シティズンシップ教育って?ユースワークって?本場イギリスの最新動向と日本への提言 (報告書あり)

組織・団体紹介

2011年9月にぼくが団長を務めた、NPO法人 Rights イギリス・スタディツアーの動画と報告書が公開されています。シティズンシップ教育、ユースワークの最新の動向をインタビューで探っています。

動画

その報告動画です。

訪問先

以下、訪問先です。

・全国青少年協会/ National Youth Agency

・ニューホライズンユースセンター/New Horizon Youth Center

・英国若者国会/UK Youth Parliament

・シティズンシップ財団/Citizenship Foundation

・全国学生ユニオン/ National Union of Student

・保守党青年部 / Conservative Future

・元犯罪者の社会復帰支援をするNGOユーザーボイス/ Uservoice

報告書の要旨

以下、報告書の要約です。NPO法人 Rights 副代表理事 小林 庸平さんより。

1.調査の目的

拡大する世代間格差、若者高い失業率、財政赤字の拡大、若年投票率の低迷など、日本では若者の社会参加・政治参加の重要性が増している。英国は同様の問題を抱えつつも、シティズンシップ教育の導入やユースワークによる若者の自律・自立の促進など、課題解決に取り組んできている。日本において若者参画を進めるうえでの示唆を得ることを目的として、英国スタディツアーを行い、シティズンシップ教育やユースワークを中心に、英国の若者参画の状況を調査研究した。

2.調査結果のまとめと日本への示唆

(1)日本と同種の課題を抱えつつも問題解決に取り組む英国

若者の政治的無関心や高い若年失業率、高まる財政制約など、英国の抱える問題は日本と似通っている。しかし、英国はすでに 2002 年の段階でシティズンシップ教育をナショナル・カリキュラムに取り入れ、学校内外のリソースを活用しながら若者の政治的・社会的関心を高める努力を行っている。シティズンシップ教育では、人権などの観念的なテーマに関するディスカッションを行うだけでなく、実際に地域におけるプロジェクトを実施し様々なディスカッションをしていくことで体感的にも民主主義の理解を促進している。そういったプログラムを実施する上で、学校だけでなく地域コミュニティや、シティズンシップ財団・UKYP(イギリス若者国会)等の民間団体と共同し、コンテンツの拡充に努めている。同時に、CELS(シティズンシップ教育に関する継続調査プロジェクト)によってシティズンシップ教育の効果が定量的かつ継続的に調査されており、シティズンシップ教育がどういったケースで効果を発揮しえるのか、シティズンシップ教育が解決すべき課題が何なのか、「証拠に基づいた政策形成」(Evidence-Based Policy Making)に取り組もうとしている。
ユースワークも、学校外において若者へ体験活動を通じたノンフォーマル教育の機会として位置づけられている。また若者参画の重要性が認知されてきており、ヒア・バイ・ライト(若者の参画を評価し促進するためのツール)は若者の参画を言語化することで、さまざまな場面において若者の参画を促進する具体的なツールとして役立てている。英国の選挙権年齢は 18 歳であるが、若者の一部にはそれを 16 歳に引き下げようという動きも生まれてきている。

日本でも、2010 年 7 月に子ども・若者ビジョンの策定が策定され、「子ども・若者の社会形成・社会参加支援」が明記された。また子ども・若者ビジョンの進捗状況を点検するための「子ども・若者育成支援推進点検・評価会議」がつくられ、若い世代もメンバーに加わる形で議論が始まっている。また明るい選挙推進事業の常時啓発事業のあり方も再検討され、「社会参加」と「政治的リテラシー」をキーワードにした見直しがなされる方向であり、子ども・若者の参画の重要性が徐々に認知されてきていることは評価できる。しかし例えば、2007 年 5 月に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律」(国民投票法)の中で、2010 年 5 月までに成人・選挙権年齢の引き下げのために必要な法制上の措置を講じることが盛り込まれたにもかかわらず、未だ実現していない。英国の経験に照らせば、子ども・若者政策が効果を生むには一定の期間が必要であり、そのためにはより迅速な対応が必要となる。

(2)民間による政策形成と自主的な取り組み

英国における民間の取り組みの重要性を指摘することができる。第一が政策形成に対する民間の貢献である。シティズンシップ教育を導入する際、シティズンシップ財団をはじめとした民間の組織が大きな役割を果たした。日本では、民間主導で政策形成を行うケースが少ない。英国では、政府と非営利セクターの合意によって、非営利セクターが政府から資金提供を受けていたとしても、政府を批判する権限を有していることが認識されており、「Compact」という政府と非営利セクターの合意でもそれが確認されている。その他にも、UKYP、NUS(全国学生連盟)、UserVoice(犯罪者自身が再犯の防止に取り組む団体)など、独自に政策形成に関与している。

第二が民間独自の取り組みである。近年の財政制約によって、政府から非営利セクターやシティズンシップ教育への資金供給が細ってきている。非営利セクターは非常に厳しい状況に置かれながらも、独自の取り組みによって活動水準を維持しようとしている。例えば、NYA(National Youth Agency)は民間企業と連携することによって、ジェネリックアプローチに基づくユースワークに独自に取り組んでいる日本では、非営利団体が政府や行政の下請けになってしまうケースもあり、行政を監視する主体になりきれていないことが指摘されている。現場のニーズを把握している非営利団体が、政策形成にかかわっていくための制度的な支えを検討する必要があり、行政に依存しない形でのサービス供給も確立していくことが求められる。

(3)成果の積み重ねの重要性

英国の取り組みからは、成果の積み重ねの重要性も示唆される。とりわけシティズンシップ教育で顕著だが、シティズンシップ教育を推し進めたのが左派政党であったため、政権交代による揺り戻しが起こっている面は否めない。本来、有効な政策は党派を問わず長期的に推し進めるべきであり、日本においてこれら政策を推進するためには、党派を超えた合意形成によって長期的な実施を担保すべきだと考えられる。


報告書ダイジェスト版、完全版はこちらから入手できます。

http://rights.or.jp/archives/230

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