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ストックホルム暴動について その2 – ある郊外の「社会的持続性」

前回の記事、ストックホルム暴動について  -スウェーデンのユースワークの日常と歴史に照らして に引き続き、ストックホルム郊外で起きた若者の暴動についてです。本当の原因、そして解決策はなんなのか、今回はある別のスウェーデンのコミュニティで火災報知器が一ヶ月に32回も鳴っていたゲットーがどのようにして、生まれ変わったのかについて書きたいと思います。

一ヶ月に32回の放火が1回に

スウェーデン南に位置するマルメの郊外、リンディンゲンという地域に位置する学校では一ヶ月に32回火災報知器が鳴っていたというのだ。これはいたずらで火災報知器のボタンを押したというのではなく、実際の火事で鳴った回数だというのだから驚きだ。「 しかし今は月に2回程度になった」と語るのは、数年前にイギリスから移住し現在はこの地域でエリア・コーディネーターをしている、フィオナさんだ。今年の6月の半ばに静岡県立大学でお世話になっている津富宏教授とともに訪ね、この地域のレジリアンス(復興、回復力)についてのお話しを伺った。

Bo01 området med Turning Torso i Västra Hamnen

スウェーデン南部に位置する第三の都市、マルメは人口30万人、スカンジナビアへのゲイトウェイ都市との呼称もある。1980年代は不況で伝統的な産業が後退し、人々が離れていった。その後、12年前にデンマークの首都コペンハーゲンを結ぶ橋が完成し、以前は船だけだった交通便が列車と車に拡張し、サービス都市として生まれ変わった。現在は、人口の増加とともに人口の流動性も高く、この10~15年間でおよそ人口の500万人が入れ替わるほど急成長をしている。この10年間、毎年3~5000人の難民をマルメ市だけで受け入れていることもあり、ヨーロッパの中でも移民政策の先行事例として取り上げられている。また環境に対する影響がない「グリーン開発」で、国連ハビタットからも表彰も受けている地区もある。

その一方で、不均衡な発展が経済的・社会的不平等の拡大をもたらした。こどもの3分の1が貧困状態であり、その大半が難民や外国の背景をもつ移民、母子家庭であった。これは「そもそもより平等な社会のほうが人々が幸福であるという、スウェーデンの理想に反している。」そこで、市がこの格差を埋めようと考えて様々な取り組みを始めた。しかし、市全体を対象に対策をしても、中産階級の地域が結局より一層上手にその対策を活用してしまい、より格差が広がってしまうことが分かった。つまり、市が分断されている限り、市の持続可能性は達成できないことを認識したのだ。そこで、特定地域に集中したプログラムを始めることにした。特定の地域に資源を集める、実験的に施策をうち経験を積み、成功モデルをその他のエリアに応用するというアイディアだ。こういった背景をもとに、2011年からの5年間で全市で5か所が札悪され、リンデンゲンもそのうちのひとつとして採用された。目的は、「社会的」持続性を滋養すること。持続可能な都市の3つの要素である、経済的・環境的・社会的持続性から構成されており、マルメ市リンディンゲンは前2者は達成した。あとは、社会的持続性をどう創出するかという段階に至った。こうしてリンディンゲンにおけるエリアプロジェクトは始まった。

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リンディンゲンの人口は6700人、うち移民の割合は60%。エリアプロジェクトの駆け出しである対話のプロセスは、50人から100人くらいの住民を対象に始まった。保護者、若者、高齢者、店主などの様々なグループを招く一方で、外部の集まりにも出かけて行くだけでなく、若者自身がいるところへ出向くアウトリーチも欠かさなかった。ここで最も大切なことは、何を話し合ったとか、どう決まったかとかではなく「態度」だとフィオナは語る。オープンで、相手を尊重し、現実的で、配慮を持ち、話を聞いて、話して、意見を交換する。そして欲していることを聞き取り、それに対応し、実行していく。単に聞いているだけでなく、確実に実行していくというシンプルだが複雑なことだ。ときにはできないこともある。できたこと、できなかったことを確実にフィードバックしていくしていくという「態度」がここでは大事だ。こうして、住民は「安全で魅力的で仕事があり透明性のある街」をつくることを決めた。持続可能でレジリエントな社会にはもっと多くのもっと多くの建設的で、楽しめる「ミーティング・プレイス(出会いの場)」が必要という結論を出し以下のプロジェクトが始まった。

※スウェーデンでは、コミュニティーセンターやユースセンターは「出会いの場(Meeting Place: mötesplatser) 」と言われることが多い。

すべての活動の家 Allaktivitetshuset

Tjejer,+webb

ひとつが2年前に始まった、学校を課業後に活用するプロジェクト。いわばユースセンターの学校バージョンだ。放課後の、普段は閉鎖していた学校を解放して様々なアクティビティのために場所を提供するというプロジェクトだ。ダンス、ダーツ、キックボクシング、料理、運転免許習得のための勉強、中国語、アラビア語の勉強などだ。日本でいうと放課後の学校に生徒が残って部活動をしたりするのはあたりまえだが、大きな違いは地域に開かれているという点だ。上述した活動を大人も一緒になってする。始めは子どもだけが対象だったが、徐々に大人も参加するようになったという。活動は全て無料で、ほとんどがボランティアによって運営されている。アラビア語の教室は7つもあり大人のボランティアが運営している。

その結果が、冒頭の学校での放火事件の減少である。その理由としては、親が学校に来るようになり、学校と親や住民との垣根がなくなったことがあげられる。またこの地域のアパートは古いタイプであり、子ども2人を基準に標準設計としているため多くの子どもを持つ家族が多いこの地域ではこのような場所は非常に重宝される。

多くのユースセンターでは男子の利用が多いのだが、ここでは女子の参加が半分以上だという。週に4回提供している朝食では、年長の若者や大人が年下の子どもたちのための朝食の準備を手伝っている。全体への活動への参加者は、週に300名。地域で一番悪い非行少年すら、このプロジェクトに招き、ビリヤードやサッカーをしてもらっている。 異なる接し方をすることで、異なるふるまいを引き出し、尊敬してもらえるということを感じてもらうためだ。

Brispriset

プロジェクト担当者は、アラブ系の男性でで常勤のアクティビティ・リーダーが1名。ほかに10人程度のパートタイムのアクティビティ・リーダーがいる。スウェーデン人も、外国の背景を持ったスウェーデン人も、外国の背景をもった移民も難民も男性も女性もいて、そういうあり方を子どもたちの見本にしてもらう。彼らは、正規の教員が休んだときの代用教員でもあり、子どもたちから見ると、学校とこのプロジェクトが一体だと見える効果もある。今は模範としてみなされてあちこちから視察が来ており、子どもの人権大賞も受賞した。

未来センター Framtidens hus

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こちらの施設はリンディンゲンの中心に位置し、横断的な市民サービスを提供する場としての役割を果たしている。赤十字、セーブ・ザ・チルドレン、ユースワーク、福祉サービス、保護者のためのスウェーデン語の教室、市民サービスコーナー、公共職業安定所、などの様々団体が一カ所に集中させることで、シナジー効果をあげている。

市民からの提案もとりあげている。今年1月の開所式には300人から400人の来場があり、その際に得た要望のひとつが、「自転車教室」であった。母国で自転車文化がない難民が多いこの地域ならではの独特のニーズで、自分の足で市内にいけるようになることは文字通り移動の自由を獲得することであり、働けるようになるためにも必要とされていたのだ。赤十字の主催で開かれるようになり、多くの女性が参加した。

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また、市民活動の支援もしている。あるリナというリンディンゲン出身の若い母親が、行なっていたアラブ系男性のための活動がその一例だ。リンディンゲンのほとんの人は働くためにマルメの市内、もしくは国境を越えてデンマークまでいく。特に男性は夜遅くまで働き、街中のカフェやモスクに留まってしまい、結果として家族や子どもといる時間が少なくなってしまっている。リナという女性は、ここに問題意識をもち、まずは自宅に彼らとその家族を招いて、コーヒーを提供し、家族がふれあえる場をつくった。これが手狭になってきたため、今では当施設で場所を提供するようになった。

エリア・プログラムこのように機能させるために、定期的に関係者を巻き込んだミーティングを重ねている。6週間から8週間に一度、住宅組合、住民、市行政、NGO(女性団体、赤十字、住民組合)、などの多様な関係者が会して計画についての意見交換を分野横断的に進めている。

リンディンゲンの考える「社会的持続性」とは?

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開始してからわずか2年間で国際的な賞を受賞するなど成果をあげてきたリンディンゲン、エリアプロジェクトだが、ではこのプロジェクトを支える根本的なアイディアである「社会的持続性」とは、どのように語られてきたのだろうか。フィオナ(写真左)はこう答える。

社会的資本を積み上げることで、自ら持続可能なコミュニティを創出すること。

民主主義の格差(democratic gap)が広がっている。民主主義の不足(democratic deficit)という問題に取り組む。これが、レジリエント(復興力のある)社会を創る根幹にある。

何事も、住民本人たちが何を欲しているかと関連しなくてはならない。そのために、第一に「対話」をしなければならない。まずは何をすべきかを知るために人々に尋ねるという「政治的決定」から始まる。そうやって、市民との対話のプロセスが始まった。この地域に対する期待、未来についての意見、子どもの未来についての意見。これがらプロジェクトの、確固とした基礎となる。

月に30回以上も起こっていた学校での放火を激減させたのは、単なる場当たり的な対処では、その場しのぎにはなっても、根本的には解決できなかっただろう。学校によって隔離された子ども・若者と周囲のコミュニテに住む保護者や住人との社会関係資本を構築し、地域のレジリアンスを高め、民主主義の格差を埋めたことによって成し遂げられたのだ。

  1. Jason より:

    I genuinely enjoy studying on this web site, it holds great blog posts. “One should die proudly when it is no longer possible to live proudly.” by Friedrich Wilhelm Nietzsche.

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