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スウェーデンの学校ではどのように政治を教えているか?スウェーデンの主権者教育の教材を全訳しました。

この記事は約13分で読めます。

グレタだけじゃない?政治に参加するスウェーデンの若者

スウェーデンは、選挙の投票率が高いことで有名です。2018年の総選挙では、約87%を記録しました。多くの先進国では、若い世代ほど投票率が低くなる傾向にありますが、スウェーデンの若い世代の投票率は約85%と、全世代の投票率とほとんど解離がありません。

また、スウェーデンの若者は、社会への意識や関心が高いことも様々な統計からも明らかになっています。

日本と比較してみましょう。内閣府の子ども・若者白書(平成26年)によると、「社会をよりよくするため、私は社会における問題に関与したい」という質問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた満13~29歳の若者の割合は、日本は44.3%に対してスウェーデンは52.9%という結果です。最高は調査対象7カ国中でドイツで76.2%で、日本の若者が最低です。「社会現象が変えられるかもしれない」と答えた若者も同様の傾向にありました。

 

スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥンベリのみならず、多くの若者がこのように社会への高い参画意識を持っています。さらに若い政治家も多く、現政権においては22歳の国会議員が2名もいて、全国会議員の約10%が30歳以下です。

なぜスウェーデンの多くの若者は政治に参加するのでしょうか?
スウェーデンは、なぜ若者が政治に参加する社会なのでしょうか?

社会への影響力を高める学校教育

この問いへの答えを学校教育に求めるのならば、学校における生徒の影響力を高める教育、環境整備があるからといえるでしょう。

 

スウェーデンの学校においては、以下の4つの機会を通じてこれを可能にしています。

  1. 学級会・生徒会
  2. 給食委員会
  3. テーマ学習
  4. 学校選挙

学校選挙というのは、学校でおこなわれる実際の選挙にあわせて開催される未成年のための模擬選挙です。模擬選挙の投票前には学校で地域の政治家を招いた討論会を開いたり、近くの広場に設置されている「選挙小屋」に出向いて、政党の主義主張をインタビューする宿題を課すなどして、できるだけ実際の選挙に近い学習環境を保障しています。

 

ある高校の社会科の授業では、党代表者になりきるロールプレイを導入した授業を実施していました。

スウェーデンでは学校内においては、このような機会を通じて、選挙にかんする情報提供を行い、政治や民主主義について学ぶ機会を保障し、さらには学校を越えた実社会への影響力を高める力をつけているのです。

学校で政治を教える?どうやって?

とはいえ、政治や民主主義について教えることは容易ではありません。あなたが政治について教えることになったとき、例えばこんな疑問がすぐに浮かんでくるでしょう。

  • どの様な方法で教えればよいのか?どんな準備が必要で、評価やフォローアップをどのようにすればよいか?
  • そもそも教えたい政治とは?民主主義の価値や、その方法とは何?
  • 特定の政党に偏ることなく中立を保ちながら、どのようにして政治を教えれば良いのか?
  • そもそも中立とはどのような学校教育や民主主義の理念に基づけば判断できることなのか?
  • 政治家を招いた討論会をするにあたって、どんな質問をしたらいいか?
  • どのようにすれば生徒に政治について関心を持ってもらえるか?授業や対話の場で発言がしやすくなるか?

そのような疑問に答えてくれるのが、”Prata Politik” (政治について話そう!) というスウェーデン若者市民社会庁が出版した教材です。この冊子の翻訳が完了し、日本語版をWebにて無料公開することになったので、お知らせします。

「政治について話そう!」が作られたのはなぜ?

「政治について話そう!」は、スウェーデン若者市民社会庁という、スウェーデンの若者政策を担当する省庁が作成した、教員向けの教材です。

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スウェーデンの学校には「民主主義を教えるミッション(使命)」があり、教員はその役割を果たす義務があります。しかし昨今では、ソーシャルメディアの利用が若い世代で加速し、フェイクニュースが飛び交い、政治にかんする報道や情報が錯綜しています。また、スウェーデンも多分に洩れず過激な主義主張を掲げる政党が躍進しています。そのような政党が模擬選挙の討論会のために来校した際に、生徒が来校を阻止するといような事件も実際に起きています。

主義主張が極端であるが故に反発する生徒が少なからずいるとはいえ、国会で議席を有している政党であるのも事実です。学校としては、そのような政党を学校に招かないという判断をしていいのか?その様な騒動が起きないように、どうしたらよいのか?起きた場合にどの様な対応をすれば良いのか?そのような過激な「民主主義」ではない、熟議を基盤とした民主主義を教えるにはどうしたらよいのか?

「政治について話そう!」はこの様な疑問に答えるために作成されました。実際のスウェーデン語の最新版の冊子は、以下のページにあるものです。

Prata politik | MUCF

Prata politik | MUCF
Prata politik! är ett metodmaterial för dig som arbetar på högstadiet eller gymnasiet. Det är ett stöd för lärare som vill bjuda in politiska partier till sina …

目次はこのとおり

そのような背景がある中で作成された教材ですので、中身はスウェーデンの現場の学校教員に沿ったものとなっています。例えば、目次はこのようになっています。

  • 学校がその基礎におく価値観と「民主主義のミッション」ー政治についての対話に学校で取り組む際の、その基本となる規則とガイドラインについて
  • 実施前:取り組む前に考えることー政党が来校した時の生徒と教職員の対応について
  • 実施:みんなでやってみよう!ーやり方、ヒント、議論で使える生徒・職員への質問
  • 実施後:評価とフォローアップー政党が来校して実施した活動を評価する方法
  • 学習事例

まずはじめに、学校で民主主義を教えることの意義、そもそもスウェーデンの学校において民主主義を教えるとはどのようなことなのか、その際に根拠となる規則などは何か、などを明確に示しています。

次の章からは、さっそく実践編です。実施前の準備段階、実践方法、実施後の評価やフォローアップ、それぞれで具体的に何をしたら良いかを、具体的なアクティビティや、チェックリストで紹介。

そして最後に、紹介した活動の導入事例をインタビュー形式で紹介しています。全体のページ数も80ページほどですし、イラストも多いのでさくっと読めます。

翻訳することになった経緯

この教材は、僕がスウェーデン留学時に若者の社会参画を研究する中で発見したものです。大興奮して最初は以下の記事で、一部をお披露目しました。

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スウェーデンは学校で「政治的中立」をどのようにして保っているのか?
日本では学校で政治について教えられることがありません。それは教育基本法が定める「政治的中立」への過剰な配慮が理由とされています。ではスウェーデンではどのようにして政治的中立が学校で保たれているのでしょうか。具体的にみていきます。

しかしこの本は翻訳に値すると思い、いてもたってもいられず、翻訳を手伝ってくれる方を募集しました。

もう2年も前です。結果、2名の方が手を挙げてくださりました。翻訳に協力いただいたのは、こちらの2名の方です。

・轡田いずみ(くつわだ・いずみ)

(株)ノルディック・インスピレーション代表。北欧の教育・学び リラ・トゥーレン主宰/「ぼくが小さなプライド・パレード 北欧スウェーデンのLGBT+」訳者。上智大学法学部国際関係法学科卒。在学中、スウェーデン・ウプサラ大学に留学。リコー、ベネッセでの勤務を経て2015年に独立、現在は主に北欧企業/ブランドの日本展開を支援している。

・リンデル佐藤良子(りんでる・さとう・りょうこ)

教育ジャーナリスト、公認ストックホルムガイド専門領域:スウェーデンの教育経歴:福島県で公立高校教師として長く勤務、地歴公民科など担当。北海道大学大学院およびストックホルム大学院卒業、教育学修士。専門性を生かし、日本からの教育関連視察をコーディネートしている。

ここに、「政治について話そう!Prata Politik 日本語版」翻訳プロジェクト、結成です!とても頼もしいお二方です。

それから担当する章をわりふりました。 僕が、はじめに〜第2章を、轡田さんが第3章を、佐藤さんが第4章を担当することになりました。それから時間があるときに少しづつ訳していきました。

 

ダウンロードはこちらから

それから約一年ほどたって翻訳が完了し、訳語などをチェックし校閲をしました。最初のお披露目は、模擬選挙ネットワークの林大介さんにお呼びいただいたこちらのイベントでした。

参加いただいた方に限定でファイルを事前に送信し、予習をしてもらいました。教員の方の参加が多かったのですが、関心を持っていただけたことがすぐにわかりました。中には「民主主義が初めて理解できた!」と感想を寄せてくださった方もいました。

それからプロジェクトメンバーで話し合い、(紙媒体の冊子化なども検討しましたが)ひとまずは現段階のものでWeb上で無料ダウンロードできるようにして公開しよう、という結論に至りました。

というわけで、以下にファイルを共有します。PDF版とパワーポイント版になります。(青色のボタンをクリックしてダウンロードをしください。)
PDF

ダウンロードに不具合がある方は以下のURLからどうぞ。

PDF

https://tatsumarutimes.com/wp-content/uploads/2020/03/%E6%94%BF%E6%B2%BB%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E8%A9%B1%E3%81%9D%E3%81%86%EF%BC%81%EF%BC%88Prata-Politik-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88%EF%BC%89.pdf

パワーポイント 

政治について話そう!(Prata Politik 日本語版).pptx
Microsoft PowerPoint Presentation

 

多くの方の手元に届き、民主主義や社会について考える主権者教育や、政治についての対話の場づくりのヒントになればと思います。もちろんスウェーデンと日本では、文化的にも社会的にも異なる点は多いですが、それでもどちらの国も民主主義を基盤にした社会です。スウェーデンの方法論を通じて、そもそも民主主義とは何だったのか、それを教えるとはどういうことなのか、社会とは、政治とは何かを考える機会の足しにしていただけたら幸いです。

また北欧の教育や主権者教育、シティズンシップ教育などを研究している方にも、引用している文献など参照できるようになっているのでぜひご活用いただければと思います。

翻訳完了にいたるまでの過程と注記

その他、翻訳にあたってのプロセスと注記を以下にまとめておきます。

  • スウェーデン若者市民・社会庁から翻訳の許可をいただきました。
  • ただし、日本語のオーソライズができないために庁の公式な出版物ではないことを明記する様にと御達しがあったので、「非公式訳」とさせていただくことにしました。
  • 原本のイラストは、庁に著作権があるので本文での使用は控えて欲しいとのことでしたので、できるだけ原本のイラストに類似するイラストをMicrosoft Power Point上で利用できるものを挿入しました。
  • また、原本とできるだけ似せるためにレイアウト、文字組、正方形に近い用紙サイズなども似せました。
  • 原本となる元データは、2018年8月に公開されていたPrata Politikです。(現版とは異なる点があるので、また第二版に更新する予定です)
  • 翻訳は、Google ドキュメントでスウェーデン語と和訳を対照できるようにし、翻訳が困難な語句・フレーズ・用語についてはGoogle スプレッドシートを作成して、検討をしました。
  • 翻訳はできるだけ意訳を避けるように努めて、原文に忠実な訳を目指しました。(そのため違和感がある訳も多いかもしれません)
  • 一部の訳語については、以下の文献を参考にしました。
    -戸野塚厚子 スウェーデンの義務教育における「共生」のカリキュラム
    -二文字正理「スウェーデンの教育と福祉の法律」
  • 補足が必要と判断した箇所には、脚注を追加しました。
  • 最後に、翻訳にあたっては以下の方々からアドバイスをいただきました。
    • 林寛平 (信州大学)さん
    • ヨアキム・ハンセン(東京学芸大研究生)さん
    • 田中麻衣(Specialpedagogkonsult)さん

ご協力いただき、ありがとうございました。

スウェーデンの主権者教育の教材「政治について話そう!Prata politk」の書籍化クラウドファンディングやります!!

こちらの記事の公開から1ヶ月半が経ちました。

その間、以下のように大きな反響をいただきました。

記事のアクセス数:18500
Facebookいいね数:9219
翻訳ファイルダウンロード数合計:2489
アンケートでの冊子希望数計:439

ここまでの反響があったことに翻訳プロジェクトメンバー一同驚いております。アンケートの様子をみて冊子化を検討するとのことでしたが、十分なニーズが確認できたので、この度、冊子化のためにクラウドファンディングを実施することにしました!

しかし、そうこうしているうちに新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、経済・社会的な影響が様々に出てくる状況となってしまいました。そのような状況下で、私たちは、クラウドファインディングをこの時期に実施すべしなのか、躊躇し、延期などを検討しました。

しかし、終息が長期化することでクラウドファンディングの実施のタイミングがつかめずに、そのままプロジェクトが実現しないことを危惧しました。また、このような状況下だからこそ、世の政治や社会についての関心は高まっており、「政治について話そう!」は、だからこそ一助になるのではないかと議論を重ね、今回改めてクラウドファンディングを実施する決意を固めました。

このような時勢ではございますが、もし冊子として手元に置いておきたい、授業や勉強会で使いたいという方がいらっしゃいましたら、ご支援をいただけましたら幸いです。

何卒、宜しくお願い申し上げます。

▼詳細・ご支援はこちらからお願いいたします。

スウェーデンの主権者教育の教材「政治について話そう」和訳版を冊子化して届けたい!
投票率が85%を超えるスウェーデンでは、どのようにして政治を教えているのでしょうか?このクラウドファンディングは、スウェーデンの主権者教育の教材「Prata politik!(政治について話そう!)」の和訳版の冊子化を目指すプロジェクトです。

※書籍を希望される方は必ず、「書籍〜冊お届けプラン」をご選択ください。「書籍受け取りなし応援プラン」を選択された方には書籍は届きません。

また、このクラウドファンディングは、All or Nothing形式ですので、最低金額の 85万円を達成しなければ、書籍化はされません。ですのでぜひみなさまにお力添えをいただけたらと思います。

 

追記:クラウドファンディング無事成功!書籍化を実現

お陰様でクラウドファンディングは無事成功し、書籍化を達成することができました。

クラウドファウンディングを知らなかった、間に合わなかった、寄付はしたけれど友人知人にも渡したいという方のためなどの普及用に少し本書を在庫することもできました。本書をご希望の方は、以下までご連絡ください。

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図書出版 アルパカ(www.alpaca.style)
E-mail:info@alpaca.style
電話 042-407-9120

*頒価は、クラウドファウンディングの寄付金額と冊数に準じております。

1冊=  3000円

2冊=  5500円

5冊=13000円

10冊=25000円

20冊=45000円

40冊=80000円

*全て、税・送料込み

 

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詳細は以下のホームページよりご確認ください。

政治について話そう! | アルパカ
スウェーデンの主権者教育の教材「Prata Politik!(政治について話そう!)」の日本語訳本です! デモクラシー教育の理念ややり方がよくわかります。▼翻訳プロジェクトを知らなかった方、あるいは寄付の申し込みに間に合わなかった方、本書を...
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