スウェーデンの学校が、政治家の来校による騒動が起きても政治を教え続ける理由

過激化する政治勢力とその反発

グローバリゼーションと新自由主義による格差社会化の影響が世界規模で起きている。その帰結のひとつが、日本を含む先進国における排外主義的な政治勢力の台頭であるが、それはスウェーデンでも同様だ。最近では、スウェーデン民主党(Sverigesdemokraterna、以下SD)という極右の政党が躍進している。

初めて国会で議席を得たのは2010年であり、国会の議席の得票率は、5.7 %であった。2018年の総選挙後には、得票率は 17.54%となり、支持拡大が止まらない。SDの党首や関係者による差別的な言動はあとを立たないが、市民の政治参画の度合いが高いスウェーデンではこの勢力にたいする反発も大きい。

2015年8月、同政党が首都ストックホルムの地下鉄に掲示した政治広告が物議を醸した。広告は “Sorry about the mess here in Sweden.”というリードではじまり、海外からの観光客にもあえてわかるように広告文は英語になっていた。

国内で増加する路上の「物乞い」は組織化された国際ギャングらによるものであり、それに対して政府は何も策を講じていないという趣旨の政治広告だ。あまりに露骨な広告に対して、すぐさま1000人を超える抗議活動が街中で起こった。市内で集会が開かれ、一部が地下鉄の駅の広告を引き剥がす騒動となり、2人が逮捕された。(Nyheter Stockholm 2015)

政治家の来校を拒む生徒たち

ここまで激しい抗議活動ではないが似たようなことは、スウェーデンの学校内でも起こっている。2014年3月、首都ストックホルムのグローバラ高校では、政党の討論会に登壇予定だったSDの青年部の入校を拒むことを目的に生徒たちが校門を封鎖する事件が起きた(Österberg 2014)。生徒たちがそのような行動を起こした理由は、SDの「差別主義」にあるとしている。他にも、政治家を招いた討論会に過去に起きた生徒の騒動に学んで、警備員を手配し備えた学校もあった。

ヴェルムドー高校の校長のアルネ・アンデションもまた、そのような生徒と政党の騒動を目の当たりにした人物の一人だ。スウェーデンでは政治家の来校の判断の責任も、学校が生徒に民主主義を教える責任も校長にある。2010年、アルネ校長は国会で議席を有しない(SDよりも極端な主張をする) 野党の政治家の来校を許可した。その結果、校門の前でその政党と政党に反対する生徒たちの間で小競り合いが起き、アルネ校長による介入が余儀なくされた。同政党の来校に反対していた職員もいたにもかかわらず、なぜあえて過激な主張をする政党を学校に招くという判断をアルネ校長は下したのだろうか。

民主主義を担うスウェーデンの学校

スウェーデンの学校長は学校であらゆる機会をつうじて民主主義の価値とその方法を教え、生徒の能動的な市民性を発揮できるように努めなければならない。その機会の一環として、スウェーデンの学校では総選挙が実施される年に、学校選挙(skolval)が開催される。実際の選挙にあわせて開催される学内での未成年のための模擬選挙である。選挙前には、学校に地域の政治家を招いた「政党ディベート大会」が開かれる。

国会で議席を有するすべての政党から、政治家あるいは政党青年部の若者に来校してもらう。パネルディスカッションの形で事前に生徒が用意した質問などを司会者がぶつけ、登壇者が答え、ときには聴衆からも直接質問をしてもらう。スウェーデンでは政治家が来校することは特殊なことではない。選挙前に限らず、毎月政治家に来校してもらい「政治家とランチ」という企画を実施している学校もあれば、すべての政党を招いて展示スペースにパンフレットを置き、生徒と対話をすることを許可している学校もある(若者市民・社会庁、2018年、70-74頁)。

日本では政治的な中立性の観点から実施が難しそうなことが、なぜスウェーデンでは可能なのであろうか。まず、スウェーデンの学校においては政治的な活動を制限する特別な規定は存在していない。政党を学校に招待する際には責任を負うのは校長であり、政治的イデオロギーによって政党が学校に来ることを拒んではならない。もちろん、スウェーデンの憲法、ヨーロッパ人権条約、学校で規定された原則を考慮しなければならないが、基本的には生徒の学校における政治的活動を制限する特別な規定はない。この基本方針を立てたのは、スウェーデンの高等裁判所、国会オンブズマン、行政オンブズマンである。つまり、スウェーデンにおいては政党の来校は政府機関により奨励されているのである。

また単に国からのお墨付きがあるだけでなく、具体的なガイドラインがあるのも学校で政治を扱いやすさにつながっている。

スウェーデンの主権者教育の教材

スウェーデンの主権者教育の教材「政治について話そう!」

スウェーデン若者・市民会庁が発行した教員向けの主権者教育の教材である『政治について話そう!』(文末に参考文献あり)では、具体的な活動を紹介するに留まらず、「政治的中立性」についてわかりやすい考え方を示している。

スウェーデンの学校の「政治的中立」の考え方

まず政治に限定しない「価値中立」という言葉を用いて「学校は、価値中立的とはなり得ない」と立場をはっきりさせている。教材では、学校における価値中立についてこう記述している。

「(前略)しかし、学校は価値が中立となることはなく、民主主義の価値が侵害されることがあっては決してなりません。学校が価値中立ではないという事実が意味するのは、学校内で広まる価値については中立ではないということです。(中略)生徒は、様々な人々の権利に対して、ときには民主主義的ではない意見や考えを持つかもしれません。

しかし、学校は核となる民主主義の価値においては中立ではなく、民主主義の価値に立脚し、民主主義の価値を伝えることを務めとします。これが意味するのは、 学校の教職員としてあなたは学校の基礎におく民主的な価値観に反する価値や意見に対しては反応し、距離を置く責任があるということです。また、学校にいるすべての人が尊重されなければならないということを意味しています。」( 14頁)

その上で、学校にいるすべての人が尊重されるために、差別、ハラスメント、虐待行為などの民主的でない行為を具体例にあげながら、以下の点における差別に教職員が対処する責任があることを述べている。

「すべての人は学校において身体的性、民族、宗教、信条、性表現、性自認、性的指向、年齢、障がいやその他の虐待的な扱いに基づいた差別を受けてはならない。そのような風潮は、積極的に対処されねばならない。外国人恐怖症や不寛容は、知識と開かれた対話、そしてたゆまぬ努力によって対処されねばならない。」(14頁)

ここで大事なのは差別の禁止の対象に信条(イデオロギー)も含まれている点である。つまり、あらゆる人を尊重し、平等に扱うことが政治的な思想や主義にも適用されるので、政党に対しても平等に接することが期待される。このロジックに則り、国会に議席を有するすべての政党を平等に扱い、同様の条件で学校に招くことが奨励されるというわけである。万が一、ある政党の来校を拒む場合、平等に対処しなければならないので、その他の政党の来校も拒むというロジックが働く。

しかし、これはスウェーデンの文科省に該当する学校教育庁は「望ましくない」としている。

「かつて、すべての政党に来校してもらい平等に機会を与えるという学校への要望があるために、逆にすべての政党に対して学校の扉を閉ざしてしまった学校もあった。それはあり得る一つの解決策ではあるが、学校教育庁が推奨するものではない。なぜならそのような解決策は学校に課された『民主主義のミッション』と折り合いをつけることが困難となるからである。」(21頁)

つまり、政治的中立性の懸念による政党の来校の拒否の正統性を、学校に課された「民主主義のミッ伝えることを務めとします。これが意味するのは、学校の教職員としてあなたは学校の基礎におく民主的な価値観に反する価値や意見に対しては反応し、距離を置く責任があるということです。また、学校に課された「民主主義のミッション」が上回るということである。

ヴェルムドー高校のアルネ校長が、悩みに悩んだ末に過激派の政党の来校を許可したのは、「すべての政党に等しく情報提供の機会を与えるべきという憲法で保障された権利だからである」、という。社会一般における「表現の自由」を認めながらも、学校で民主主義を教えるために「非民主的」な生の政治に「触れさせない」という判断もできたであろう。しかしアルネ校長は、それは学校に課された「民主主義のミッション」への裏切り行為にあたるとして、反対を押し切った判断を下したのだろう。

しばし、生の政治に触れさせない「無菌室」のような日本の学校において、さて、学校に課された「民主主義のミッション」はどの程度その意義が認識され、教えられているだろうか。小競り合いに割って入ったアルネ校長の背中は、私たちにそんな問いを投げかける。

参考文献

Nyheter Stockholm, S.(2015, 8.3). Ny SD-reklam väcker starka reaktioner. SVT Nyheter.

Österberg, E.(2014, 3.25). Elever blockerar gymnasium för SDU. Dagens Nyheter.

スウェーデン若者・市民社会庁(2018)『政治について話そう!Prata Politik日本語版』(学校で民主主義を語り合うための教材/両角達平、佐藤リンデル良子、轡田いずみ訳)

この記事は、教育科学研究会の10月号に寄稿した投稿の全文を一部編集したもの(画像の挿入など)です。

教育科学研究会10月号, スウェーデン, 民主主義, 学校

本文転載にあたっては、編集担当者より許可をいただいています。

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月刊誌『教育』2020年10月号 – 教育科学研究会 https://kyoukaken.jp/mag/mag_202010

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