この9月にスウェーデンの国政選挙が実施された。結果はこれまで8年間政権を握っていた穏健党が破れ、社会民主党を中心とする左派が政権を握ることとなった。しかし一方で極右政党のスウェーデン民主党が得票率をのばしたこと、また左派の環境党の支持率が伸びなかったことによって、一部の右派と連立を組む必要性が出ており難しい政権運営を迫られている。(さらなる詳細な分析はスウェーデンの今というブログの解説をお勧めします。)
そんな選挙祭りのまっただ中、日本で模擬選挙活動に取り組まれている林大介(東洋大学教員)さんとスウェーデンの模擬選挙の取り組みの視察を行った。(参考:未来を拓く模擬選挙―実践シティズンシップ教育)
スウェーデンの若者の投票率は、高いことで有名だ。前回の2010年の総選挙において、18歳から29歳のスウェーデンの若者の投票率は79%にもおよび、全世代の投票率84.6%と比べても大差はない。また他にも
16歳から25歳の若者の
- 40%が政治について話すことに興味があり
- 56%が社会に関しての問題について話すことに興味があり
- 29%が月に数回知り合いと社会の問題や政治について議論している
というデータがあるのだ。(Unga med Attityd 2013))
(2012年版のデータについてはこちらの記事を参考に。)
一方で日本の前回の衆議院選挙では20歳代の投票率は37.89%。60歳代以上の投票率は70%以上。なぜ日本の若者は投票せず、スウェーデンの若者は投票するのか。その鍵を握るのが、「模擬選挙」を始めとする若者の民主主義への参加の機会の有無にあるのではないか、というのが今回の視察の趣旨だ。
スウェーデンの模擬選挙:学校選挙2014
学校選挙2014の概要を紹介している動画
学校選挙2014とは、スウェーデンの国政選挙が実施されるたびに行われるプロジェクトだ。日本でいう中学生と高校生が主な対象で、実際の選挙に先駆けて生徒が投票を学校で行うというものだ。もちろん投票は「模擬」なので実際の国政選挙に結果が反映されることはない。スウェーデン若者市民社会庁、スウェーデン生徒会連合、スウェーデン生徒会組合、欧州若者議会からのサポートを受けてるいる。スウェーデン全土で1629 校が参加しており、参加する生徒総数は46万5960人だ。(2013年時点のスウェーデンの全人口は959.3万 )
参加を希望する学校は、各学校の生徒会が中心になってプロジェクトを組み、学校選挙2014に申請をすることになっている。その後、各学校へ投票用紙や投票箱、などの「学校選挙キット」が配布される。その中には、学校選挙が実施される前に行われる、政党のロールプレイ授業のやり方、政治家を学校に呼ぶディベートの開き方なども含む。参加費はもちろん無料だ。
集計された学校選挙の結果は、実際の選挙の結果が公開されてから、公開されることになっている。以下は、今回の学校選挙(中学生と高校生)の結果と実際の国政選挙の結果を表すグラフだ。
スウェーデンの若者の投票率が高い理由に、この学校選挙の取り組みがその要因にあるのではないか、と質問をすると、スウェーデン若者市民社会庁の学校選挙2014担当者のヘンリックはこう答えた。「必ずしもそうとはいえませんが、学校選挙が果たしている役割は大きいと思います。学校選挙の参加によって生徒は、少なくとも選挙のやり方がわかるので、実際の選挙への敷居を下げていることは間違いないでしょう」という。
さらに彼はこう強調する。
「学校選挙も大事だが、最も大事なのは選挙の前後で民主主義について学び、実践する機会を提供することです。民主主義、政治、社会について学び、民主主義を通じて学び、そして民主主義制度の中で積極的に参加することを学ぶのです」
今年の一月に同庁から出版された「政治について話す(Prata Politik」という書籍は、学校選挙に限らず、学校においてどのようにして政治的な題材を扱えばいいのか、どのようにして中立性を保てばいいのか、どのようにして民主主義について教えればいいのかというテーマを扱っている。また、他にもスウェーデン生徒会組合とスウェーデンゲーム連合(Sverok)との協同で、仮想的な設定で(宇宙空間を舞台にして)民主主義自体について学ぶロールプレイゲームも開発された。これは、政治的・社会的でセンシティブなテーマに触れずとも、民主主義について学ぶことができるという優れものだ。
このブログでも様々なスウェーデンの若者団体の取り組みを紹介しているが、学校選挙のみならずこういった様々な、若者のための意思決定の機会とその影響を受容することができる社会があり、実際に若者の意思決定が影響を与えていると、若者自身が感じれるようになることが、「若者の社会参加」が活きている社会であり、結果的に投票率にも現れるのだろう。
日本でも模擬選挙推進ネットワークが未成年の子ども・若者のために投票の機会を提供しており、(話を聞く限りでは)スウェーデンの学校選挙とそう変わりはない。しかし、その認知度と規模で差があるのは、スウェーデンでは国ぐるみでこの取り組みを財政的にも支援していることがあげられるだろう。ぜひ、学校関係者は日本の模擬選挙の普及にご協力を。
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