ストックホルム新生ヘルスケアベンチャー「Qinematic」が語る、スタートアップ文化の育てかた

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はい、ストックホルムのスタートアップ・インタビューシリーズ第2弾です!前回の記事に引き続き、今回もまたスウェーデン、ウプサラ大学に留学中の寺嶋くんからの寄稿です。今回は、医療系のスタートアップへのインタビューです。

それではどうぞ!

近年、日本でもシリコンバレーに次ぐスタートアップシーンとして注目をあつめるストックホルム。この街でいままさにサービスがローンチされたスタートアップが「キネマティック(Qinematic)」です。キネマティックはそれまで長時間かかりまた高額であった身体検査を、”安く””早く””誰でも”可能にした画期的なヘルスケア分野の最新スタートアップです。

今回は、創業者のあるグレン(Glenn Bilby)にストックホルムのオフィスにてインタビューをおこないました。

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インタビュー相手のCEOグレン(Glenn Bilby)

まずはじめに簡単にクイックポスチャーの仕組みに関して教えて下さい。

クイックポスチャーは医療用の身体を適切に動かせているかを計測するシステムです。被験者はモーションキャプチャーという高度な3Dカメラの前に立ち、ビデオの指示にしたがって身体を動かしていきます。屈伸や片足を挙げバランスを取るなどの一連の動きをカメラで取り、解析プログラムにかけます。検査後身体がどんな動きをしていたかを角度、長さなどの数値で表してくれ、これを専門家が診断に使います。例えばこの写真では、屈伸をした時の膝の軌跡がまっすぐでないことが、見て取れますが、この場合膝に日頃から負荷がかかっており、すぐに炒めてしまいます。クイックポスチャーの一番の特徴はそれまで医師や、スポーツ科学者、トレーナーが実際に被験者の身体を触りながら動かしたりし、40分近くかかっていたテストが、2分で、しかもこのカメラとソフトウェアだけで、できてしまうというところです。

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これはインタビューした私の検査結果の一部ですが、左足に48%の体重が、右足に52%の体重がかかっていることを示しており、この結果からトレーナーや医師が改善案を提案できるのだそうです。

ミッションはなんですか?

すべての人が生活の質を担保できることが大切だと考えています。私達のミッションは「自分の健康がどのような状態にあるのかを知る機会に誰でもアクセスできるようにすること」です。スウェーデンでは車の所有者に対して、一年に一度の自動車点検が義務化されています。点検中に問題が見つかれば、修理するというものです。私たちはそれを人間の身体で行います。点検し、問題が見つかれば、セラピスト、トレーナーなどに連絡を取り、改善を目指します。

スポーツサイエンティストとしてのキャリア

起業のきっかけはなんですか?

私はリハビリの専門家、スポーツ科学者として多くのキャリアを費やしてきましたが、その研究の過程では常に高度で高額な機器を使用していました。EMGという筋力を図る機械や、人間の身体の動きをモニタリングする3Dカメラなどです。80年代でもそういったテクノロジーに囲まれていたように思います。しかし、現在になっても普通の病院、クリニック、ジムなどには、上記のようなヘルスケア目的のテクノロジーが備わっていません。単純に高額だからです。ヘルスケアの領域で多くのイノベーションが起こっていることを見ればわかるように、私達が現在行っているような、身体の動きを”測定”することはこの領域ではごく普通のことです。しかし決してこういったヘルスケアテクノロジーが一般大衆が活用する病院やジムなどに広まることはありません。施設は高額ですし、利用にも多額の費用がかかってしまうからです。本当にそのテクノロジーを必要としている人たちに届いていないという状態がありました。

研究室と外界とのギャップへの気づき

そうして、80年代には研究室に在籍し、そこでやっていたことも大好きでしたが、同時に実務的なことも好きでした。患者やアスリート、時には企業と協力して働くことも好きだったのです。なので、その後はアスリートと働いている次期もありました。そこで、更にケガに関して興味を持つようになり、いまのリハビリの分野に身を置くようになりました。私の肩書はスポーツ科学者であると同時に、身体セラピストであるといえるでしょう。スポーツ科学者はアスリートのパフォーマンスおn最大化を目指し、身体セラピストは負傷した人々をいかに回復させるか、ということに重きを置きます。その後20年のスポーツ医療の分野に従事することになるのは、そのスポーツ科学者と身体セラピストという二足のわらじがあったからでしょう。数年後、筋肉に関係する病気の専門家を必要としていた保険会社で働いていました。会社が筋肉に問題を抱える顧客に関する意思決定をする際に助言をしていました。2004年頃でしたが、そこでヘルスケア産業という「大きな経済」を目の当たりにしました。科学者としての私はすべての人にそういったテクノロジーが渡るべきだと思っていましたが、その「経済」を見た私は、すべての人にその余裕があるわけでは無いという現実を知ったのです。現在私達がこのヘルスケアの分野で用いているテクノロジーは、高額で、博士といった専門家しか扱えないものがほとんどです。大学でそういった検査を行おうとすると、1日10人が限界ですが、クリニックには1日50人の人が助けを求めにやってきます。だからクイックポスチャーを開発しました。クイックポスチャーは一日に60人以上の検査が可能です。私が保険会社で働いていた時のことですが、検査待ちの人が400人もいました。検査の順番がくるまで家のソファに座り、ただ痛みを耐えている人が400人もいたのです。クイックポスチャーは通常医師が40分かけて行うテストを5分で行います。実は、医療業界ほどテクノロジーに遅れている産業は無いのです。自動車産業はどうでしょうか?ロボットにおける24時間体制で生産が可能です。なぜ、より正確で、安く、早くできるテクノロジーが医療産業には無いのでしょうか?

ストックホルムの起業環境に関して教えて下さい。

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ストックホルムの東側に開発が進む産官学共同のベンチャーハブ、青いところは建設中の建物

私が思うに、ストックホルムがユニークなのは、多くの教育を十分に受けた人々がおり、さらにその人達がみな、何かしたがっているということです。彼らは人生に目的があり、「何かを変えよう」としているように見受けられるのです。私の人生における哲学も”Make a Difference”なのですが、大学教育を終えた人々が同じような感覚を持っているように思います。もし起業家になりたかったら、「世の中に変化をもたらしたい」と思わなければなりません。

もちろんお金ではありません。9割以上のスタートアップが失敗することからみてわかるように、ストックホルムの起業家を動機づけるのはお金ではありません。一般的にスウェーデン人はお金持ちになりたい、と思わないのかもしれませんね。彼らは、善くあろうとし、人生を楽しみ、ライフスタイルを変えようとします。これはスウェーデンがアカデミックの世界でも成功している要因なのかもしれませんね。学問を極める気質を持っているのです。

もう一つの要因は、スウェーデンにそれほど仕事がないということなのかもしれません。失業率は他の国に比べると高くなっています。統計的に「失業していない人」も実際は教育プログラムなどに参加しており、働いているわけではないのです。多くのスウェーデン人は働いていません。教育を受けているか、似たようなプログラムに従事しています。だから大学で一定の教育を受けた人は何か自分で始めようとするんです。例えばスタートアップを始めるとか。その上、スウェーデンにはビジネスにおいても”協力”の文化があり、ときには雇用契約を交わすことなくビジネスを一緒に行うこともあります。例えば自分で個人のコンサルトを2ヶ月だけ雇うということもできてしまいます。これがそういったフリーランスのカルチャーを育てるのです。

トリプルヘリックスが起業環境を強くする

スウェーデン政府の取り組みとしてあげることができるとすれば、それは政府、産業、教育機関の三者の協力(トリプルヘリックス)でしょう。政府は支持を得るために社会を良くしようとし、大学は学部の成功のために政府からの出資を期待し、産業は生き残りをかけて差別化を模索しています。この三者に持ちつ持たれつの関係が生まれるのです。その三者はお互い違う役割を持っていますが、もしそれらをうまく使うことができれば、力強い「スタートアップカルチャー」を産むことができます。スウェーデンはその例ですね。

産業でのイノベーションとスタートアップでのイノベーションは大きく違います。私がその気になれば一晩でサービスをガラッと変えることができます。私がチームのエンジニアに頼めば、3時間でまったく違ったソフトウェアを開発することができるでしょう。でも企業の中ではできません。単純に遅すぎるのです。大学でも不可能でしょうね。お互いを理解し、目標を共有し、同じように方法を模索している人々の集まりというエコシステムが存在していれば、小さくてもそれは可能でしょう。これがスタートアップカルチャーです。これがストックホルムには存在するのです。

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今回取材したいま注目のヘルスケアベンチャーQinematic。取材の数日前に初めての顧客を獲得したのだとか。今後も成長が見逃せません。

画像提供:寺嶋和志

寄稿者プロフィール

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寺嶋 和志。九州大学3年生。スウェーデン、ウプサラ大学に交換留学中。スタートアップ、起業に興味があり、現在シリコンバレーとは違った特徴を持つストックホルムの起業環境について取材している。

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