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沈みゆく日本の大学業界をこれからの若手が生き抜いていくには?

この3月上旬、オスロはノルウェーへひとっ飛びしてきました。何気にノルウェー入りは初でちょっとだけワクワクしました。今回、オスロへ旅立ったのは国際学会で発表のためです。Nordic Educational Research Association という北欧の教育研究のための国際学会(NERA 2018)で、半年前に論文発表者を募っていたので修士論文の要旨を提出したところ、奇跡的に通ったのでした。そういうわけでノルウェーまで飛んだのですが往復渡航費、学会参加費と学会側で用意していただいたホテル代だけで20万円オーバーという…泣

この高くついた学会への見返りは何だったんだでしょうか..と現地であった日本人の先輩研究者に聞いたところ、「国際学会での査読つき論文発表」が業績としてカウントされるよとのこと。どうやら「国際学会での査読つき論文発表」というのはアカデミックキャリア形成ではかなり「ポイントが高い」とのことです。

そういうわけで今回は、この謎めいた「アカデミア」の人たちはどのようにキャリアを形成していくのか、海外留学生はどのようにしてキャリア選択をしていけばいいのか、さらに斜陽産業である日本の大学業界において、フリーランスの兼業研究者の可能性を模索します。

「大学教員」って本当にいい仕事?

「大学教員」という肩書きの響きは悪くはない。学歴社会である日本では、(必要以上に)権威が高いだけでなく、実際の給料も悪くないからである。 こちらの記事 によると、大学教授の平均年収は1000万円越えであり、医者とそう変わらない。待遇が悪いだけでなく、自分の興味関心の赴くままに自分の研究領域を探求できることもまた魅力の1つだ。そのようなイメージがあれば、アカデミックキャリアを描くことは夢に溢れているが、実情は複雑でありこの産業自体が「沈みゆく大船」である現状は否めないことは、 東洋経済オンラインの「52歳大学非常勤講師・年収200万円の不条理」を読めばよくわかる。

「現在は複数の大学で週5コマの授業を担当。雑誌への執筆や専門学校での集中講座などの雑収入を合わせると、ようやく年収200万円ほどになる。大学院時代に日本学生支援機構から借りた奨学金の返済がまだ300万円ほど残っている。独身で、実家暮らし。年金受給者の母親と同居しているため、なんとか生活できているという。」(誌面より)
52歳大学非常勤講師「年収200万円」の不条理 | ボクらは「貧困強制社会」を生きている
首都圏のある駅前のロータリー。ススムさん(52歳、仮名)は待ち合わせ場所に旅行用のキャリーバッグを引いて現れた。中には、自身が執筆した書籍などおよそ20冊が入っている。非常勤講師として大学の教壇に立つこ…

大学教員は教員でも、終身雇用の資格である「教授」から、短期の雇用契約であり流動性が高い「非常勤講師」を含むので多義的である。上記の最初に提示した大学教員とは、大学教授のことを指し、後者は「非常勤講師」のことを指す。同じように授業を教えていても、専任教授と非常勤講師、給料の格差が10倍であることも 東洋経済オンラインの記事は明らかにしている。

大学業界のキャリアの築き方

大学の教員になる一般的な方法は、博士または修士以上の学位を取得後から始まる。そのまま、所属している大学の助手になって大学の雑務を手伝ったり、あるいは非常勤講師として授業を担当することがまず、キャリア形成の一歩であるとされている。この場合、 J-REC などの研究者のための求人サイトに出ている公募から応募することになるが、ここでの「就活」はいわゆる「コネ」採用が強いという。実際に私の身の回りのケースでも修士課程から、内部進学して博士課程に入った時点で助手として働き始めた人もいる。あるいは、学外の研究会で知り合った大学教授から声がかけられ「内定」をもらいその後、ポータルサイトで形式上だけ公募するといった具合である。大学での就職をしない人は、一般企業や研究機関に務めて、実務経験をする人もいる。

その間、所属する研究大会にて研究論文を発表したり、学会誌に寄稿するなどして研究業績を積み上げる。学会は、所属の義務などはないが、所属しているとこれらの研究業績に繋がる活動ができるようになり、加えて年会誌やジャーナルなどを送付してくれる。学会に所属するには、たいていは同じ学会に既に所属している人からの推薦と年会費(1万年くらい。学割もある)の支払いをするだけなので、一般人でも所属できる。

研究大会が毎年7月頃に開催されるものが多いが、そこで発表するだけでも1つの実績とカウントされる。今回のノルウェーにおける国際学会もそうだが、私も3回発表した東京大学とストックホルム大学が毎年主催している国際ジョイントセミナーでの発表も、実績とみなされるようである。

学会誌への掲載でも研究大会での発表でも重要なのは、査読つきかどうかという点である。所謂、ピアレビューと呼ばれるものであるが、学術誌に論文を投稿すると、査読者が選出され、論文を精査し、問題がなければ掲載にいたる。あるいは、研究大会での発表の公募から論文を提出して学会側が精査の結果、合格となれば研究大会で発表ができる。今回のノルウェーの国際学会での発表もまた査読つきと認定されるらしい。

このようにしてポイントを稼ぎ、業績を積み上げていくことで、助教授→講師→准教授→教授とキャリアアップをしていく。だからといって掲載論文数が多ければ、必ずしもいいわけでもなく、それまでの実務の経験だったり授業経験の有無、大学との相性なども最終的な人事評価では大きく左右するとのことだ。

日本の大学はもはや斜陽産業…?

しかし、ではなぜ冒頭で記した「52歳大学非常勤講師・年収200万円」といった惨状があるのだろうか。それは、少子化の影響による大学生の減少だけでなく、国の90年代以降の大学院重点化政策の影響が大きい。国のこの政策により、博士課程修了者は激増したがそのおかげで、少なくなる大学のポストにこのインフレ化した「博士」が殺到することになったのだ。

参考記事

博士を取っても大学教員になれない「無職博士」の大量生産
博士を取っても大学教員になれない「無職博士」の大量生産

さらに最近では、 講師・助教授の枠を減らして、非常勤講師を増やしていくという方針になりつつある ことも、知り合いの研究者から小耳に挟んだ。その潮流は、以下の記事からも明らかだ。

しかしながら、アカデミアのポストは2004年のいわゆる骨太政策によって「総人件費の削減」の煽りを受けて、とくに助手(現在の助教)のポストが激減した。さらに最近では、定年延長により新規にオープンになるポストも減る傾向にある(ただし、団塊の世代が65歳に達した後には大量退職が予測される)。したがって、ポスドクの次のポストはアカデミアに十分用意されているとは言えず、また、企業や行政も博士号取得者を受け入れる体制は不十分であり、3年~5年の任期のポスドクを繰り返すケースが増えてきた。
| 任期付ポジションについて考える

このような背景を考慮すれば大学経営側が、専任の教員のポストを増やさずに、期間限定・身分保障なしの非常勤講師に「アウトソース」することになるのは当然だろう。上記の記事でも指摘されているように、そもそも博士課程修了者を受け入れるポストが大学に傾倒しているという社会側の問題という指摘もある。ノルウェーの学会で、ある教授が「大学は斜陽産業だからね…。」とボヤいていた理由がよくわかる。

ある研究者は、非常勤講師の待遇改善を以下のように訴えている。

若手研究者はどう生きるべしか?

日本の大学は学費も高い割に、国際的な評判はアジア諸国に抜かれて競争力も下がっている。博士を卒業してからといって、英語が堪能になるわけでもなく、民間企業から引っ張られることもない。とくに文系において顕著だ。それではいったい、研究者志望のこれからの若者はどうアカデミックキャリアを形成していけばいいのだろうか。上述した大学の概況を踏まえて、若い人が今から打つべし手立てを考えてみた。

長期戦を受け入れ、「日本の大学」に依存しない

まず、いくつかのマインドセットを変える必要がある。これから研究職を目指す人は「長い戦」になることを受け入れなければいけない。日本では、「若ければ若い方が良し」の傾向からか、ストレートで大学院、博士課程進学をする人が多い。もちろん、それで研究職のポジションを得られればそれに越したことはないが、圧倒的に空席が少なくなっている今、このキャリアプランは逆にリスクが高い。なぜなら、社会人経験も実務経験も無いことがマイナスの評価につながる可能性があるからだ。

また、日本において大学組織内でしか育ってこないと、社会人経験が評価されないだけでなく、オーバークアリファイドとなって、逆に民間企業への転身も難しくなるリスクが高くなる。それでいて、英語もできるようになるわけではないので、外資系、海外の大学、国際機関、NGOなどへの就職の道も閉ざされる。

上述したように学歴のインフレ化に伴い今後は、博士課程修了者が「最低限の必須資格」になっていく。その上でさらに、海外で博士をとった帰国組がより評価されて「国産博士」の空席を埋める。(というか既に起きている)。そうなると、学士・修士から海外の大学へ進学して、博士もいっきにとってしまうのが最速のキャリアパスになるのは明らかだ。

「しかし大学院・博士課程の進学のためには多額の学費がかかるので、そうはいってられない」

という人は、日本とアングロ・サクソン系の国の大学事情しか知らないであろう。ヨーロッパの大学院の学費は、 日本に比べて非常に安い(または無料)ことは、Tatsumaru Times読者ならご存知 であろうが、実は博士課程も同様である。 むしろ、スウェーデンにおいては博士課程は研究者として雇用されるので学費がかからないだけでなく給料も支給される。 先日、ノルウェーで友人から聞いた話だと月収は、26000 sek = 約34万円もらえるということだ。スウェーデンの博士課程は、研究だけの4年コースと授業を担当する5年コースの2つに分かれており、その後に教授などアカデミアでキャリアを築きたい人は、後者が有利ということだ。もし学費がかかる大学でも 給付型の奨学金 を利用したり、エラスムスムンドゥスに参加する方法もある。(返済型の奨学金は借りを作ることになるのでオススメしない)

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海外の学位は、国際的にtransferableで互換性が高いが、日本国内の学位はそうとも限らない。知り合いは、旧帝大の大学院を出ていて、通常なら博士課程への進学要件を満たしているはずだが、スウェーデンの博士課程にアプライするためには不十分とみなされ、スウェーデンにおいて修士課程をもう一度履修していた。 これはつまり日本の修士の学位がスウェーデンの修士と同等のものであると考えられてないこと 、そもそも博士課程は学生ではなく雇用なので、審査基準が高く狭き門であることが原因だったのだろう。

加えて、欧米では博士、修士学位保持者が民間企業やNGOなどで働くことも一般的であるため、大学キャリアがダメでも潰しが効く。もちろん履修言語が英語であれば、英語力がつくだけでなく国際社会へのキャリア形成も歩みやすくなる。

「海外大学院へ進学すると、日本での就職に不利ではないか?」ということは経験から、ほぼないと言えるだろう。日本語での論文の投稿は学会にさえ所属していればできるし、年に数回しか開かれない研究大会に参加することで十分で、さらに国内の研究者と交流をすることができ就職のチャンスに繋げられる。日本文学など日本語で履修した方が優位な学問や、教員や社会福祉士などの資格を取るなら別だが、少なくとも社会学分野においてアカデミックなキャリアを形成するなら、欧米の文献は避けては通れない。それだったら最初から海外の大学院へ行ってしまった方が話は早い

しかし、誰でもすぐに海外の大学へ飛べるわけではない。TOEFLやIELTSの勉強は避けては通れないので、時間がかかる。英語の授業についていけず落第することもあれば、修士論文が通らない場合もある。必須要件が足りないで大学院に受からず、別の国へ留学することになることもある。それくらい日本人にとってはハードルが高い。だからこそ「長期戦」を受け入れることが必要なのだ。

大学だけに依存しないフリーランス系研究者のススメ

もう1つは、大学でのキャリアだけに依存しないことだ。大学の就職を諦めろという訳ではなく、 アカデミックキャリアだけをみるな ということだ。私は、ドイツの国際NGO、スウェーデンのIT企業の職を経て、日本でフリーランスとして独立して今に至るが、そのような経歴からすると 空きが出るかもわからない研究職のポストを待ち続けながら、日本の大学だけで研究活動をすることはリスクにしか思えない。 これはフリーランス特有の考え方かもかもしれないが、フリーランスは収入源をいくつにも増やすことができ、ある程度それらが固定の収入になると、「1つの会社に雇用されて収入源が1つしかないことが怖くなる」のだ。なぜなら、1つの収入源に依存している場合、首にされた時に文字通り「何もできない」からである。

これは大学の研究職だけに収入源を頼ることにも同じことが言える。空きが出るかもわからないポジションを、何もしないで待っている暇があるのなら、学生のときから副業をすればいい。そうすることで大学の職が得られない時でもリスクヘッジできる。しかも若手の研究者が、専任の講師や准教授につくことはよほど成績がよくないと無理なので他の生計手段を持っていないと、それこそ「大学非常勤講師・年収200万円」を避けられなくなる。

日本の大学の研究者は、ストレーターの慣行からかこれまでずっと大学に篭っていた人ばかりのために、ビジネスマインドはあまりないだろう。もちろん高学歴ワーキングプアとならないように大学の予算が減らされないことを「願う」ことは可能であるが、今後はこのような兼業して生業を増やしていかないと、厳しい生活状況に直面することが避けられないだろう。今は クラウドソーシングで場所も問わずにできる仕事もある ので、利用しない手はない。

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私自身、4月から一応、日本で研究職に所属はできるが、これまで通りフリーで執筆、コンサル、通訳の仕事は続けていくつもりである。つまりこれまで通りフリーランスの仕事をしながら研究者でいるということだが、この安心感は大きい。何故なら、 研究職をしてアカデミックキャリアの先駆けを築きながもう一方で、フリーの仕事もできるからである。

まとめると、私が提唱するこれからのアカデミックキャリアの築き方は、

・長期戦になることを受け入れる 
・学会に早い時期から所属して、論文発表、寄稿をしながら国内の研究者と繋がりを保つ 
・学部から交換留学へ参加して、修士・博士課程を欧米の大学で修了 
・鍛えた英語力で外資、国際機関、国際NGO、などで働き実務力をつける 
・給付型の奨学金を利用 
・学生時代から、フリーランスをして核となる収入源を増やす準備をする

ということになるだろう。

沈みゆく日本の大学でのキャリパス一択で生きていくことは、これからの時代はどう考えてもリスクである。そうならないためにも、日本の大学でのキャリアに依存せず、海外大学院で着実な力をつけると同時に経済的に「自走」できるように早い段階から方策を立てていくことが考えられる最善の策ではないだろうか。

*この記事は有料メールマガジン「#ぶちゃけ欧州最前線」で先行配信された記事を編集したものです。

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