北欧のスタートアップ
近年、日本でもシリコンバレーに次ぐスタートアップシーンとして注目を集めるストックホルム。この街でいま急成長しているスタートアップがある。クリエイターや企業が楽曲を利用する際に生じる、ライセンスや利用料などの障壁をなくすことを可能にしたWebプラットホームを運営している会社、「エピデミックサウンド」だ。2009年に設立されてから急成長をとげ、現在では従業員60人を抱えるストックホルムでも注目のスタートアップです。日本では有限会社スタジオ・ナチュレーザ日本総代理店が、業務用音楽ライブラリーの日本国内への提供を2014年9月11日から開始しています※。
今回は、創業者の一人であり現在はCOOであるフェリクス(Felix mannheimar)にストックホルムのオフィスにて独占インタビューをおこないました。
インタビュー相手の現COOのフェリックス (Felix Mannheimar)
まず簡単に、エピデミックサウンドの仕組みについて教えてください。
エピデミックサウンドの仕組みはシンプルです。まずはじめに、エピデミックサウンドが作曲家から曲を買いとります。次にその買い取った音楽をネット上のプラットフォームにアップロードします。ユーザーは約6万ほどの楽曲の中から好きな曲を選び、自由に使うことができます。ここで重要なのは、ユーザーが音楽を選んで使う際に、(楽曲ごとの) 利用料金が発生しないということです。利用料金は月額制であり、それ以上のお金を払う必要はいっさい無いのです。
ミッションはなんですか?
私達のミッションは「音楽業界に革命を起こす」ことです。これを
- テレビやYouTubeなどで使われる音楽の売買を単純化し
- 仲介を出来るだけ少なくし
- ミュージシャンの収益化を助け
- 独創的な音楽を生み出す
ことで実現しています。私達のサービスでは、レーベルなどに属さない音楽家から曲を一曲ずつ買い、あとは「どの国の誰でも」音楽著作権管理団体に許可をもらうことなく、使うことが出来ます。例えば、YouTubeやレストランで音楽を使いたいという顧客がいたら、私たちはだれに尋ねることなく、その顧客に音楽を提供することができます。
テレビ業界での体験が起業のきっかけ
想像力を刺激するため社員が絵をかけるためのスペース
起業のきっかけはなんですか?
創業者のうち2人がテレビ業界で長い間、働いていました。テレビ番組のために楽曲を買ってくることは、常に複雑で高価でした。伝統的な音楽会社で取引する場合、歌手、作曲家、作詞家などそれぞれに対してライセンスの取得及び使用料が発生するためです。そこで創業者一人であるオスカーが彼の兄弟に質問しました。「どうやったらこれを変えられるだろうか?」
当時弁護士をしていたトムは「1年有余をくれれば、答えを見つけるよ」と答えました。その後トムは安定していた弁護士の仕事をやめ、世界中の音楽業界のシステムを調べ、どうやったらだれでもどこでも音楽を買うことができるか、を考えたのです。そして現在の、「どんな音楽著作権管理団体にも属さないミュージシャンから音楽を買ってきて、世界中に売る」というビジネスモデルを思いつきました。まずはじめに彼らがしたことは、作曲家から買ってきた楽曲トラックをハードドライブに詰めて、ラジオ局に売ることでした。現在ではそれをWebサイトで実現しており、遠く離れた日本などでも使われるようになっています。
情熱は多くを可能にする
エピデミックサウンドで大切にしている、ワークスタイルはなんですか?
正しい姿勢を持つことがいつも大事です。なんでも可能だという姿勢です。ここでは社員全員に情熱を持って一生懸命働いてもらっています。ここに要ることで幸せを感じられ、情熱をもてることが一番大切です。子どものいる社員は子どもを迎えにいったあと、自宅で残りの仕事をこなすなど、ワークライフバランスも整っています。
どうやって情熱的な文化を社内に作り出していますか?
まずはじめに採用の際、「情熱」があるかどうかを重視しています。各部署からひとりずつ面接官を出し、全員が同じように感じたら雇うようにしていますが、その際の判断の指標は「情熱」を持っているかということです。ときには情熱も持たない人が入ってくることもありますが、しばらくすると彼らは自分がこの会社に合っていないと思い、転職していきます。さらに音楽が好きな人だったらもっと良いですね。これも仕事に対して情熱を捧げる要因になるからです。
もうひとつは成長しているストーリーを社内で共有できているということ。「日本やペルーで取引が始まったんだ!」などポジティブなニュースのことです。パーティも頻繁に行い社員間の交流も盛んです。サマーパーティーやクリスマスパーティー、ツキイチで仕事終わりにパーティ。みんなで楽しくやっています。
ストックホルム、成功の秘密
現在のストックホルムに関して、スタートアップ都市として、どのように感じていらっしゃいますか?
良い連鎖が続くという、ポジティブサークルができていると思います。はやくからIT環境に慣れ親しんでいたことが1つの要因といえるでしょう。高度な教育のおかげで良いエンジニアも揃っています。さらに人々の考えも変わってきていると感じます。かつてはコンサルタントなどを希望していたビジネス専攻の学生が、いまでは自分のビジネスを始めようとしているのです。
エピデミックサウンドのオフィス
なにがストックホルムにその文化的な違いをもたらしましたか?
ストックホルムに広がるサクセス・ストーリーです。多くのスタートアップが成功を収めてきているからです。遠く離れたシリコンバレーのサクセス・ストーリーではなく「友達のお兄さんが会社を始めて成功を収めているんだ」などの身近な人の起業体験をよく聞くことで、だれでもできるというポジティブな空気が町に広がっています。特に現在ではそういった情報に簡単にアクセスすることができ、お互いに刺激しあっていますね。
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今回取材した今、注目のエピデミックサウンド。次なるステップはアメリカなのだそうです。新天地でも「情熱はすべてを可能にする」という信念のもと、音楽業界の昔ながらの複雑な構造をシンプルにしていくことになるでしょう。
参考
エピデミックサウンド ホームページ : epidemicsound.com
スタジオナチュレーゼ問い合わせ先: http://www.natureza.net/epidemic/
画像提供:寺嶋和志
寄稿者プロフィール
寺嶋 和志。九州大学3年生。スウェーデン、ウプサラ大学に交換留学中。スタートアップ、起業に興味があり、現在シリコンバレーとは違った特徴を持つストックホルムの起業環境について取材している。
まとめ
以上、寺嶋くんからの寄稿記事でした!ありがとうございました!
寺嶋くんからは、スウェーデン留学が決まっておりインターンシップなどを考えていて相談に乗って欲しいという趣旨でメールが来て、会うことになりました。そして色々調べるうちにストックホルムのスタートアップが興味深いということで、取材をすることを決め、記事を公開する先をTatsumaru Timesにしてくれたのでした。
それにしてもエピデミックサウンド、おもしろいですね!ロイヤリティフリーの業務用音楽ライブラリーとは、よく思いついたもんです。YouTuber の人とかどうやってBGMを入手しているのかと思ったのですが、こういうサービスがあるからできたんですね。
使い勝手もいいです。You Tubeにチュートリアルがあったのですが、めちゃくちゃ丁寧に作り込まれているので、楽曲の検索もすごく簡単にできます。
Epidemic Sound Player Tutorial(日本語字幕)
前回のRioさんの「海賊版」と関連していますが、ネットのコンテンツが普及していく中で音楽ライブラリーの権利関係により一層注意を払わないければいけない昨今ですが、エピデミックサウンドはこれを「全権利完全自社管理」にしている点がまた安心です。YouTuber のみなさんはぜひ利用してみてはどうでしょう?
またスタートアップ成功の秘密に「早くからIT文化に親しんでいた」とありますが、スウェーデンの若者は海賊版のダウンロードの仕方も、エミュレーターでゲームをする方法も知っています。かつ古くからABBAの成功からもわかるように世界的に有名なミュージックプロデューサーを輩出しており、今ではSpotifyがITと音楽業界を掛け合わせて成功を収めています。その潮流の中で生まれたのが「エピデミックサウンド」と考えると、成るべくして成ったと言っても過言ではありませんね。