スウェーデンの若者政策と余暇活動って何がそんなにすごいの?

若者政策

これまでのユースワーカーへのインタビューなども随時アップしていきますが、まずは大まかにスウェーデンの若者政策を整理してみたいと思います。(基本的にUngdomsstyrelsenの政策文書FOKUS10, YOUTH AND YOUTH POLICYの内容の要約です。)

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Ungdomsstyrelsen,Youth and Youth policy

スウェーデンの若者政策の対象年齢

EUの若者白書では15歳から25歳を若者政策の主な対象年齢としており、国際的な法律や統計では15歳から24歳と明確に定めたものもあります(らしい)が、は基本的には国によって異なり、欧州各国でも30歳までと定めていたり、18歳までの子ども政策とそれ以上の若者政策を分離している国もあるなか、スウェーデンでは13歳から25歳を若者政策の対象にしているとのことです。

歴史

今日のスウェーデンの若者政策が形作られたのはここ30年くらいですが、19世紀後半、20世紀初期における学校教育、余暇活動の組織が形成されたことが若者政策の起源と言われ、長い間この2本柱がスウェーデンの若者政策を支えていました。1960年代には余暇活動やクラブ活動が若者政策の主要な部分を担うようになりましたが、1970年代にはこれまでの部門別の若者政策からより包括的な若者政策への転換が成されました。そして1985年に国連が国際青年年を宣言したことを発端に、さらなる改革が始まりました。まず1986年に若者大臣(Youth Minister)が初めて任命され、1994年にYouth Policy (Ungdomspolitik)、1997年にPolicy for young (Politik för unga)、そして1999年にThe youth policy bill (Genom den ungdomspolitiska propositionen)という3つの若者政策が施行されました。青年事業庁(Ungdomsstyrelsen)は1994年に設置されました。こちらのスタディツアー報告書でよくまとまっています。

今日の若者政策の目標

2004年秋、国会で新たな若者政策が可決されました。その名もPower to decide- right to welfare (Makt att bestämma – rätt till välfärd)です。そしてここで定められた若者政策のゴールが2つ。

・若者の影響力への実質的なアクセスを保障すること。

・若者の福祉への実質的なアクセスを保障すること。

この目標は社会全体の発展だけでなく、若者一人一人の生活や地域の環境を向上させることも意図しています。さらに、家庭、学校、仕事、友人や家族との関係なども含みます。若者が影響力を持てるようにすることの理由に、ひとつはまずはそれ自体が権利であること、そしてもうひとつは、若者の知識と経験は社会の価値ある資源であるという認識の共有です。”Young people as resource” は、様々なスウェーデンの政策文章で繰り返し出てくる言葉です。2009年の11 月にEU が2018 年までの新しい若者政策のドキュメント「EU の若者政策の新たな枠組み 2010‐2018(A renewed framework for EU cooperation in the youth field 2010‐2018)を採択した時にスウェーデンは議長国だったのですが、その際に「若者は問題解決の対象なのではなく社会のリソースなのだ」というスウェーデンの認識がEU内で共有できたということです。

さらに政府と国は、意思決定者(政治家など)が若者向けの公の活動をするときに、考慮しなければいけないとする4つのポイントを示しました。若者を、①社会の発展のための資源であり、②権利を有していること、そして③自立した個人であり④多様である、というポイントです。

以上を踏まえて、スウェーデンの若者政策には4つ特徴があります。

  1. 若者政策(ユースポリシー)の対象を13歳から25歳としていること。
  2. 広範囲にわたる政策をカバーしていること
  3. 全ての若者へ、自立した大人になるための機会を提供するユニーバーサルな政策であること。(最近は困難層の若者への政策も強調すべきだという流れ)
  4. 若者を社会のリソースとして見ていること。

スウェーデンのユースセンターとは?

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広範囲に渡る若者政策と書きましたが、スウェーデンの若者政策は大きく5つの部門(仕事、家族、余暇活動、学校、政治)に別れていて、ユースセンターなどは主に余暇活動を担います。そしてユースセンターのことを”Meeting Place(mötesplatser)”と呼び、基本的には全ての若者に開かれており、特定の若者だけを対象にせず様々プログラムを提供します。おしゃべり、相談、カウンセリング、宿題の手伝い、音楽、TVゲーム、ハイキング、イベント、映画、ボランティア活動、職業訓練、工芸、アート、スポーツ(バスケット、バレーボール、サッカー、水泳など)などなどなど…

その中でさらにまた別のカテゴリーがあります。

・Youth club,Recreation centre – 13歳から16歳の若者対象。(90年代、減少傾向)

・Youth centre, Activity center, Cultural centre – 15歳から20歳までの若者対象。(90年代に増加)

中にはこれらの区分けに当てはまらない複合施設もあります。(写真のセンターはまさにその複合施設です。後日記事書きます。)

余暇活動支援の歴史

1970年代、これらのMeeting Placeでは若者の飲酒などによる問題でセンターでの若者のクラブ活動の質の低下が目立ちました。当時、Meeting Placeに若者をとどめておくことは、社会的な問題を防止する役割を持つと見られていました。しかし、この時になされた新たな改善法は非常にラディカルなものでした。

「若者世代には、財政などにも影響を与えることができる実質的な意思決定力が与えられるべきであり、Meeting Placeは、職員と若者が施設の運営や計画にともに責任を持ち自治を機能させなければならない。」((Ungdomsstyrelsen, 2009))

これがスウェーデンの余暇活動における若者政策を支える大きな価値、方向性といっても過言ではないように思えます。

1980年代、これらの改善策に加えさらに、より若者に協力的な環境を整えることで、センターにおける民主主義を高め、若者の声が聞かれ、自尊心を高めるという結果につながりました。またセンターに来る若者の地域コミュニティへの参加を促すことも目標になりました。90年代には、より若者に責任をもたせることで影響力を強めることが新たな目標となりました。こういったことを受け、今日ではMeeting Placeは若者の影響力を強め、社会への参画を促す場へとなりつつあります。事実、若者議会や若者国会などの会議やキャンペーンの場にもなっており、ディベート、政治家との討論の場を設けるなどして、若者の声を現実の政治に伝える役割も担っています。

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スウェーデンのユースセンターの課題と現状

しかし、それでも大多数の若者がこのセンターを利用していないとのも現実です。スウェーデンの16歳から25歳の若者の78%が一度もセンターを利用したことがありません。一方で11%の若者は、定期的に最低でも月に一度センターを利用しています。また同じ調査では、十分な教育を受けておらず、雇われていなかったり、病気の親を持つ若者はセンターを利用する率が高くなっているという結果も出ています。

また、クラブ活動に代表される組合や団体の結成などの数も徐々に減ってきているとのことです。これは個人主義やインターネットの発達に伴う、ソーシャルネットワークサービスの普及をひとつの原因にあげています。そして、Meeting Placeにおける若者の活動でも、活動の計画、新企画立案の段階からの参加ができていないため、モチベートされないという問題もやはりあるようです。さらに最近は若者の活動も、新たに何か新しい企画を始めるよりも、既存の企画やプログラムに一人一人の影響を与えられようにする機会を提供する、という性質の変化もあるようです。

このような若者の段階的な参画を促すことにおいて、若者とユースワーカーとの関係性の重要性が増してきているという報告もあります。事実、ヨンショーピンという県の自治体のセンターに来ている若者のうち10〜20%は、ワーカーが自分たちの声を聞いてくれていないと感じているようです。

次回はユースセンターへのインタビュー記録をもとに現場のセンターでは若者のどのような参画が起きているのかを書こうと思います。

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