スウェーデンの若者の投票率が高い理由
スウェーデンの学校教育のある教材が、この国が理念として掲げて作り出そうとしている民主主義をよく表している。
以下にあがっているものです。
Vi har tagit fram två metodmaterial till stöd för lärare i grundskolan som vill utveckla klassrådet. En bok som är anpassad för grundskolans årskurs 4-6
このハンドブックは、Demokratiakademin (Democracy Academy)という民主主義と人権を擁護するネットワーク組織が作成したもの。スウェーデンに学校には、クラス議会(Klass Råd)という日本でいう学級会のような組織が各学校のそれぞれの教室で組織されています。その「クラス議会のためのハンドブック」がまさにこの教材です。スウェーデンの基礎学校の7〜9年生(日本の中学生)むけです。
本日ある打ち合わせがあり、その中でこの教材の目次部分だけ印刷して、その場で訳して読み上げたらこの内容に衝撃を受けたのです。学級会のためのハンドブックなのに、スウェーデンの考える民主主義を教えているような気がしたからです。
スウェーデンの学級会ハンドブックで教えていること
以下、目次部分だけを翻訳しました。
このハンドブックの使い方
クラス議会 どうやるの?
- 身近な民主主義
- 学校の民主主義
- 互いに理解し合うにはどうしたらいいか?
- 合意するにはどうしたらいいか?
- 会議の形式
- 何に影響を与えることができるか
- 私の学校
- うまく学習するには?
- ともに教育する
- ともに知識を作り上げる
- 私たちの権利
- 労働環境
- 世界最高の労働環境
- 私たちはいい労働環境に恵まれている?
- 目に見えない労働環境
- 差別の禁止
- なぜ良い友達であることが大事か
- 学校の差別禁止条項
- 差別
- 抑圧の方法と促進の方法
- 対立を乗り越える(コンフリクトマネジメント)
- 規範
- 年齢
- みんなと公平に接しているか
- 誰が「私」を決めているか
- 誰が「力」を持っているか
- 学校のことを決めているのは誰か
- 自治体に影響を与えるにはどうすればいいか
- 協会・団体(förening)を始める
- メソッドバンク
- すべての人が参加する方法
- 効率の良い会議の方法
- もっと読みたい人へ
- デモクラシーアカデミーについて
- あなたの権利を尊重することについて
という感じです。
勝手に章の内容を推測して解説してみる
この中身をパッと通読したときに、これまでスウェーデンで見てきたことの答え合わせができたような気持ちになりました。まだ、目次しかみていませんが確信を持ったんです。これまでみてきたものすべてが無駄じゃなかった、と。
章立てからこんな感じの内容じゃないかと推測して、勝手に解説してみるとこんな感じ。
—
まず、民主主義は、異なる他者が違いを乗り越え、互いに理解しあって合意に至る過程そのもの。合意の結果、何に影響を与えられるのだろうか?まず中学生にとって身近なことといえば、学校のこと。日々の学習の方法に影響を与えることができるので、どうやって自分のやり方で勉強するかをまず決めてみる。その中で、グループワークなどを通じて、一緒に調査をして、知識を積みあげるという方法があることを知る。(ここまで1・2章)
第3章では、権利について知る。子どもの権利条約を読み、日々の生活の中でいかに権利が実現されているか、あるいは阻害されているかを考える。
第4章で「労働環境」をあつかうのはそれもまた身近なテーマだから。生徒が大人になったとき、あるいは生活をともにする父と母、保護者のみんなが仕事をしているから。そこでいい労働環境とはどんな場だろうか考え、それに照らし合わせて自分たちのいる社会では、いい労働環境が実現されているかを考える。
第5章では差別禁止について。学校の差別禁止条項についていきなり入るのではなく、「いい友達とは何か?」をその前に挟んで、理解しやすいようにしている。スウェーデンの差別禁止法では、差別を以下の項目ですることを禁じている。
ここに触れた後には、「抑圧の方法と促進の方法」の違いについて触れている。抑圧的なコミュニケーションは、人を対等に扱わないで何かしらの差別的な振る舞いが含まれる。 その後、対立が生じたときにはどうしたらいいかというコンフリクトマネジメントについて説明する。この章はかなりいじめ撲滅NGOの取り組みと通づるものがある。 第6章のテーマは「規範」。人は、その人の属性やステータス(年齢、性、国籍など)によって振る舞いや考え方が規定される傾向にある。「男らしい振る舞い」とかというものが、ジェンダーによる「社会規範」というもの。つまり「あの子は女だからこうだ」と決めつけることは「みんなを公平に接すること(同章の項目)」に反する。それを客観視し、さらにそもそも自分を自分たらしめているものは何か(他者であり所属するグループだろうね)、をこの章の最後で考える。 最終章では、どこにどんな「力」があり、何ができるのかを確認する章。権力とは保持しているだけでは権力たり得ず、流動的でうつろいやすいものである、というポストモダンなことを教えている…といったら大袈裟だが、それでもかなり本質を突いている。そして学校政策に権力を持っているのはコミューン(自治体)であり、自治体に影響を与えるためには、団体・協会(Förening)による圧力が有効だ。よし、結成しよう!(あ、そこにクラス会議も含まれるよ)という流れだ。 最後は具体的に、会議に誰もが参加できるようにする方法、効率の良い会議方法など実践的な内容で締めくくる。
「効率の良い会議」と「民主主義(哲学)」をつなげる
この章立てをみたときに、自分がこれまで研究してきたテーマ(若者の参加、権力関係の転換、民主主義)と、スウェーデンの訪問先で聞いてきた話の、それぞれの「点」が「線」になった気がしました。ああそういうことなのかと。最近は、社会規範の突破がない限り、社会って変わっていかないよな、といじめ撲滅のNGOフレンズの取り組みから考えさせられていたので、パズルのピースがすべてつながった思いです。
日本で売られている北欧の教育実践の本は、「創造性・主体的な学びの促進」「会議のルール(意見を尊重する)」といったものが多い気がします。それはそれでいいのですが、ただそれだけでは、結局「効率の良い会議の仕方」「ファシリテーション」「イノベーション」「自己の成長」というこれまで通りの狭い文脈に絡みとられてしまうと思っています。ビジネス書なんです結局。ぼく自身、そういう本は色々と読んできましたが、さて民主主義をそこで教えている本はあっただろうか。(「市民の日本語」は名著ですが)
しかし、その文脈だけだと「真っ当な社会を作るためにはどうしたらいいか?」という発想や行動には繋がらないでしょう。逆に民主主義の本となると、理念としての民主主義をあつかう哲学的なものが多かったりするので、普通の人が読みにくかったりします。
今、必要なのは、「効率の良い会議」と「民主主義」をつなげ、しかも誰もが理解できるような本でしょう。