スノーデン事件にみる「特定秘密保護法案」の本当に危険な理由

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Photo credits: Gage Skidmore / Flickr CC

週末、ベルリンのある劇場で開催された講演会に参加してきた。そこに登壇したのは、ブロガーであり元弁護士であり、アメリカ国家安全保障局(NSA)の諜報活動をエドワードスノーデンとともに暴露した、今世界で最も有名なジャーナリスト、グレン・グリーンウォルドった。

監視とインターネットと、その規模

ユネスコの調査によると、2005年から2011年の間にインターネットの利用者の数は2倍に増している。2011年時点では世界の人口の30.2%がインターネットへアクセス可能だったが、1995年時点ではその数はわずか0.4%だった。この飛躍は、世界規模においてもまだまだインターネット利用者の潜在的な増加数を示している。さらに下のグラフは世界のネットの利用者の年齢分布を示しているが、グラフからも明らかに若年層のほうがインターネットの利用が多いことが分かる。

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国連経済社会局の統計によると、世界の若年層15歳から34歳の割合は、33.05%を占める。これが0歳から34歳という年齢区分だと約60%にまで拡大する。OECD加盟国においては、若年層自体の割合は加盟国平均で25%とやや劣るが、全世代におけるインターネットの利用率は70%を超える

以上の数字が示しているのは、全世界でインターネットの利用が加速度的に普及しており、その中でも若年層の利用率が圧倒的に高いという自明の事実だ。そのくらい若い年代にとってインターネットはごく当たり前の日常の一部と化している。

しかし現在、そのインターネットが「監視」装置として日々の私たちの生活を「侵略」し始めているのだ。 若い世代は特に、「デジタルネイティブ」言われるくらいに携帯電話、パソコン、スマホ、ネットといった高性能な技術の中で、生活に切っては切り離すことができなくなるくらいに、インターネットと共に育ってきた。もう一方では、これらの技術にたいして政治的な決定から遠ざけられているという状況だ。

別のエントリー「スノーデン事件に影響を受けた欧州の新たな動き」では、スノーデン事件の世界の、主にヨーロッパにおける状況を整理し、アクティビストやジャーアナリストの主張や議論、方策を整理した。さらに若い世代の関心が高いことも確認した。

一連の暴露事件から、NSAをはじめとする様々な政府機関による一般市民の諜報活動、監視活動はなぜ社会にとって危険なのか、どのようにしてネット上の監視から逃れることができるのか、若い世代はどうか関わっていくのか、という疑問がわいたのでここにまとめてみる。

なぜ「監視」 が危険なのか?

抑圧的な 政府による監視活動は歴史上、何度も繰り返されてきた。市民の個人情報を扱い、反政府的な行動や批判を弾圧に利用してきた。しかし今日でも状況は—先進国といわれる国々でさえも—相変わらず、監視のある程度の潜在的な必要性を正当化している。テロ活動の防止と取り締まりをその正当化の言い訳にしいてるのだ。(アメリカでは9.11以降、この流れが強まった)インターネットは、政府機関へも犯罪者へもどちらにも可能性をもたらしたことは言うまでもない。 しかしながら、NSAの諜報活動の暴露が示したのは、多くの政府機関がこれらの膨大な市民の個人情報と全ての市民のコミュニケーションの方法を完璧に把握して、いつでもアクセスできるようにしているという事実である。

スノーデン氏と香港で直接会い、彼の暴露報道を手助けたアメリカ人ジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド氏が発刊した「暴露:スノーデンが私に託したファイル」によると、NSAのテロ活動防止という大義は完全に否定されている。2013年12月、連邦裁判所判事を務めるリチャード・レオンはNSAのデータ招集が合衆国憲法を違反している可能性を提示した上で、「NSAのメタデータ大量招集に夜分析が実際にテロ攻撃を阻止したと言う成功例を、政府は一件も提示できていない」と結論づけた。さらに、スキャンダル後にオバマ大統領が設置した諮問機関の調査報告書によると、その内容はNSAのスパイ活動の正当性を明確に否定するものだった。

グリーンウォルド氏は、ユビキタスな監視システムは、抗議活動などの抑圧や制限を進めるだけでなく、人々の意識下における「反対意見」すらも殺してしまうことにつながることを、1975年のスタンフォード大学の心理学者によって行なわれた大規模実験「監視の萎縮効果」を引用しながら述べている。またイギリスの哲学者ベンサムの「一望監視装置」を引用し、「監視されている」という意識を囚人に植え付けることが、服従、盲従、予定調和的な行動を導くという主張をしている。

つまり監視システムは、「観られている」という意識を人々に埋め込むことで、人々に同調的な行動を求め、反対運動を起こさせないようにし、社会の「異端」を排除し、多様性を否定した社会へ導くことになるのだ。「私は、隠すものなんてないから関係ない」という個人的な問題ですまないのはこのためである。民主社会に不可欠な政府を監視するジャーナリストや市民を沈黙に陥れる危険性があるということなのだ。

NSAの監視システムの問題点は、個人のプライバシー、ジャーナリスト・内部告発者の保護の点に目が行きがちだが、本質的には、こういった核心的な問題をも浮き彫りにしたことも忘れてはならない。

さらにグリーンウォルド氏は、政府による監視活動と圧政についてより大きな文脈で以下のように語っている。

「欧米諸国の権力者たちが、なぜ自国民を対象とするスパイ活動のユビキタス監視システムを築こうとするのか、その理由を理解するのはむずかしいことではない。近年はもともと経済格差が各国で広がりつつあった。その流れが2008年の金融破綻によって本格的な危機へと発展し、いくつかの国の国内情勢が著しく不安定になった。スペインやギリシャのように最も安定していた民主主義国家においても、国民のあいだに大きな不安が広がった。2011年、ロンドンでは何日にも及ぶ暴動が勃発。」

「そのような社会不安に直面した政府は、次に挙げるどちらかの意見にたどり着くことになる。象徴的な譲歩によって国民を落ち着かせるか、自分たちの利益へのダメージを最小限に抑えるために支配を強めるか。欧米の政治エリートは後者の選択—自らの権力を強める—を最良と考える傾向があるようだ。」

そもそも政府機関が監視を強めている背景には、ここ数年で勃発している暴動や大規模抗議活動、反対運動などに対して、抑圧的に反乱異分子を対処もしくは、防止するためということ。しかしそもそもなぜ、そのような暴動や抗議活動起きているかといえば、そのひとつの理由に経済格差が引き起こす社会不安だとしているのだ。かくして強権的な政治が先進国間でのスタンダードととなったというロジックだ。

監視を逃れる手段はある

スノーデンの暴露後に最も需要が高まった市場のひとつに「匿名化ウェブサービス」が挙げられる。現在のGoogleを代表とするウェブ検索エンジンは、利用者の検索言語、履歴、個人情報をもとに検索結果を表示する。そして広告にもそれを反映させる。例えば現在ドイツに住んでいる筆者には、あるページに飛ぶと必ず抗広告欄に「ドイツ在住の日本人の皆様」という文言から始まる求人情報が表示される(日本語で)。これは一見便利で合理的であるがそれが、米国の国家安全保障局(NSA)がGoogleやFacebookから情報を入手しているというのだから、匿名化サービスの需要が高まったのは自明だ。

DuckDuckGo はまさにその代表格で、ネットの検索をGoogleのようにユーザーの嗜好に応じた検索結果を表示するためのトラッキングを無効にして匿名でネットサーフィンができるようにしてくれるサービスだ。実際にNSAの暴露後は利用者の数が急上昇した。 Startpageという検索エンジンもGoogle検索のクオリティを失わずに検索結果を表示することができる。StartpageはGoogleに検索言語や情報を提供しているが、利用者の情報を除外してGoogle経由で情報を検索することによって匿名性を担保している。

最近ではエンドツーエンド暗号(end-to-end-encryption) が、諜報を避けるための標準的なツールとなってきた。これは様々な媒体を通じて利用することができる。例えば、Eメールの暗号化はPGP (Pretty Good Privacy) 、チャットはOTR (Off the Record) 、など携帯アプリではThreemaやTlelegramなどがドイツではFacebookがメッセンジャーアプリ(Whatsapp)を吸収した後から人気になった。(LINEはどうなんでしょうね?)

若い世代の新たな取り組み

実は、別記事でも書いた通り、欧米の若い世代はスノーデン氏の暴露を支持しているのだ。ワシントンポストが実施した世論調査によると、アメリカの30歳以上の大人の57%は「スノーデン氏の罪を問うべきだ」としているが、これは30代以下の若者ではわずか35%という数字だ。56%の”若い大人”たちは、氏がNSAの文章を公開したことに対して「正しいことをした」と応えている。 ヨーロッパの若者も、欧州青少年調査によると、「全人口を対象にした大衆監視プログラムはテロとの戦いのためには正当化されるか」という質問に対して、16歳から27歳の欧州の若者の62.3%が正当化されないと「反対」の意を表した。

ヨーロッパの政治家は、これに応える形で、アメリカのインターネットサービスや政策を再考し,ヨーロッパにおけるデータ保護の重要性と必要性を訴え始めた。しかしこれで十分ヨーロッパの若者の声が反映されているかといえばそれは疑問だ。しかし新たな取り組みも生まれている。NERDYは、比較的新しいネットワークで、デジタル社会の未来づくりに参加する必要性を感じた若い活動家と数多の国際組織の主導によって生まれた。その他にも、この6月にベルリンで開催される“ユーロデジ2014” (EuroDig 2014)という欧州審議会や委員会などが主催する(共催に皮肉にもGoogleが…) イベントに若い世代とインターネットガヴァナンスに関するセッションが設けられている。

このような国際的な文脈のなかで、日本はどのような位置づけとなるだろうか。 日本では特定の公務員が国家機密情報を内部告発したら処罰をうける(日本版NSA)「特定秘密保護法案」が昨年暮れに通過した。

安全保障と知る権利に関する国際ルール「ツワネ原則」(2013)の策定に深く関与したハルペリン氏は今月7日、都内で会見し「日本の秘密保護法は国際原則からも逸脱・違反し、米国の同盟国の中でも最悪のものだ」とコメントした。その理由として、「民間人・ジャーナリストに刑事罰が課せられていること。公務員に対しては解雇など行政処分が国際原則であるのに、日本の法律は刑事罰になっていること」「内部告発者の保護も十分でない」と報じられている。

同法の成立によって、世界の報道自由度ランキングでも順位を落としたことも忘れてはならない。国際的な文脈でも真逆の方向を向いている日本が、さらに強権的な政治の監視の利用により、ジャーナリスト、政治家、そして私たち若者の社会への「(建設的な)反対意見」の芽すらをつむことにならないことを祈る。

【引用した本】