教育政策の目的は「学校間競争を促す」でいいのか?

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週末に永田町のこのイベントに参加してきました。
「若者の若者による若者のための参院選マニフェスト評価会!〜おおさか維新の会編〜」

 イメージ

イベントの主催は、日本若者協議会とおおさか維新の会なのですが、日本若者協議会はスウェーデンの若者団体の圧力団体「スウェーデン若者協議会(LSU)」をモデルにしているということもあって、個人的に関心を持っていました。ぼく自身もLSUには過去、3回ほど訪問しています。

時間がタイトでぼくは主役ではなかったので発言は控えたのですが、おおさか維新の会のマニフェストで掲げる「教育改革」についてちょっと専門領域をかじっている身として、会議中に物申したいことがひとつだけありました。

ずばり教育の目標が「学校間競争の促進」でいいのか?

という点です。

おおさか維新の会の教育政策

今回の会はマニフェストを評価する会だったのですが、どうみてもマニフェストが間に合わなかったんだというのが、如実にわかるのが教育改革の項目です。

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この重点政策の中で、教育について触れているのは、2点目の「憲法改正:教育無償化」と5点目の「教育改革」です。

すべての人に教育へのアクセスを

憲法改正の教育無償化のところでは、「経済格差が拡大しており、格差や貧困の連鎖を食い止める必要がある。財源の問題で不可能だった教育無償化を憲法で明文化。国に財政措置と法整備を義務付け、幼児教育から大学院まで無償とする。どんな政権下でも機会平等社会実現」

国連ミレニアム開発目標で掲げたEFA (Education for All) =万人のための教育を推進するには、新自由主義的な舵取りによって経済格差、子どもの貧困が深刻化している日本では、学費無償化はある程度効果があることかと思います。それを憲法で明文化することの有効性がどれだけあるのかはわかりませんが。

ちなみにスウェーデンでは学費を徴収することは法律で禁じられています。加えて大学生には返済不要な奨学金が月4万円、返済型とあわせると合計で14万円、必要な人すべての人に支給されます。

OECDによると、大学に入学する学生の平均年齢は日本は19 歳ですが、スウェーデンは25歳です。つまり、スウェーデンの若者は高校卒業後、すぐに大学に行くわけではありません。バイトをしたり旅をしたり、趣味に没頭するなどしています。その中で進学する人は、専門学校や大学で学びたいことを明確にしていきます。それゆえに、高校を卒業してからしばらくたってからも、大学入学に必要な高校の成績をアップするために再び授業を受けることも普通ですし、「一年に一度しか大学進学のための試験がない」ということもありません。また、僕は26歳でスウェーデンの大学院に入学しましたが、最年少の中の一人でした。そのくらい社会人から戻ってくる人が多いということです。産休中の母親もよくベビーカーを押して教室にきます。つまり、包括的な生涯教育が実現しています。

 

スウェーデンの教育の特徴としては、高校までが義務教育であること、大学の学費が無償であること、奨学金が充実していること、加えて大学に入学する平均年齢が高い、つまり高校を卒業してかすぐに大学に行けというプレッシャーがないことがあげられます。 ギャップイヤーが普通なんです。

そういう意味では、高等教育の学費を無償化するだけでなく、奨学金問題と合わせて、生涯教育という文脈の中で「19歳で入学しないといけない」という妙な慣習を変えていかないといけないように思いました。これは年齢を気にする儒教圏ならではの問題かもしれませんが、いずれにせよ、工業化を終えて成熟社会に突入している先進国の共通の課題となっている「若者が大人になるルートの多様化」を考慮すると、入試と年齢で輪切りすることはニーズに応える策とはならないでしょう。

学校間競争が目的?

5点目の「教育改革」では「教育バウチャーの支給により、教育を無償化、学校間競争の促進」としか書いていません。

大阪で行われた教育バウチャー制度は、塾へのバウチャーですが、あくまでEFA(すべての人のための教育)を実現する「補完的な」手段としての位置付けにとどめるべきではないでしょうか。というか大阪市で行われたのは塾へのバウチャーなので、これが国政レベルで起きると塾業界と教育政策がより統合されて関係の固定化を招くのではないのでしょうか。というか塾自体、今の「一点突破ワンチャン受験」の入試制度を前提にしているので、入試制度が多様化されれば「人気塾講師」自体もん死語にあっていくのではないでしょうか。

問題は、「学校間競争の促進」について誰も触れなかったことです。

その理由には、「学校間競争を促進すると、学力があがる」という幻想があるのではないのでしょうか。

スウェーデンは世界でも先立って、新自由主義的な教育政策を1990年代から導入してきました。学費は、税金をそれぞれの学校へ配分すること無償化を実現しています。学校への税収の配分は、生徒一人当たりの教育費を児童生徒数で算定した金額が、地方自治体から学校に支給されるという仕組みになっています。こちらはこれを「教育バウチャー制度」と呼んでいます。つまり、生徒の数が多ければ多いほど、より多くの予算が政府からおりてくるということです。これにあわせて、教育の地方分権化、バウチャー制度の導入、私立学校の設置の許可、学校選択制の導入、さらに民間の新規参入を妨げないために、運営主体が利益を上げることも許可されています。

わかりやすく強引に言うならば、日本でいう予備校のような状況になっているのです。

スウェーデンの教育政策の変遷 : 作成 Jonas Gustafsson

スウェーデンの教育政策の変遷 : 作成 Jonas Gustafsson

この図でいうと、スウェーデンの教育政策は中央集権的で、政治介入の強かった第2象限から、分権化が進み、市場原理が働く第4象限へ移行したことがわかります。

しかし現状は、学校の統廃合が進み、学校間格差が拡大し、負の影響が出始めました。研究者間では教育政策のコストの削減と質の向上は現れていないと結論づけています。

学校教育庁の報告書によると、1998年から2004年の間に

・基礎学校の生徒の成績幅が、59%から66%へ上昇
・学校間格差は、8%弱から12%弱へ上昇
・社会経済的背景が成績に与える影響が23から39ポイントまで上昇

しました。
教員は非正規で、資格がない人でも雇われる状況が続き、つまりいい教育がクラスの中で起きていないのです。ある学校では、高校でスケートボードなどができるクリエイティブな学科を作り、若者の支持を集めましたが、現状はその学科に出た後、大学に該当する科目がないから進学もしにくいといったミスマッチも起きたりしています。

PISAの点数も下がり続けています。スウェーデン国内で社会的・経済格差が拡大しているこも一因でしょう。「学校間競争を促す」ということが、質の高い教育に結実するとか限らない、ということがスウェーデンの例からわかります。このあたりをさらに知りたい方は、以下の本のスウェーデンの章を読むといいです。

同じ北欧でもフィンランドはがPISAで高位を維持しているのは、フィンランドはスウェーデンほど新自由主義的な教育政策に踏み切らなかったからです。しかし、留意点はどちらの国も学費は無料で学校間の格差は、それでも日本ほど大きくはないということです。フィンランドと日本はPISAのスコアではどちらも「優秀」で上位にいますが、フィンランドがすごいのは、学校間の格差が少ないながらこれを維持しているという点です。つまり、底辺校とエリート校の差が小さいのに国際的な学力ランキングでトップレベルということは、底辺校が少なく、普通レベル以上の高校が多いということです。日本はPISAの点数が上がっていますが、「プルトップ」(トップ校が平均点を上げている)批判があります。つまり、底辺校と上位校の差が開いていても、上が高ければ平均点は上がる。つまり優秀な人はさらに優秀になっているけれど、下が拡大していることは無視しているということです。

だから、目指すは学校間の格差を出さずに底上げで質の高い教育を提供する、ということです。
おおさか維新の会が惜しかったのは、機会平等の実現を目指そうとするも、(教育の質が悪くなるかもしれない要因となる)学校間競争を促すことを教育改革に盛り込んだということです。いずれにせよ、バウチャー制度、学費の無償化も、それを支える思想から立ち直ってグランドデザインする必要がありそうです。

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