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スウェーデンのNGOに学ぶいじめが発生する原因とその解決策|月刊児童心理に寄稿しました

月刊児童心理の5月号に寄稿しました。
こちらのブログから問い合わせがあり、スウェーデンのいじめ対策についての執筆を依頼いただき、完成した原稿が無事、出版されたようです。
出版社からも許可をいただいたので、以下に原稿を掲載します。なお、ブログ版ということで画像なども挿入してさらに装飾してみました。
それではどうぞ。

 

海外でのいじめ問題対応|スウェーデン

いじめは日本だけでなく、しばし「国民の幸福度の高い国」として名高い、ここ北欧のスウェーデンでも起きている。スウェーデンでは毎年6万人もの子どもがいじめの被害を受けている(1)。この統計はいじめ問題解決に取り組むスウェーデンの非営利組織であるFriendsが算出したものである。スウェーデンでは、国が定めた法律で、子どもたちが受ける差別的行為や嫌がらせに対して、どのように対処していくか、各学校で計画を立てることが義務づけられている。Friendsは、その計画作りのサポートをしている非営利組織である。

スウェーデンのいじめ撲滅を目指す非営利組織Friends とは?

 

インスタグラムの発信にも力を入れている

Friendsは、「幼稚園・学校・スポーツクラブで起きるいじめを撲滅する」というミッションのもと 1997年にサラ・ダンバーによって設立された非営利組織だ。啓発・研究・ガイダンス・提言の4つを柱にして、スウェーデンの主要都市で活動を展開する。

創設者のサラ自身も中学生の時にいじめにあい、クラスのリーダー的存在であった一人の男子生徒に助けられた経験があった。その後、いじめの経験を伝えるために講演会を開くようになり、19 歳のころに当団体を設立した。

財源は、3 分の 1 が学校やスポーツクラブからの依頼費で、残りは銀行などの民間や個人からの寄付金で運営しており事業費は稼いでいない。スウェーデン最大規模の電波会社や銀行など多くのスポンサーがFriendsをサポートしており、スウェーデン首都近郊のFriends Arenaという巨大スタジアムがあるが、これはSwedebankという銀行会社がこのアリーナの命名権をFriendsに寄付したがためにFriends Arenaという名前なのである(画像1)。Friendsの本部はストックホルムのこのスタジアムのすぐ脇に位置し、45人の職員が働いている。

銀行が命名権を譲渡したアリーナ
画像1:提供 Frankie Fouganthin CC BY-SA 3.0

 

Friendsは毎年、46,000 人以上の教員や保護者、子どもたちにいじめについて知ることができる機会を提供している。啓発事業も行っているが、基本的にはFriends自体は、いじめを「直接」解決する取り組みを実施するわけではない。いじめを直接的に解決する主体は、学校やスポーツクラブに関わる全ての人とその組織なのだ。Friendsは、いじめ撲滅の計画をその当事者である子ども、保護者、教員が適切に作れるように支援することに活動を限定している。そのためにいじめが起きる原因などについて大学などと連携して研究し、啓発活動も行う。

いじめに対する認識を変える

いじめを撲滅するために鍵となるのはもちろん教員や保護者である、大人だ。しかし、どんな大人でもいじめ問題をうまく対処できるわけではない。Friendsは、いじめ問題を解決するには、経験則に基づいたあらゆる偏見と主観を無くすことが大事だと考える。

たとえば、子どもが、自分がいじめられないように身を守るコミュニケーションをしていたとしても「あの子はこういう子だから」「これがこの子の性格だ」といった偏見で大人が判断してしまうことがある。それゆえに、実際にはいじめが起きているのに、いじめだと認識ができないということが起こる。いじめ問題に関するこのような経験則を取り除きいじめが起きる原因や構造に対して、組織レベルで公平に対処してようやく解決の一歩を踏み出せる。それがFriendsのアプローチだ。

いじめが発生するレベル別の原因(表1)

単位レベル

いじめが生じる原因

社会

社会的な規範が行動・価値観を制限して発生

・振る舞いが男らしい女の子が他の人と違うからという理由で発生
・教員と生徒との関係性

組織

人的流動性の高い組織が機能不全に陥る場合に発生

グループ

グループを形成するために他人を排除しようとする感情や、
権力闘争の果てに他者を利用する際に発生

個人

価値観の相違、個人の空虚感などにより発生

Friends は、様々なレベルでの「規範意識」が、いじめが起きる理由の一つだと結論づけている。規範意識によるいじめの原因を分析するために、Friendsは表1の4段階のフレームワークを提示している。たとえば、学校のクラスの場合、クラス内の特定のグループでの権力争いが原因であったり、グループをまとめるために誰かを笑い者にしたりするという「グループレベル」の規範意識が原因でいじめが起きるという分析ができる。

あるいは、「男らしい」振る舞いをする女の子が、他の女の子と少し違うからという理由でいじめが起きる場合は、「社会レベル」の性差の規範意識が原因になるというわけだ。これがときには、教室、サッカーチーム、職場など場所を変え、規模を変え、長く続く時もあれば短く続くこともある。そのように、いじめは複雑な諸事情が絡み合って起きる問題なので、一枚岩に解決策を提示することは難しい。故に、いじめ解決のプランを作るのは現場で事情を最も知っている教員、学校職員、保護者、そして当本人の子ども達ということになるのだ。

いじめ問題解決の対策を練るにはまず、各クラスの代表の子ども、教師、学校運営者らの3つのグループに分かれて、いじめ対策のための3カ年計画を立てる。企画の前には、Friendsがアンケート調査を実施し、その分析結果をそれぞれのグループに伝える。これをもとにそれぞれのグループは対策を立て、実行に移す。実行して一年が経った時点で、再びグループで集まり、実施内容について事後評価をする。

このようにFriendsは、現場の「当事者こそ専門家」という信念に基づき、経験主義ではない科学的な分析に基づき、いじめ対策のPDCAサイクル (Plan:計画:→Do:実行→Check:評価→Act:改善)を回すことをサポートすることによって、いじめ撲滅のための着実な施策を実行している。

当事者である子ども達が実際に計画したいじめ撲滅のプランは、たとえば、いじめ問題を啓発するビデオやポッドキャストの作成や、ワークショップの開催などが多いという。

具体的なアクションを実行する際のポイントは、

  • 子どもたちをプログラム設計に巻き込む
  • 単発ではない継続的なプログラムにする
  • フォローアップを欠かさない(8週間後と2ヶ月後)

ことである。フォローアップは、Educatorという肩書きを持つFriendsに務めるスタッフが学校に連絡をとり、時には学校に赴いて、プロジェクト実施の進捗を確認し実施の影響を継続的に確認していく形で行われる。

実際にFriendsのサポートのもといじめ問題解決の対策を実施した組織は、平均で24%いじめが減少するという結果を出している。さらにFriendsのサポートを受けた学校の4分の1は、いじめの発生件数を半減させたという統計も出ている。

子ども・保護者・教員の立場からいじめ解決のために今すぐできること

Friendsのホームページ

Friendsのこれらの取り組みは非常にシンプルなようにみえるがこれは裏返すと、これまでこのようないじめ問題を解決する「基礎的な」仕組みと理論が欠落していたことの表れであるともいえる。さらにFriendsは、明日からでもすぐに使えるいじめ問題を解決する方法をホームページ上にて公開している(2)。子ども、保護者、教員のそれぞれの立場からいじめ問題の解決のためにできることをまとめているが、今回は誌面の都合から教員の立場からできることのみを紹介する。

学校の教員ができること

学校にはそれぞれの学校のニーズと、それに対してできることに限度がある。どのような問題にでも対処できる普遍的な方法はないので、最初の一歩はアンケート調査によって正確に学校で起きている状況を把握することにある。

・まずは学校の現状把握から

まずはマッピングによる問題の可視化をする。マッピングは、職員と子どもの実体験を出発点とする。職員と子どもへのアンケート調査、会話、観察、そして文書の分析などの様々な方法でマッピングが可能だ。そして教員の力量も把握しておくことも重要である。いじめの状況を正確に把握することなしに、手段を打つことは不可能だからである。

・すべての人をまきこむ

大前提として学校に関わるすべての大人は学校内外にかかわらず、平等、差別禁止、民主主義など学校の基本的な原理原則を共有しておくことが求められる。これらの価値をなんとなく意識するのではなく、常日頃から意識できている状態を目指さなければならない。これは「制度化」をすることで常に意識できるようにできる。

・専門家なのは子ども自身

学校を安全に保つこれらの活動に、子ども自身に関わってもらうことが必須である。子どもは、学校の対策の計画段階、実施、評価のすべての過程において参加していることが不可欠だ。そうすることで、その取り組みは地に足のついたものとなり、結果的に効率よく、効果的に対策を練ることができる。なぜなら、いじめは子どもたちの日常生活で起きているからだ。学校では子ども自身が専門家ということである。

・合意形成する

すべての職員は暴力を起こす臨界点がどこにあり、もしそれが起きた時に何をすべきなのかを知っていないといけない。また保護者も同様である。子どもも職員も、学校が大事にしている価値が破られたときがどういうときか、そしてどのように対応すればいいのかという合意形成をしておくことが重要だ。保護者に関わってもらう方法の一つに、たとえば、保護者会で何が「侮辱的」な言動であるかなどについて議論したり、学校や家庭でこのような問題について話し合うためのガイドラインを作成するという方法もあげられる。

・明確な制度設計

いじめは長期的な視点で透明性の高い体制を整備して対処する必要がある。誰が何に責任をもって対応し、誰が何のスキルを持っているかということを明らかにして、対処の手順を明確にしておく必要がある。

このようにFriendsはこれまで「経験主義」のみを頼りにしていたいじめ問題を、科学的でシステマティックに、なおかつ現場に根ざした方法によって解決してきた。2017年5月には、世界国際いじめ反対フォーラム(3)がスウェーデンにて開催され、世界37カ国からの550人のいじめ問題解決の研究者および実践者が参加したが、日本からの参加者はいなかったという。(※なお次回開催は2019年)

 

日本のいじめ問題をスウェーデンの方法によって解決できるほど、いじめ問題は単純ではないからこそ、日本は「日本の当事者性」を以ってして、このような機会に足を運んでいじめ問題の見識と経験を積み上げ、共有し、いじめ問題解決に取り組まれたい。

 

両角達平

 

(1) Friendsホームペー ジ|いじめについて https://friends.se/fakta-forskning/om-mobbning/

(2)Friendsホームページ|いじめを防止するhttps:/friends.se/fakta-forskning/om-mobbning/stoppa-mobbning/

(3) 世界国際いじめ反対フォーラム
http://www.wabf2017.com/


掲載されている児童心理5月号は以下のよりお買い求めいただけます。

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