擬選挙と同じように、選挙があるときに18歳未満の選挙権のない学校の生徒が選挙を「練習」することができます。
実は、4年前に未成年模擬選挙の代表である林大介さんとともに、現地で取り組みをみにいきました。その時に書いた記事がこちらです。
今年の6月のスウェーデン視察時に、学校選挙2018事務所を置いているスウェーデン生徒組合の事務所で、この取り組みのお話を聞くことができました。
スウェーデンではどのように学校での模擬選挙を実施しているのでしょうか。
先方は、事務局の広報部のジュリア(Julia Söderberg)とプロジェクトアシスタントのヘレナ(Helena Olsson)です。若干20歳の2人に話を聞きました。
こちらの訪問側はYEC(若者エンパワメント委員会)の大学生らと
「学校選挙」とは何か?
学校選挙とはまず何かということを話します。学校選挙とは、中学校(基礎学校の高等部)と高校でやっている模擬選挙です。それぞれの学校で活動していて、参加費も一切かからないし、私たちはそのための教材を提供しています。ほとんど実際の総選挙と同じ方法でやりますが、一番大きな違いとしては、ここでの投票は実際の選挙の投票には換算されないということです。一番の目的としては、スウェーデンの民主主義について学ぶということです。生徒自身が生徒のために自分たちの手によってこの活動をすることを大事にしているということです。
1960年代から続く学校選挙の歴史
結構歴史が長いので、簡単にこれまでの歩みを説明します。1960年代に最初の学校選挙を実施しました。そのときの学校選挙は、国などの公的機関がやっていたのではなくて、それぞれの学校が自分たちで、生徒と先生で勝手にやっていました。1998年になって初めて国を挙げてやるようになって、そのときに国全体での投票結果も集めるようになりました。これができるようになったのは、国のいくつかの機関とテレビ局が一緒に共同でやることになったからです。この時で既に370校が参加していました。
2002年になってから若者市民社会庁が手伝ってくれるようになりました。そのときからこの生徒組合が責任を持って事業実施主体としてやることになりました。それから4年ごとに選挙があるので、2006年、2010年、2014年の選挙で学校選挙をやってきました。2018年に今年はなったので、今回が生徒組合が学校選挙をやる三回目の選挙になります。
学校選挙はどのように実施されるのか?
運営の方法について話します。国からの要請で、学校、生徒組合としてやってもらいたいのは毎回、4年に一度ある総選挙のときとEU選挙(欧州議会の議員を決める選挙)です。EU選挙は来年、2019年にあります。スウェーデン政府が予算を決めて、その額がすべてこの学校選挙につきます。スウェーデン政府が方針を決めて、それに従ってやってくださいねっていうのを、若者政策を管轄するスウェーデン若者市民社会庁にやってくださいとお願いするということです。スウェーデン若者市民社会庁が、実際に現場でどこが学校選挙をやるのかを選ぶ事業の責任主体の省庁です。その下に今、私たちがいるということです。
「私たち」というのは、生徒組合の他に3組織が事業実施体として選ばれているからです。他にも、選挙管理委員会と学校教育庁が共同実施政府機関となっています。図示するとこのようになります。
※なお、スウェーデン生徒組合とスウェーデン生徒会組合の違いはこちらの記事を参照してください。
学校選挙の予算は?
予算規模としては、スウェーデン政府は約6000万円ほどを若者市民社会庁に渡して、そこから約3600万円くらいがこの若者団体におりてきます。若者市民社会庁だけじゃなくて、選挙管理委員会とも一緒に仕事をしています。選挙管理委員会と一緒にやっているから、実際の選挙に使われている用紙だったり、投票用紙を教材として使います。もう一つ、一緒に仕事をしている省庁に学校教育庁があり、学校や校長との連絡を助けてもらったり、学校の法律に沿って実施できるように手伝ってもらっています。
学校選挙を実際にする生徒の数はどのくらい?
数字について話します。2014年、50万人の生徒が投票する権利を持っていました。中学生と高校生で学校選挙に参加することができたのが50万人。1,800校が学校選挙を実施する登録をして、その結果、50万人の13歳から18歳の子ども・若者の77.5%が学校選挙に参加しました。実際のスウェーデンの総選挙の投票率は85%なので、それと比べたら、なかなか投票率も高いですよね。
実際の選挙ではスウェーデンは18歳から投票でき、18歳の人を「初回投票者」というのですが、その人たちの投票率は83%でした。投票するのは義務ではありません。学校選挙も拡大していて、今年は2,000校が目標で今のところ(総選挙時の3か月前で)1,300校が実施の登録をしています。8月の初旬までにまず登録を済ませてもらって、8月27日から9月7日の間に、生徒たちが投票する日を設定してもらいます。本物の選挙の投票日は9月9日だから、それより前の期間に学校選挙をやってもらうということです。来年は、EU選挙で同じように学校選挙をやります。
学校選挙の究極の目的は何か?
目的について話します。私たちとしては、選挙が公正・公平であることを大事にしています。つまり、投票は守秘義務があり、匿名であるべきであるし、学校の授業の一コマとしてやるのではなくて、ボランティアで(自発的に)参加してもらうということです。このように、公正・公平な選挙をやるためには、学校選挙の担当者がそれぞれの学校について、実際にこの教材のとおりに実施しているかをチェックします。この教材の方では、こういう手順でやりましょうというのが明確に書かれています。そのようにモニタリングをしています。
この学校選挙を通じて、スウェーデンの民主主義がどう機能しているのかを理解すること、そういう教育的な目的もあります。学校選挙をやって単に投票用紙、票を投票箱に入れるだけではなくて、それ以上の政治的な議論を活性化することにつながることを目的にしています。ですので、できるだけ生徒たちが自分たちで刺激しあい、自分たちの手によってそういう討論の場や学校選挙を開催できるようにすることを目的にしています。学校選挙自体も楽しくやることも大事にしています。楽しければ楽しいほど、生徒たち自身も自分たちでやってくれるんじゃないかと思っています。
学校選挙を実施するのは生徒自身
最初にも話したとおり、生徒自身が学校選挙を実施するのです。だから、生徒たちがいつやるか、先生たちとどうやってやるか、先生たちと何をするのかも決めます。それを私たちがサポートするために、必要な教材を送ったり、ウェブページで情報発信をしているということです。それぞれの学校の生徒組合に加盟している生徒会や、社会科の先生と連絡をとるのも生徒たちがやります。学校選挙事務局がすべての学校にメールを送って、電話をして、社会科の先生に連絡をとることは最初にやりますが。私たち自身が生徒会に直接連絡をとることもできます。他にやっているのは、障がいをもった生徒たちへの支援です。あと、経済的、社会的に困難な状況にある生徒にもサポートをしています。
例えばインスタグラムでは開票作業の方法のビデオを公開しています。
学校選挙をはじめるための最初の手続き
学校選挙がどうやって始まるのかについて話します。最初に学校が学校選挙のホームページに登録をします。そのときに登録するのは、生徒たち自身が登録するか、生徒と先生が一緒に登録をするか選ぶことができます。登録する時に先生の名前を絶対に提供しなければならないわけでないですが、もしかしたら先生が主導して登録するのことも起きているかもしれませんが、最低限登録するときに必要なのは生徒の名前です。だいたいそれぞれの学校で5、6人くらいで登録し、学校選挙を実施しています。事務的な手続きとかだったりを定めている「スターターキット」と選挙の投票の集計方法、投票方法について書いてある「選挙キット」という教材があります。投票用紙が中に入っていて、それを封筒の中に入れて投票箱に入れると、投票になります。
それで、学校選挙をそれぞれやったら、集計結果をこの学校選挙事務局にそれぞれの学校から送ることになっていて、ここで集計して結果を公表します。だから、この学校選挙を担当している生徒たちは、投票結果を9月7日までに送らないといけないという義務があります。
こちらは2014年の学校選挙の結果です(上図)。それぞれの政党の得票率を出していますが、上の太い字が2014年の結果で、括弧が2010年の結果です。今年は学校選挙の投票結果は、総選挙の9月9日の結果が出たらその夜に出します。一般の、普通の選挙の投票所が20時に閉まりますが、投票所が閉まった時点で学校選挙の結果を公表できるということです。
(2014年の投票結果の解説記事はこちら)
投票結果が公表されたら、それぞれの国の投票率もそうですが、県ごとの結果もみれます。多くの人が、学校選挙の結果と実際の選挙の結果の違いに興味があるようです。2014年の結果においては、実際の選挙では社会民主党が学校選挙よりも得票率が高くて、緑の党が学校選挙の方で得票率が若干高かったです。若い人たちのほうがより緑の党を支持していたということです。学校選挙の結果が何故(実際の選挙と)違うのかということに興味がある人は多いですが、いろんな要因があって何ともいえませんが、私たちが少なくとも知っていることは、この10年間、初回投票者の投票率は上がり続けているということです。
ある学校における学校選挙の様子
だからと言って、学校選挙をやったことによる投票率の向上なのかは、分かりません。しかし、政府としては学校選挙が若者の政治的な参加を促している場になっているのではないかという見解ではずっとあります。SNSの発信も強化していて、そうすることで私たちは対象年齢の人たちを巻き込む工夫をしています。インスタグラムでの発信も強化して、ハッシュタグ#skolval2018 でいろんな人たちとやり取りをしています。もちろん自分たちで発信もしていますけど、他の実施団体や準備をしている生徒たちに、学校選挙のことをやっていたら、できるだけこのハッシュタグを使ってくださいとお願いしています。たとえば、投票用紙が届いたときとか、実際に学校で政治のイベントを開催するときに、このハッシュタグを使ってくださいといっています。
学校選挙自体は、投票をメインにやっていますが、学校選挙事務局としては、選挙前後で政治的なイベントをやるように奨励しています。やってもらっていることとしては、政治家を招いた政治的なディベートやワークショップだったり講演をしてもらったり、フィールドワークをする場合もあります。それぞれの学校を中心にして国会に行ったりとか、政治家に会いに行ったりとか、どこかに出向くといったことも実施してもらっています。
例えばこんな感じですね。
あと投票を集計している時にも、生徒はイベントを企画しています。開票中に、その様子を見るための会(k開票を見守る催しをValvakaという)を学校でやってもらうことも勧めています。学校側の運営主体である5、6人でやってくれるよう促している。学校選挙事務局は、できるだけやろうねとは言うけど、現地で動くわけではない。もちろんアドバイスをしたりとか、こういう方法でやったらいいよと材料提供とかはするけれど、実際にやるのはこの5、6人の生徒たちです。
主体が生徒ですので、活動を頑張るところと頑張らないところで差が出たりもしています。政党青年部の政治家だったりとか、地域ごとの政治家を招くのはすごい簡単です。高校生が学校選挙をやるけど、18歳の人もいるからその中に来てくださいと誘います。そうすると、政治家としては票を集めることができるので来るモチベーションがあるのです。18歳の高校生もいるので、その人は実際の選挙にも参加できるし、学校選挙にも参加できるのです。
一つの政党の政治家を招待したら、政治的な中立性を保たないといけないので、他の政党の政治家も呼ばなければいけないというルールがあります。
高校と中学校の学校選挙の違いとしては、高校の場合は企画は生徒だけでいいですが、中学の場合は企画するグループの中に18歳以上の人がいないといけないと決まっています。中学校の場合は18歳以上の人がいないから、先生たちが入っていることがあります。それ以外は特に変わりません。たぶん中学校の方が先生の関わり度合いが高いと思います。
スウェーデン生徒組合の会員になると、学校において影響力を持てるようなったり、生徒組合における理事の選出の投票権を得ることができます。地域の政治家を招いてやる政治のディベート大会は、事前に学校の生徒たちに何のトピックに興味があるかを事前に聞きます。例えば、給食を無料にすべきかとか、どんな学内の活動だったりとかです。
他にも、自分の将来を考えてもらって、16歳とか17歳の人たちにこれから18歳になったときに、どんな事柄に自分は興味を持つと思いますかと聞いたりもする。大学生になるなと、学費のこととか、一人暮らしするから住居のことだったりとか、自分にとって何が身近な話題が4年後に何になるかを考えてもらって、そのトピックをイベントで話すといった具合です。
学校選挙は(政治的に)中立なので、どこの政治色がつくということは特になくて、むしろ民主主義を教える機会であることを理解してもらっています。学校選挙をやりたくない学校の断る理由としては、学校に来る政党によっては、生徒が政党に対する抗議活動が起きちゃうことを恐れている場合です。たとえば、この政党は嫌いだみたいな。
学校は選択制で自由に生徒たちが学校を選べるわけで、それプラスで生徒数が多ければ多いほど国からの助成金をいっぱいもらえます。もちろん学費はかかりません。そこで何が起きるかっていうと、生徒が自由に商品を買うようにして学校を選ぶということです。だから、それでもしそういう騒動が起きたりすると学校の評判が下がるので、そういうのを恐れて学校側がやりたがらないということはあるかも知れません。
私たちとしては、そういう抗議活動も、民主主義的な行動の一つ、やり方だよね当たり前のことだから、悪くはないよと言います。民主主義的な考え方としては、一つの主張があってそれを排除するのではなくて、こういう考え方もあればこういう考え方もある、そういうふうに起きている状態っていうのが民主主義なのだからそれでいいじゃん、と言っています。
他に来校を断る理由としては、極端な主義主張をする政党があって、そこが勢力を拡大していって国会で議席をとったことに対して、ちょっとびびってる生徒たちが結構いっぱいいるというのもあります。校長は、生徒たちがその政党に反対して抗議活動をしたりすることを恐れています。そういうことが起きたら、メディアが取り上げて、学校の評判が落ちるからです。
(質疑応答)
選挙するときにディベートとかして生徒からいろんな意見が出ると思うのですけど、意見をどこかにまとめたりしないのですか? できるだけ政治家はそのまま投票に直結するから、声を聞こうとしています。そのあとに実際に何年も投票していくわけだから、結構大事な機会だと思って接してくるので、できるだけ声を反映させようとしていると思います。 (学校選挙の)一番の目的が、スウェーデンの民主主義を学ぶことじゃないですか。民主主義についてどういうふうに捉えているか? 個人的に思うのは、すべての人の投票が大事だと、投票に限らず、自分の周囲で起きていることだったり自分の人生で起きていることが大事にされたり尊重されたりしていることが民主主義じゃないかと。スウェーデンの民主主義で大事というか重要な役割を果たしているのは、市民社会だと、市民社会が広まることが民主主義が機能することであることで、その市民社会がまわるためには、自由に結社と言うか団体と言うか組織をつくったりしてまわるようにしていくこと、で、そのときに、それぞれの参加している人たち、それこそ障害とか社会的、経済的な背景だったりに関係なく声がそれぞれ尊重されて反映されていくこと、それで市民社会ができる、その市民社会の結果として民主主義ができるんじゃないかということです。 スウェーデンでは若者を資源として捉えているけれど、若者だからこその価値とは、どんな部分だと思いますか? よく言われるのが、若者には将来がある、明日があるというふうに言うけど、私はそうじゃなくて、若者は今その目の前に存在しているじゃないですかと、つまり、そこで生きている、だから、生きている自分たちの身の回りのことを変えていけるようになっていかないといけない、だから、私たちとしては生徒がいる学校だったり学校生活自体を変えていける仕組みとしての生徒会を支援していくということを大事にしている、ということ。中学生とかももちろん学校選挙とかをオーガナイズできるようになるじゃん、ってなることによって、そもそも若いからと言って、年齢で差別するっていうことをしないということ、14歳だからと言って学校選挙の運営が全部できないっていうふうに見るんじゃなくて、できるっていうふうに思っているっていう期待を最初からしていますということです。民主主義は市民ひとりひとりの人が積極的な参画をしてくれないとまわっていかないっていうことはある、そういう意味で、こういう学校選挙だったりとかの機会を通じて参加する方法を教えていくというのは必要だと思う。
学校選挙2018のホームページ
https://skolval2018.se/
Special Thanks
Ryosuke Matsumo