ストックホルムからのフライトの中でひさしぶりに出逢いました、良作。
マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
です。
ムーア、すばらしすぎるw
ストーリー
対テロ戦争を題材にした『華氏911』、『キャピタリズム~マネーは踊る~』などの社会問題に切り込む映画監督マイケル・ムーアの新作です。ムーアは、カンヌ国際映画祭パルムドールも受賞しています。
今回は「Where to invade next? (世界侵略のススメ)」です。「侵略」と謳っていますが、その実はムーアが、ヨーロッパを訪ねる「旅行記」のようなものです。通常の旅行記と一線を画すのは、現地で「アメリカにとっての非常識」を目の当たりにするというミッションを背負っている点です。
例えば、イタリアではあるカップルにインタビューをして暮らしぶりを聞きます。そこで、まず彼が衝撃を受けたのは「年間八週間も有給休暇があり、会社の昼休みは2時間」という労働環境。なぜならアメリカでは、それが非常識だから。
次に向かったのは、フランスのある小学校。ここでは給食が、フレンチフルコースであることに衝撃。ムーアがアメリカの学校の給食の写真をみせると、今度は子ども達が逆に衝撃を受ける。「それ食べられるの?」と。
今度はフィンランドへ。「宿題はさせない」「規格された教育は意味がない」「生徒発でやりたいことに取り組んでもらう」という、フィンランドの現場の教員からの意味不明な提案。それが、世界一の学力を維持するフィンランドの秘訣であることに納得がいかないムーア。
アメリカでは非常識な、ヨーロッパの常識
他にも彼がヨーロッパで「侵略」した「新常識」は、
・スロベニアでは、大学の学費が一切かからない
・ポルトガルでは、麻薬使用が犯罪にならない
・ドイツでは、休日に社員に電話をすると法律違反になる。週の労働時間は、わずか36時間
・一軒家の牢屋もあるノルウェー。死刑はなくて、懲役刑の最高は21年なのに再犯率は世界最低
・チュニジアでは、中絶費が無償
・2008年にリーマンショックの影響をもろにうけ、国家破綻寸前まで陥ったアイスランド。唯一、国有化されなかった銀行を救ったのは、危機管理能力に優れた女性の経営者。議会も4割が女性を占め、世界初の女性大統領を輩出したのもアイスランド。
ムーアが最も衝撃をうけたのが、アイスランドの女性からのひとこと。
「私は絶対にアメリカ人になりたくありません。たとえ富を得たとしても。」
アメリカは、世界一の国じゃなかったのか….
アメリカはもう豊かな国ではないのか、と絶句するムーア。
そうアメリカは、「オワコン」だったのです。
世界に出てようやくわかった、どれだけオワコンなのかが。
堤未果さんの新書を読んだ時の衝撃を、思い出しました。
なぜ日本人のぼくにも響いたのか
この作品、ヨーロッパに住んでいたぼくとしては目新しいことはありませんでしたが、わかりやすさとメッセージ性は半端なかったです。アメリカ人向けに作られた作品なので、ここまでコミカルでわかりやすくしているんでしょうが、どうして日本人のぼくにも響くものがあったのでしょうか。
それは、アメリカと日本社会に共通点がいくつかあるからでしょう。
ヨーロッパと比較した場合の、日米特有の共通点は、
・テストや試験などによる規格化された、競争的な教育
・大学の学費が高い
・死刑制度がある
・有給休暇、産休の取得率の低さ、労働環境の悪さ
・女性の社会進出度が低い
などなど
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アメリカは国が大きく、海外にいったことがない人も多いため、ヨーロッパのこのような「常識」を知っている人は限られています。健康保険ですらも「社会主義」と非難されるくらいに「小さい政府」を好む国では、ヨーロッパで起きている「常識」が不思議でしょうがないのでしょう。IMDbでも高評価を得ているのは、それだけアメリカ社会の行き詰まりを多くの人々が実感していることの象徴なのかもしれません。そしてそれは、日本も例外ではありません。
日本語を勉強しているヨーロッパの友人の多くが、「日本には住めない」と言っていることもいい加減、真剣に受け止めないといけません。
日本も、欧米といえばアングロ・サクソン系の国であるアメリカ、イギリスをフォローする傾向にあります。それはメディアでも、文化でも、社会的事情や研究 事例まで多岐にわたります。それは英語で情報がとれるからです。しかし、アングロ・サクソン系の国とそれ以外のヨーロッパや北欧は大きく異なります。だから、日本人もこの映画をみると「そうだったのか!」となりますし、スウェーデンの話をすると「目から鱗だった」という人が多いのは、やはり「ヨーロッパ」のことを知らないからです。
ということで、「ヨーロッパ社会事情の入門編」としておすすめです。