新刊『福祉大生、スウェーデンへいく』好評発売中

こども家庭庁の新「若者政策」を欧州の8つのスタンダードで読む|足りないものは何か

この記事は約12分で読めます。

「若者政策」という言葉を「地域」との関連で、国の予算資料の中でこれほどはっきり目にしたのは、初めてかもしれません。こども家庭庁が2026年8月31日付で公表した令和9年度予算概算要求の資料に、「若者政策地域実装推進事業(仮称)」という新規事業が載りました。資料には、この事業が「若者に対する政策を主要政策として正面から位置付ける」ものだと書かれています。

私はこれまで、スウェーデンを中心に北欧・欧州の若者政策とユースワークを研究し、日本のユースセンターや若者の居場所づくりの議論にも関わってきました。その立場から見ると、この一文は小さくない変化に見えます。同時に、「正面から位置付ける」とは具体的に何を意味するのか、補助事業というかたちでそれが実現できるのか、という問いも浮かびます。

この記事では、まず新事業の中身を一次資料に沿って整理し、次に同じ時期に示されたスウェーデン政府の若者政策の文書と並べて読みます。そのうえで、自治体や実践の現場が考えておきたい論点を、私なりに3つ挙げてみます。

こども家庭庁の新事業「若者政策地域実装推進事業(仮称)」とは

「若者は政策上の位置付けが不明確だった」という出発点

若者政策地域実装推進事業 について

事業の説明資料(令和9年度予算概算要求の概要(主な新規・拡充事業)、10ページ)は、「事業の目的」の欄で、「若者はこれまで政策上の位置付けが不明確で、施策に十分包摂されてこなかったことが指摘されている」と書いています。対象は「若者(15歳~29歳をメインターゲットとする)」とされ、概算要求額は11億円(新規)です。

 

事業の位置づけについて、資料は「令和8年度の骨太方針やこどもまんなか実行計画2026を踏まえ、若者に対する政策を主要政策として正面から位置付ける」と述べ、分野ごとの縦割りにとらわれず、若者自身のニーズや実情に基づいて取り組むことを掲げています。その進め方を表すキーワードが「日常融合型」です。資料は、学校・企業・地域の民間団体・民間支援企業など多様な主体と連携して一体的な支援を行うことを「日常融合型」と呼び、それが「限られた地域資源を有効に活用する観点から重要である」と説明しています。あわせて、「用意した枠組みのなかに若者を当てはめるのではなく、若者の日常の導線上接点となっている場を活用・拡張する形」で進めることも書かれています。

「地域官民連携型」と「居場所構築型」

実施主体は都道府県と市町村で、補助のメニューは2つあります。

  • 地域官民連携型:「自治体と地域の民間支援団体等が連携し、若者が主体的に参画する体制を構築する」もの。補助基準額は1自治体あたり上限5,000万円。
  • 居場所構築型:地域内に中高生・若者の日常の生活導線上で接点となる場が定常的にない場合に、中高生や若者を対象とした居場所(校内カフェなど校内の居場所を含む)を、生活導線を含めてデザインすることを支援するもの。補助基準額は1自治体あたり上限1,500万円。

補助率は、国10/10のメニューと、国2/3(財政力指数1未満の自治体のみ)または国1/2のメニューが示されています。また、地域官民連携型では調査・計画立案の段階から事業者と国による伴走支援も使えること(国から事業者への委託事業)、どちらのメニューにも共通して国と自治体(地域の民間支援団体を含む)との「政策対話」を行うことも書かれています。想定される分野としては、「居場所づくり・体験機会、ヤングケアラー、将来設計(ライフデザイン)、地元企業と連携した支援、若者参画、ピア型支援、住居支援 など」が並んでいます(いずれも同資料10ページ)。

両角
両角

(自治体における)具体的な施策の実行の欄のところで「若者参画」が入っています!

欧州の若者政策の「8つのスタンダード」

欧州では、若者政策がどのような条件を満たしていれば「質が高い」といえるのかが、長く議論されてきました。以前、『若者の権利と若者政策』(明石書店、2023年)の第9章「民主主義を語る若者政策・ユースワークへ――汎ヨーロッパの若者参画施策の経験から」で、その代表的な整理として、欧州の若者団体の連合体である欧州若者フォーラム(European Youth Forum)の「若者政策の8つのスタンダード」を紹介しました。
(以下の本です)

欧州各国を代表するユースカウンシルの欧州レベルの傘団体である「欧州若者フォーラム」は、2016年4月に加盟団体の会議でこのスタンダードを決議として採択し、同年には各団体が自分たちの国や地域の若者政策を点検するためのツールキットも公表しています。スタンダードは、地方・地域・国・欧州のどのレベルの若者政策にも当てはめられる物差しとされています。8つの柱は次のとおりです。

  1. 人権(rights-based):国際的な人権の枠組みにもとづき、若者を権利の主体として政策が組み立てられているか
  2. エビデンス(evidence-based):若者の状況についての調査や最新の知見に基づいているか
  3. 参画(participatory):若者や若者団体が、政策の形成から評価までに関わっているか
  4. 多層性(multi-level):国・地域・自治体などのレベルが協調して若者政策に取り組み、それぞれの責任がふさわしいレベルに置かれているか
  5. 戦略(strategic):目標や時期、投じる資源が明確な戦略になっているか
  6. 予算(sufficient resources):予算や人の配置が十分か
  7. 責務(political commitment and accountability):政治がはっきりとコミットし、その結果を説明する仕組みがあるか
  8. 領域横断(cross-sectoral):若者に関わる省庁や部局、公的機関が連携して政策をつくり、実施し、評価しているか(たとえば教育、雇用、福祉、住宅など)

スタンダードに照らして新事業を読む

応えているところ

この物差しを当ててみると、新事業はいくつかの柱にはっきり応えようとしています。分野ごとの縦割りにとらわれない「日常融合型」は領域横断に、国と自治体(地域の民間支援団体を含む)との「政策対話」は多層性に、「若者が主体的に参画する体制を構築する」とした地域官民連携型は参画に関連しそうです。

事業実施のイメージの最初に、ヒアリングなどの定性的な情報とデータの両方で地域の「若者」の状況を把握することが置かれている点はエビデンスに、実行計画がKPIの設定を掲げていることは戦略につながるものです。「若者はこれまで政策上の位置付けが不明確」だったという出発点を考えると、これらが一つの事業のなかに並んだことの意味は小さくないと思います。

まだ見えていないところ

一方で、次の3つの柱については、資料からはまだ十分に読み取れません。

1つ目は「予算」と、それを支える持続的な仕組みです。新事業は、自治体が手を挙げて国の補助を受ける事業として設計されており、補助基準額にも上限があります。若者政策を始めるきっかけとしては大きな意味がありますが、国の補助が終わったあとに取組が続くかどうかは別の問題です。欧州評議会も、2017年のユースワークに関する閣僚委員会勧告(CM/Rec(2017)4)で、持続的な財源と仕組み(sustainable funding and structures)の重要性を挙げています。

2つ目は「責務」です。実行計画はKPIの設定を掲げていますが、何を指標にし、その結果を誰に、どのように説明するのかは、これからの制度設計にかかっています。私は「新自由主義から降りるユースワーク」について考えてきた立場から、指標が若者の時間や関係を「成果」に置き換えてしまわないか、という点にも目を向けたいと考えています。何を数え、何をあえて数えないのかを、地域の若者や実践者と一緒に決めていけるかどうかが問われるはずです。

3つ目は「人権」と、それに裏づけられた参画の深さです。事業の目的は、すべてのこども・若者が権利を保障される「こどもまんなか社会」から書き起こされています。ただ、若者に固有の権利として何を保障するのか、たとえば自由に過ごす余暇や、自分たちに関わる決定に影響を与えることが、事業の評価の軸にどう組み込まれるのかは、まだ見えません。参画が計画づくりの一場面にとどまるのか、事業の運営や評価にまで及ぶのか。官民連携の「民」に、若者自身や若者団体が入るのかどうかも、制度設計の段階で問われると思います。

スタンダードに照らして見るスウェーデンの若者政策

8つのスタンダードに対応する仕組みを読み取りやすい国の例として、スウェーデンを紹介します。(概要や歴史的な経緯は拙著『若者からはじまる民主主義ースウェーデンの若者政策』(萌文社, 2021年)で参照可能です)

スウェーデン政府は2026年6月11日、若者政策の基本文書である若者政策に関する政府報告書(Ungdomspolitisk skrivelse, Skr. 2025/26:283)を決定し、国会に提出しました。この報告書と政府のプレスリリースから、スタンダードに対応する仕組みを拾ってみます。

  • 人権:若者政策の目標は、すべての若者が「よい生活条件をもち、自らの人生を形づくる力と、社会の発展に対する影響力をもつ」ことです。対象は13歳から25歳とされています。報告書は、この目標が子どもの権利条約の権利にもとづくものであり、同条約がスウェーデンでは法律になっている(barnkonventionen är svensk lag)ことにも触れています。
  • 領域横断:この目標は、若者に関わる国のすべての決定と施策に向けられたものとされています。プレスリリースは、若者は社会のあらゆる部分・部門にいるのだから「若者政策も分野横断的(tvärsektoriell)でなければならない」と説明しています。
  • 戦略:報告書は、①心身の健康、②社会的包摂と労働市場への参入、③「意味のある、安全な余暇(meningsfull och trygg fritid)」、④社会づくりへの参加、の4つを優先分野に掲げています。政府は2021年の前回の報告書の優先分野を引き継ぎつつ、一部を見直しました。
  • 参画:プレスリリースによれば、余暇の優先分野は若者団体からの意見を受けて「安全な余暇」であることがわかるように言い換えられました。また、国は子ども・若者団体への国庫補助に関する政令(SFS 2011:65)で、「子どもと若者の自律的な組織化と社会への影響力を支える」ことを目的に、団体に補助金を出しています。
  • 多層性:報告書は、自治体(kommuner)を「若者のための取組に資金を出し、支え、促進し、実施する」存在と位置づけています。
  • エビデンスと責務:若者政策の担当機関であるMUCF(若者・市民社会庁)が、若者の生活条件の変化を毎年報告する仕組みがあります。(Ung Idag というサイトです https://ungidag.se/)政府自身も、報告書というかたちで国会に若者政策の進み具合を示しています。
  • 予算:プレスリリースは、子どもと若者の余暇活動のための「余暇カード(fritidskortet)」や、社会的排除の大きい地域のスポーツ活動への恒久的な1億クローナの補助などを、具体的な施策として挙げています。

スウェーデン政府は同じ2026年に、MUCFに、ユースセンターを含む「オープンな余暇活動(öppen fritidsverksamhet)」の全国的な推奨づくりを委託しており、この点は以前の記事で紹介しました。

なお、ここでの紹介は日本の新事業とスウェーデンを一対一で比べるためのものではありません。スウェーデンの報告書は国の若者政策全体の基本文書であり、日本で比べるのであれば、一つの補助事業よりも、こども大綱やこどもまんなか実行計画のような国の方針の側が比較の対象になるはずです。そのうえで、スタンダードに照らして日本の若者政策の全体像を点検するときの、一つの参照点として読んでいただければと思います。

自治体と現場がいまから考えておけること

新事業はまだ概算要求の段階ですが、自治体や民間団体にとっては、地域の若者政策を見直すきっかけになりえます。8つのスタンダードを手がかりに、次のような問いを関係者で共有しておくことをおすすめします。

  • 1. 地域に、15歳から29歳の若者が日常的に立ち寄れる場はどれだけあるか。中学生以降、若者が過ごせる場が途切れていないか(人権)
  • 2. 地域の若者の状況を、調査と若者自身の声の両方から把握できているか(エビデンス)
  • 3. 若者の声を聴く仕組みは、計画づくりだけでなく、事業の運営や評価にもつながっているか(参画)
  • 4. 若者に関わる部署や団体(教育、福祉、労働、まちづくり、ユースセンター、NPOなど)は、互いの取組を知っているか(領域横断・多層性)
  • 5. 補助が終わったあとも続けられる体制や財源の見通しはあるか(予算)
  • 6. 取組の成果を何で示し、誰に説明するのか。数値だけでなく、若者自身の言葉や経験をどう残すか(責務)

「若者政策を正面から」という言葉が、地域で若者の時間と声を大切にする仕組みにつながるのか。それとも、一時的なモデル的取組で終わってしまうのか。その分かれ目は、国の制度設計だけでなく、自治体レベルでもどんな問いを立てて事業に向き合うかにもかかっていると考えます。

参考文献・参考リンク


Tatsumaru Timesをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

コメント

Tatsumaru Timesをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

タイトルとURLをコピーしました