本当に高等教育は「無償化された」といえるのだろうか?

学校教育

2月12日、政府は幼児教育・保育の無償化と、高等教育機関の「無償化」を閣議決定しました。

政府は同日、低所得世帯の学生を対象に、大学や短大などの高等教育機関の無償化を図る新たな法案も閣議決定した。授業料や入学金を減免するほか、返済不要の給付型奨学金を支給する。来年4月の施行を目指す。|毎日新聞

この「高等教育の無償化」の中身が、ちょっと怪しいです。

すべての人が無償化される訳ではない

それこそ教育費は、人の一生の三大出費のひとつといわれるくらいに、可処分所得に影響を与えるものです。しかし、果たして高い教育費で困しむ多くの人にポジティブな影響を与える政策となるのでしょうか。

この政策は、年収380万円未満の世帯に限って大学の学費を無償にするというもの。さらに、条件が合致すれば生活費も保障してくれるという。しかし、条件を満たさなければ、授業料も生活費の支給は打ち切られる。その条件とはこの通り。

「高校段階の成績や学習意欲はもとより大学進学後も1年間の必要取得単数の6割以下しかとれない場合やGPAなどの成績が下位4分の1に属するとき」

大学無償化は「第2の生活保護」になるかも…教育後進国ニッポンの悲劇(マネー現代編集部) @moneygendai
「無償化ありき」で進んできた大学無償化の議論。6月15日に閣議決定されたが、いざフタを開けてみると問題山積であると明らかになってきた。ひっそりと盛り込まれた例外規定に、大学側に甘い要件……。このままでは税金のバラマキに終わりかねない。

この所得世帯でかつ、高校の時からモチベーションがここまで高く勉強できる生徒は果たしてどれくらいいるのでしょうか。

忘れてはならないのは、この基準以上の人はこれまで通り学費を払うということです。かつての中流層が貧困化している傾向の中、「380万円」のラインはかなり際どいラインで、これより若干上の人にとっての負担はこれまで通り変わらないのです。

日本と北欧の大学の学費に対する考え方の違い

今回の政策から見え隠れするのは、社会政策を支える思想です。

例えば、日本だったらこんな感じ。

日本:生活に困っている層への支援を手厚くして「授業料も生活費も面倒みる。その代わり高校の時からしっかり勉強して、大学もサボるんじゃねえぞ」

という、パターナリズムですね。ターゲットアプローチであり、スティグマを生む可能性もあります。

一方で、北欧(スウェーデン)だったらこの通り。

北欧:
学費完全無料+返済不要の奨学金(4万円)
「大学?勉強する意欲が湧いた歳になったら行けばいいよ。」

という、普遍主義です。

ここが選別主義の日本と普遍主義の北欧と大きく異なる点です。

さらにスウェーデンでは返済型の奨学金も(毎月10万円が希望者全員)含めれば、14万円も月額でもらえることとなり、充分に生活することができます。家族が学費や生活費を負担する必要がほぼないのです。

日本は先進国の中で学費が異様に高い割に、民間や国の奨学金が少ないことは長年指摘されています。学費が高い英米と比較する人はヨーロッパを知らないし、アメリカで奨学金地獄に陥ってる学生が多いことも知りません。

世界で大学の学費がこんなに高い国って少数派なんです。

大学に入学する年齢が「若い」国、日本

加えて、日本は大学への入学年齢が19歳と国際的に若いことも知られていません。シンガポールも日本と同じくらいだけど、北欧だとそれが20代半ばになります。進学も就職も「若いうちのほうが良い」という暗黙のルールが前提になっているけども、今、若い人に必要なのはすべてを脇に置いて一度「休憩できる時期」ではないでしょうか。高い学費を払いながら「休憩」するのはあまりにも背徳感が大きいです。

北欧の場合は、大学がそんなスタンスだから、しばし「学生が経済的なモチベーションがない」と言われるほどです。しかし、学びたい意欲が自分の中にオーガニックに芽生えたときと、やらされ続けて学ぶときとでは、学びの主体性の高さが天と地ほど違うのは多くの人がわかるはずです。一度、大学、専門学校を辞めて、入り直した人の方がモチベーションが高いじゃないですか。それは学習の動機付けが「内部化」しているからです。だから、もっと「やらせない」時間が必要ではないでしょうか。

忙しすぎる日本の大学生

日本の中高生、さらには最近は大学生もとにかく忙しすぎると聞きます。とくに資格取得を目的とする看護や教職などの専門職系の大学が忙しいとよく耳にします。そもそも、高校のときに自分の中で納得感を得て進路選択ができる時間も経験も与えられていないのに、その進路でもう自分の将来を決めないといけないのです。「選択肢は広い方がいい」という紋切り型のアドバイスしかしてもらえなかった人がほとんどではないでしょうか。

そうやって進学してきた人も多いはずです。その中で、資格取得するには「何コマ必須」が迫られます。「大学の中退者数の低減」という国の方針に従う、大学からの圧力で、ますます多忙化する大学生。バイト先では、正社員並みに責任ある仕事を任せられ、いつのまにかこちらが本業に..

奨学金描くときの動機づけを経済状況や成績などの数字に「外部化」することもまた、前近代的ともいえます。「飴と鞭」を与えてモチベーションをあげるやり方は、モチベーション3.0 でいうと、創造性を阻害するやり方です。インセンティブを付与したら逆にモチベーションが下がるという「クラウディングアウト」理論でもそれは証明されています。正解がない時代に、創造性を阻害するやり方でいいのでしょうか。

そもそも高等教育へのアクセスは「すべての人への教育の機会(EFA)」の権利という点で、当然に保障されないといけないことは忘れてはいけません。一部の層が学費補助と生活支援を必要とする状況にならないようにすること、人生の三大出費のひとつを無くしてすべての人が同じスタートラインに立てるようにすることが、貧困の連鎖を断ち切るのです。

本当の「高等教育の無償化」を期待しています。

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