「大学教員」って本当にいい仕事?
「大学教員」という肩書きの響きは悪くはない。 学歴社会である日本では、(必要以上に)権威が高いだけでなく、 実際の給料も悪くないからである。 こちらの記事 によると、大学教授の平均年収は1000万円越えであり、 医者とそう変わらない。待遇が悪いだけでなく、 自分の興味関心の赴くままに自分の研究領域を探求できることもま た魅力の1つだ。そのようなイメージがあれば、 アカデミックキャリアを描くことは夢に溢れているが、 実情は複雑でありこの産業自体が「沈みゆく大船」 である現状は否めないことは、 東洋経済オンラインの「52歳大学非常勤講師・ 年収200万円の不条理」を読めばよくわかる。
「現在は複数の大学で週5コマの授業を担当。 雑誌への執筆や専門学校での集中講座などの雑収入を合わせると、 ようやく年収200万円ほどになる。 大学院時代に日本学生支援機構から借りた奨学金の返済がまだ30 0万円ほど残っている。独身で、実家暮らし。 年金受給者の母親と同居しているため、 なんとか生活できているという。」(誌面より)
52歳大学非常勤講師「年収200万円」の不条理 | ボクらは「貧困強制社会」を生きている
首都圏のある駅前のロータリー。ススムさん(52歳、仮名)は待ち合わせ場所に旅行用のキャリーバッグを引いて現れた。中には、自身が執筆した書籍などおよそ20冊が入っている。非常勤講師として大学の教壇に立つこ…
大学教員は教員でも、終身雇用の資格である「教授」から、 短期の雇用契約であり流動性が高い「非常勤講師」 を含むので多義的である。上記の最初に提示した大学教員とは、 大学教授のことを指し、後者は「非常勤講師」のことを指す。 同じように授業を教えていても、専任教授と非常勤講師、 給料の格差が10倍であることも 東洋経済オンラインの記事は明らかにしている。
大学業界のキャリアの築き方
大学の教員になる一般的な方法は、 博士または修士以上の学位を取得後から始まる。そのまま、 所属している大学の助手になって大学の雑務を手伝ったり、 あるいは非常勤講師として授業を担当することがまず、 キャリア形成の一歩であるとされている。この場合、 J-REC などの研究者のための求人サイトに出ている公募から応募すること になるが、ここでの「就活」はいわゆる「コネ」 採用が強いという。 実際に私の身の回りのケースでも修士課程から、 内部進学して博士課程に入った時点で助手として働き始めた人もい る。あるいは、 学外の研究会で知り合った大学教授から声がかけられ「内定」 をもらいその後、 ポータルサイトで形式上だけ公募するといった具合である。 大学での就職をしない人は、一般企業や研究機関に務めて、 実務経験をする人もいる。
その間、所属する研究大会にて研究論文を発表したり、 学会誌に寄稿するなどして研究業績を積み上げる。学会は、 所属の義務などはないが、 所属しているとこれらの研究業績に繋がる活動ができるようになり 、加えて年会誌やジャーナルなどを送付してくれる。 学会に所属するには、 たいていは同じ学会に既に所属している人からの推薦と年会費( 1万年くらい。学割もある)の支払いをするだけなので、 一般人でも所属できる。
研究大会が毎年7月頃に開催されるものが多いが、 そこで発表するだけでも1つの実績とカウントされる。 今回のノルウェーにおける国際学会もそうだが、 私も3回発表した東京大学とストックホルム大学が毎年主催してい る国際ジョイントセミナーでの発表も、 実績とみなされるようである。
学会誌への掲載でも研究大会での発表でも重要なのは、 査読つきかどうかという点である。所謂、 ピアレビューと呼ばれるものであるが、 学術誌に論文を投稿すると、査読者が選出され、論文を精査し、 問題がなければ掲載にいたる。あるいは、 研究大会での発表の公募から論文を提出して学会側が精査の結果、 合格となれば研究大会で発表ができる。 今回のノルウェーの国際学会での発表もまた査読つきと認定される らしい。
このようにしてポイントを稼ぎ、業績を積み上げていくことで、助手→講師→准教授→教授とキャリアアップをしていく。 だからといって掲載論文数が多ければ、 必ずしもいいわけでもなく、 それまでの実務の経験だったり授業経験の有無、 大学との相性なども最終的な人事評価では大きく左右するとのこと だ。
日本の大学はもはや斜陽産業…?
しかし、ではなぜ冒頭で記した「52歳大学非常勤講師・ 年収200万円」といった惨状があるのだろうか。それは、 少子化の影響による大学生の減少だけでなく、 国の90年代以降の大学院重点化政策の影響が大きい。 国のこの政策により、博士課程修了者は激増したがそのおかげで、 少なくなる大学のポストにこのインフレ化した「博士」 が殺到することになったのだ。
参考記事
博士を取っても大学教員になれない「無職博士」の大量生産
<大学教員の需要はこの50年間で右肩下がり、今や博士14人に1人しか教員のポスト...
さらに最近では、 講師・助手の枠を減らして、 非常勤講師を増やしていくという方針になりつつある ことも、知り合いの研究者から小耳に挟んだ。その潮流は、 以下の記事からも明らかだ。
しかしながら、
アカデミアのポストは2004年のいわゆる骨太政策によって「
総人件費の削減」の煽りを受けて、とくに助手(現在の助教)
のポストが激減した。さらに最近では、
定年延長により新規にオープンになるポストも減る傾向にある(
ただし、
団塊の世代が65歳に達した後には大量退職が予測される)。
したがって、
ポスドクの次のポストはアカデミアに十分用意されているとは言え
ず、また、
企業や行政も博士号取得者を受け入れる体制は不十分であり、
3年~5年の任期のポスドクを繰り返すケースが増えてきた。
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任期付ポジションについて考える
このような背景を考慮すれば大学経営側が、 専任の教員のポストを増やさずに、期間限定・ 身分保障なしの非常勤講師に「アウトソース」 することになるのは当然だろう。 上記の記事でも指摘されているように、 そもそも博士課程修了者を受け入れるポストが大学に傾倒している という社会側の問題という指摘もある。ノルウェーの学会で、 ある教授が「大学は斜陽産業だからね…。」 とボヤいていた理由がよくわかる。
ある研究者は、非常勤講師の待遇改善を以下のように訴えている。
若手研究者はどう生きるべしか?
日本の大学は学費も高い割に、 国際的な評判はアジア諸国に抜かれて競争力も下がっている。 博士を卒業してからといって、英語が堪能になるわけでもなく、 民間企業から引っ張られることもない。 とくに文系において顕著だ。それではいったい、 研究者志望のこれからの若者はどうアカデミックキャリアを形成し ていけばいいのだろうか。上述した大学の概況を踏まえて、 若い人が今から打つべし手立てを考えてみた。
続きは、以下の有料noteからどうぞ。
コメント
>このようにしてポイントを稼ぎ、業績を積み上げていくことで、助教授→講師→准教授→教授とキャリアアップをしていく。
>さらに最近では、 講師・助教授の枠を減らして、非常勤講師を増やしていくという方針になりつつある ことも、知り合いの研究者から小耳に挟んだ。
2007年の学校教育法改正により、「助教授」は「准教授」に変更となりました。
記事上で示したいのは「助教授」ではなく「助教(助手)」であると推察されます。
論旨から推測するに大学研究職へのアカデミックキャリアへの関心が薄いのかもしれませんが、研究職を自称し(大学所属ではなくとも)研究職の一人としてこの記事を発信されるのであれば、こうしたミス1つでも「この人は大学研究職に対して十分な知識・理解なく記事を書いている」と思われるかもしれません。
このブログは様々な領域の研究者、政策関係者、若者が拝見していると考えられます。私は大学専任教員職ですが、ネット上に乱立する「大学教員職に対する間違った情報や噂」が独り歩きする現状に辟易していますので、せめて情報は正確なものを(小耳に挟んだ程度のものではないものを)発信していただければと思っています(大学の現状として上記にあるものが全て間違っているという指摘ではありません。ただ、どの大学も記事のような方針になりつつあるというような風に読める記事の論調には慎重になってもらいたいとは思いますが)。
論旨自体には異論はありません。私自身は大学院からストレートに大学へ奉職した身ですので、論旨のようなキャリアの歩み方はしていませんが、これからの時代はそういう考えも大事だと思います。
コメントありがとうございます。ご指摘頂いた点について、訂正並びに追記いたします。大変助かりました。