主権者教育だけではない! スウェーデンの若者の投票率が異様に高い理由

公益財団法人明るい選挙推進協会の発行する情報誌 Votersの40号に寄稿しました。

編集者さんから許可を頂いたので、こちらに転載をします。

いつも通りの内容ですが今回は、以下の点が新たな情報でしょう。

・スウェーデンの戦後の投票率の推移

・若者の投票率が7割りを切るときがあった

・投票率が向上(?)した原因とは…?

それではどうぞ。全文はこちらから読むことが可能です。


主権者教育だけではない! スウェーデンの若者の投票率が異様に高い理由

スウェーデンでも若者の投票率が低かったときがあった

近年、日本でも18歳が投票できるようになり、 ますます主権者教育に注目が集まっている。というのも、ようやく日本の若者が18歳で選挙権 を行使できるようになったものの、実際に投票所に足を運んで票を投じている若者は 4 割程度にすぎないからだ。そういった状況の中で先進事例としてたびたび紹介されるのが、スウェー デンである。なぜなら、スウェーデンは若者の投票率が8割を超える、政治意識の高い国だからだ。第 2 次世界大戦後から2002年までの17回の平均投票率は、87%を超えている。

しかし、そんなスウェーデンでも実は若者の 投票率が低かった時期があった。例えば、2002 年の総選挙の結果を見てみると、26歳以下の若 者の選挙の投票率は69%であった。この時期は若者のみならず、全世代の投票率が低下している傾向にあった。といっても、全世代の投票率 は80%を下回っていないが…。それから12年経った2014年の総選挙では、全世代の投票率は85.8%まで回復した。さらに若者の投票率(30 歳以下)も81%まで上昇した。

単に選挙投票率が高いだけではないのもスウェーデンの若者の特徴だ。スウェーデンの『子ども・若者白書』によると、スウェーデンの若 者(16歳から25歳)は、

・ 40%が政治について話すことに興味がある

・ 56%が社会に関しての問題について話すことに興味がある

・ 29%が月に数回知り合いと社会の問題や政治について議論する

・ 40%の若者が自分の地域に影響を与えることに興味があり、17%が政治家に意思表明する機会があると感じている

ということが明らかになっている。

さらに社会を牽引するスウェーデンの政治家の若さにも驚かされる。2014年に発足した社会 民主党政権の連立内閣の24人の閣僚のうち30代 の政治家が 3 人もいるのである。グスタフ・フーリドリーン(31歳)(教育・調査省大臣)、アイーダ・ハジアリッチ(27歳) 高校・知識向上担当大臣、ガブリエル・ヴィークストロム(29歳)(国民健康・医療およびスポーツ担当大臣)、といった具合にだ。

以上のように、スウェーデンでは若者が社会の実質的な形成者として実際に多くの側面で活躍していることが明らかだ。本稿では、スウェーデンではなぜ若者がこのように社会を形づくる主体となれているのか、若者政策と主権者教育という角度から考察してみたい。

スウェーデンの若者の選挙投票率が高い理由

スウェーデンでは1990年代に投票率が低下した際に、民主主義調査委員会を中心に大規模な調査等を実施したが、02年の総選挙の投票率は向上しなかったという。しかし06年の選挙では、 政府が特別な政策を打たなかったが投票率は向上した。同委員会のダニエル委員は、「Aの政策を実行した結果、投票率が向上したという一般論を導くことには、懐疑的である。投票率は政治情勢により大きく影響を受けるため、一時的な啓発キャンペーンにはあまり力をいれない」と言う。

しかし、それでも日本の現状と比較し、ス ウェーデンの若者の政治参加や投票率が高い理由を筆者が強引に抽出すると、 ⑴選挙への参加のしやすさ、⑵若者の社会的影響力を高める若者政策、⑶多様な主権者教育、の 3つに大別できるだろう。

( 1 ) 選挙への参加しやすさ

選挙制度の違いが投票率に直接的に影響を与えている最も大きな要因であることは明らかだ。例えば、スウェーデンでは選挙で大々的に選挙キャンペーンが実施される。有名なのは「選挙小屋」であるが、これは街中に各政党が小屋のようなブースを構えて、直接市民と対話できるようにしている。

 

ある地域では、初めて投票する若者向けのウェブサイトやポストカードの 送付、地域の新聞による政治の情報の掲載などをして選挙の周知と教育に努め、投票率を高めたという事例もある。

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さらに、投票のしやすさを高める工夫も欠かせない。最近の選挙では有権者の約 3 分の1が期日前投票を利用したというくらいに、期日前投票が一般的になっている。投票所は自治体が裁量権をもって自由に設置できるため、大学、 図書館、ショッピングモールなど人が行き交い やすいあらゆる場所で投票ができるようになっている。また、投票時には全スウェーデン国民 が所有している「個人番号カード」を持参するだけでよく、もし海外に滞在している場合でも 余計な書類提出などをする必要なく投票ができるのである。

さらに「後悔投票」というユニー クな制度も紹介せずにはいられない。期日前投票をした後に、その後の選挙期間中に考えが変わっても、投票日当日に個人番号カードを持参すれば投票先を変更できるという、まさに「後悔しない」制度もあるのだ。

まず、これだけでも投票率は十分に上がるだろうことは、容易に想像がつくであろう。

( 2 )若者の社会的影響力を高める若者政策

2つ目の若者政策という視点は、なぜスウェーデンの8割の若者が選挙に行くのか、その理由を探るヒントを与えてくれる。若者政策とは、若者が子どもから社会的に自立した大人になる「移行期」を支える、教育、労働、健康、 政治、家庭など多分野に及ぶ包括的な政策のことを指す。日本でいう子ども・若者育成支援推進法を想像してもらうとよい。2004年、スウェーデンの国会で定められた若者政策:『決める力-福祉の権利』(Makt att bestämma–rätt till välfärd)では、以下の 2 つ の目標が定められた。

・ 影響力への若者の実質的なアクセスを保障すること

・ 福祉への若者の実質的なアクセスを保障すること

これはつまり、若者が社会に参加することを目的としているわけではなく、参加した「結果」、社会に影響を与えられているという状態を目指していると解釈できる。実際にスウェーデンの 若者政策の 1 つの分野には「影響力」という分野があるが、そこでは若い人から構成される若者団体などの運営を保障する助成金付与が1つの主な事業となっている。

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スウェーデンの若者政策を担う若者市民社会 庁は、2014年には、約30億円の助成金を106の子ども・若者団体に拠出している。この助成金を用いて事務所を構え、人を雇うことができるのだ。ただでさえ浮き沈みの激しい若者団体にとって、これは持続性を高めるには欠かせない重要な資源であることは明瞭だ。また、これらの若者団体と若者・市民社会庁間との若者政策 に関する協議の場を持っていることも紹介しておきたい。若者団体は市町村レベル、県レベル、 全国レベルで組織化されており、それぞれのレベルに応じて行政が対応する形で若者団体と関係を持ちながら、地域・国レベルの若者政策を作り上げている。

( 3 )多種多様な若者の民主主義社会への参加の機会

そして3つ目の投票率を高めている要因は、 主権者教育ということができるだろう。スウェーデンでは、「主権者教育」や「市民性教育(シティズンシップ教育)」という言葉で、 若者の政治教育を実施していないし、そのような科目があるわけではない。スウェーデンの教育の目標には、積極的な市民(Active Citizen) を育てることが盛り込まれている。

日本でも「平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことが現行の学習指 導要領の社会科の目標として定められている。 しかし、知識詰め込み型の教育に偏重しがちな 日本の社会科教育とは異なり、スウェーデンでは、それらの知識と技能を実際に使えるところまで徹底していることが大きな違いである。 では実際に、どのようにして積極的な市民を培っているのだろうか。スウェーデンの若者が民主主義を実践する機会の全体像は、下図のように分けることができるだろう。

学校、地域・余暇、その他と3つに分けたが、具体的に説明すると次のようになる。例えば、 あなたがスウェーデンの一般的な高校生であるとする。学校に何か物申したいのであれば生徒 会(Elevkår)に所属して活動もできるが、学校の外で地域の政党の青年部に所属して活動をすることもできる。

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選挙が近くなれば、ほぼすべての高校で開催される「学校選挙(Skolval)」 という模擬選挙に備えて、政党青年部の若者を 学校に招待し政治討論を開催することも恒例行事となっている。それは学校で政治を扱うことも制度的に保障されているから可能なのであ る。18歳であれば本物の選挙でも投票ができるが、同じ18歳の友人が政治家として出馬していることもザラなのである。

また、学校を含めた自分の住んでいる「地域」 をよくしたい活動をしたいのだけども、賛同で きる政党もないし、「政党」といった硬いイメージで活動がしたくないのであれば、若者協議会(Ungdomsråd) を発足させて活動をすることができる。若者協議会は、若者にとってどのよ うな地域がいいか話し合う場を設けたり、デモ の開催、請願書の送付、また集会でスピーチ、地域の政治家と話し会いをするなどしている。

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このような様々な方法によって地域社会に若者の影響力を高めるという目的を達成しているのだ。 その他にもスウェーデンの若者はスポーツ、 芸術的な活動、趣味などの団体活動や、地域の余暇活動施設などにも多く参加している。すでにある活動に参加するだけでなく、若者自らが新たな若者団体の活動を生み出すことに社会がその価値を認めて、余暇活動指導員(ユースワー カー)や若者政策が財政的にも支援していることも、他者と共同し意思決定を積み重ねる民主主義の場への参加の機会へとつながっているといえる。

このようにスウェーデンでは、若者の民主主義社会への参加の機会が多種多様に存在し、それを「若者の社会への影響力を高める装置」として若者政策が制度面から支え、若者が参加し
やすい民主主義社会が実現している。そして、大前提として選挙の投票がしやすい環境も整っ
ている。それゆえの、高い若者の投票率と参加意識なのである。

出典(Voters401214頁)

もろずみ たつへい1988年生まれ。北欧の若者政策・民主主義の研究者。専門は比較教育学、若者政策・参加、シティンシップ教育等。静岡県にて若者の社会参画を促進する学生団体を設立し、内閣府の子ども若者育成支援点検評価会議などに関わる。 東京大学教育学研究科特別研究生(2016年)


 

今回、「主権者教育」という視点で執筆の要請を頂いたのですがこれがまた難しい。なぜなら、かつてイギリスが導入していた「シティズンシップ教育」のような科目があるわけじゃないからです。だからまず、スウェーデンにおける「主権者教育的なもの」を定義する必要があり、その全体像を教育に限らずに提示していく必要がありました。なので、今回は個別の具体的な事例を深く紹介するのではなく、全体像を紹介する程度に留めました。(字数制限もあったので)

日本では、若者の投票率が低いので「どうしたら上げることができるのか?」が焦点になりがちです。しかし、そもそも社会は複雑系で、「ある特定の施策を実行した結果、若者投票率があがった」という因果関係を導くのはほぼ不可能です。本文で紹介した民主主義調査委員会のダニエルも、政策というよりは政治情勢の方が影響を与えていると言及していたくらいですから。

追加情報

編集者さんからは「スウェーデンではいつから主権者教育が行われていたか?」を再三聞かれましたが、上記で紹介したどの取り組みのことをここでいう「主権者教育」としているのかも不明であったために、直接的な数字を入れることはできませんでした。ちなみに学校選挙に限っては、この取り組み自体は、1960年代から国をあげて実践されるようになりました。この時期(1950~60年代)のスウェーデンの若者政策ではこんなことが起きました。

  • 1951年 政府報告書 「若者の社会との出会い (SOU 1951:41)」 の発行
  • 1954年 スウェーデン史上初めて政府の補助金を若者団体へ拠出する方針が可決される
  • 1958年 セツルメント全国連合が名称を変更し、自治体ベースのユースセンターの加盟を受け入れる
  • 1959年 若者団体と政府の連絡体として政府若者協議会 (Statensungdomsråd)が設立される (後に事業体である青年事業庁、若者市民社会庁に発展する)
  • 1967年 政府報告書 「若者活動の政府の支援」 発行 (SOU 1967: 19)

それとスウェーデン史上最年少で、教育・知識向上担当大臣となったアイーダ・ハジアリッチは残念ながら政界を退いています。飲酒運転で警察に捕まったからです。

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スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

詳細はこちらの記事で触れられており概して僕も筆者と同じ見解です。(デンマークとスウェーデンで飲酒運転の基準値のわずかな差が影響を与えたことは否めないでしょう..)

18歳で市議として当選し、22歳にして市の執行部にフルタイムで務めるという経歴のみならず、もともとスウェーデンには難民として移住していた経歴からも、移民統合の期待の星であったことは間違いないでしょう。

来年の総選挙には戻ってきてほしいものです。

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